10-2. 襲撃 2
本日は行けるところまで、1時間ずつ更新します。こちらは4話目です。
「現段階でわかったことを話しておきましょう」
アルフレード王子は手を振って全員を座らせると、まるでお茶菓子を選ぶような口調で説明し始めた。
「この国で力を使えば誰であれ、その特徴を示す痕跡が残るものです。匂いでも色でも、かすかな気配でも。そして、王子である私だけが、あらゆる痕跡を見分けられます。ですが、この痕跡はわからない。たしかに痕跡はあるのに、この国の種族のどれにも一致しません」
「王子が知らない種族もいるんじゃないんですか?」
「お妃君、それはあり得ません」
ヴァリューズ侍女長が諭すように言い、全員がうなずく。
釈然としない沙良に、アルフレードは言葉を継いだ。
「これは能力や権力の問題ではありません。王族の体質なのです。サラも、自分の体のどこかがかゆければ気づくでしょう?」
同じことです、と言う王子に、追求はしなかった。つまりここはそういう世界で、王子はそういう生き物なのだ。
「そうすると、どういうことになるの?」
「今回は、複数の種族の能力をブレンドして使い、痕跡に目くらましの術をかけていますね。すなわち、それほど高度な能力を駆使できる者は、この国でも数えるほどしかいないということです」
人間の反対派は議員の中にもいる。この広く古い国に12人しかいない議員なら、当然魔力も、ほかの種族を従わせるほどの権力も持っているだろう。
「つまり、アルには、的が絞れているということ?」
訊きながら、納得がいった。だからアルフレード王子は、沙良の周囲を疑っていないのだ。
こんな確実な現場検証されるとわかっていて、沙良に近い人たちが実行犯をやるわけがない。
「ええ。ですが、私の予想を上回る攻撃だったことも、事実です。なにより、私たちは沙良の寝室には何重ものガードをかけておいたのに、それも破られてしまいました」
アルフレード王子は、眠るとき一人きりになりたがる沙良の身を案じて、多くの者の力を撚り合わせていた。 ヴァリューズ侍女長。イルク。リーナ。そして、沙良自身を守るシルクの力。最後に、王子自身がシールドを張っていた。
「けれど、すべて破られました」
「え? 王子のシールドも?」
「ええ。――内側から補助の力が加わると、シールドの効き目は弱まります。サラ、リーニィの涙の結晶をクローゼットに入れていましたね。リーニィの力は、私と親和力があります。あれが媒介となって、雷を呼びこむ隙をつくったようです」
「――そんな……っ」
いったん立ち直った活力が崩れていく。沙良は、自ら警備に穴を開けてしまったのだ。
「リーニィのティアドロップは、魔力を増幅させるアイテムなのです。私もヴァリューズも、あの箱には封印呪を施していました。それでも破られたのですから、やはり相手の力が強かっただけです」
「じゃあ、アルは、シールドが敗れたのを感じて、すぐに来てくれたんですね。私にシルクをかぶせてくれたのは、アルでしょう」
「ええ。――ですが、実際にサラを救ったのは、ゴザシュ大臣ですよ」
「えっ、カローさん……」
あまりに意外な名前が出て、沙良は呆気にとられた。
「カローの力もシールドに使わせてもらっていたのです。シールドが破れた瞬間、私はサラの部屋に飛びましたが、まさに間一髪でした。その一瞬の隙を、カローが埋めてくれました」
ヴァリューズ侍女長がはっと顔を上げたのと、イルクが突然部屋の中央に戻ってきたのは同時だった。
「それでは、ゴザシュ大臣は」
「アル。連れてきたぞ」
イルクの隣には、クマを思わせるビール腹の男がいた。
ヴァリューズ侍女長以下、全員が最高礼をする。アルフレード王子がその恰幅の良い男性を沙良に紹介した。
「サラ。議会の軍事を司るシターデル近衛隊長です」
「これはお妃君。この度のご心痛、お察し申し上げる。このような時ではありますが、お目にかかれて恐悦至極」
お腹をゆすりながらいっそ朗らかといってもいい声で朗々と挨拶し、シターデル隊長は沙良の手を取った。
「我々近衛の部隊も鋭意捜査に励みますので、お妃もお心強くお待ちください。必ずや王子殿下が不埒者を捕らえてくだされましょう」
「……はあ。こちらこそ、よろしくお願いします……」
近衛なら、逮捕はあなたの仕事ではないのかと思った沙良の戸惑いには頓着せず、シターデル隊長は、ややっと胴間声を張り上げる。
「キリエスキ! 近衛隊からお妃君の護衛に抜擢されたというのに、此度は大失態だな! 今後一層精進せいよ!」
「申し訳ございません、長官!」
ビシッと敬礼するキリエ。
「あいかわらず硬いな、おまえ! 幸い、お妃君はご無事だったんだ。これから手柄を立てろ!」
わっはっはっはと笑うシターデル隊長は、やはりキリエの元上官のようだ。
(あ~。こういう常務、会社にもいたなー。ハンコもらうとき、みんなタヌキ参りって言ってたっけ……)
その常務は、日焼けした顔に太い黒ぶちのメガネだったのだ。
シターデル長官をしげしげと見つめると、第一印象のクマより、巨大タヌキのほうがずっと近い。
とはいえ沙良も、こういう連想が名を捕ってしまうとすでに学んでいるので、口には出さなかった。




