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9-2. 美男子たちの密談 2


本日は4話更新しています。こちらは2話目です。




 アル王子が、沙良にぶつかってくるようになった。

 ケンカする、という意味ではない。文字どおり身体をぶつけてくるのだ。どう考えても、故意に。

 沙良が庭を散歩していると、突然、王子が降って沸いてくる。痛くないギリギリの強さで沙良を転ばせ、「ああっ、申し訳ない!」とかなんとかわざとらしい声をあげて、沙良を抱き起こしてくれる。吹っ飛んだスズシロ様を拾ってくれ、えらく長く両手を握られたこともあった。

 あげく、唐突に沙良のリビングルームのど真ん中に“曲がり角”を設置した。板2枚を90度に立てただけの意味不明なもので、お互いに逆方向から歩き出して、ぶつかりたがる。


「……学園ラブコメかよっ」

 

 うっかりつぶやいてしまったら、


「おお、やはりサラには分かるのですね! このような身体接触で、人間の女性は恋に落ちると聞いたのですが」


「誰ですか、そんなアホなことを王子に吹き込んだのはーっ」


 嬉しそうに言われて、怒鳴ってしまった。

 結果、アルフレード王子殿下とイルク公爵子息を並べて座らせ、懇々と説教をかますこととなった。


「基本どころか、本質が分かってない! 恋愛感情ってのは形から入って獲得するものじゃないんですっ」


「そんなことはない。まずかたを完璧にトレースすれば、それにふさわしい感情が形作られると、スタニスラフスキーが言っていたぞ」


「誰です、それ……」


「有名な演出家。人間だぞ」


 イルクが堂々と主張してきて、疲れが増した。


「……ムリヤリ恋愛感情を芽生えさせるって、どう考えてもおかしいでしょう」


「アルもサラも、ンな感情ないじゃないか。だが婚姻はするんだ。サラにだって、恋愛感情があったほうがラクじゃないか?」


「う。そ、それはたしかに……。わたしもそういうこと全然考えなかったわけじゃぁ……、はっ! 説得されかかってどーする、わたし! だからっ。人為的に恋愛に当て嵌めようとするのは、反対ですっ」


「人為じゃない恋愛なんてあるのか?」


 澄んだ瞳で訊かれて、だんだん混乱してくる。


「ご、強引に人の感情を動かそうとするのって、ダメだと思うんですよっ」


「だがイルクが持ち帰った参考文献では、スパダリという人種はかなり強引に迫っていたが……。女性の側も、それを喜んでいるようなフシが見られたし」


「……てか、スパダリなんて人間は実在しません……」


「そうか! やっぱりあれは妖精王アルのことなんだな?」


「ちが――――――うっ」


 どこの世界に、会社で残業していたら廊下で妖精王とぶつかってこぼしたコーヒーを拭いていたら恋に落ちてあっという間にイチャイチャする女がいるんだ!!


「なるほど。サラは、そういう恋愛の入り方が好みなのですね。了解しました、完璧に再現しましょう」


「えっ、今の声に出てた!? いや、ぜひやめてくださいっ、ホントに、心からやめてっ」


「それなら、どういう形ならいいのです。――そもそも、サラも悪いのですよ。私は何度もサラの好みを訊いているのに、一度もまともに答えをいただけていない。試行錯誤するしかないでしょう」


「アルの言うとおりだ。サラはダメ出しばっかじゃないか。おまえから見たら俺たちは見当ちがいな事を仕出かしてるのかもしれないが、だったら修正案を提案しろ」


「う。そ、それは……」


 形勢逆転と見たか、王子もイルクもゆったりと座り直し、脚を組んだ。

 小さくなった沙良のほうが叱られているようだ。

 けれど、言えるわけがない。

 まさにその、スパダリが出てくるオトナの恋愛マンガが好きです、なんて。


(は、恥ずかしい、のもあるけどっ。口にしたら最後、この人達、絶対実行するよね!?)


 人間とは羞恥心も異なるみたいだし、顔色ひとつ変えずに歯の浮きまくる激甘セリフを語り続けるアルフレード王子が、まざまざと想像できてしまう。想像だけでも気絶しそうだ。

 そして申し訳ないけれど、本当に目の前でマンガ的なスパダリ恋愛劇場を繰り広げられたとき、自分が恋に落ちるとは思えない。

 たぶん、爆笑するか具合が悪くなるかのどちらかだと思う。


「サラ?」


 促されて、我に返る。

 スパダリ劇場、ダメ、絶対。


「わたしの好みについてはいったん持ち帰らせていただいてっ。と、とにかく、その参考文献! そんなのファンタジーですからね? 信じちゃダメです!」


「だが、現代女子の憧れが詰まってると、紹介者は自信満々だったぞ」


「ま、まあ、憧れって言われたらそうですけど。じ、実現しないのが夢とか憧れでしょ?」


「サラが何を言っているのか、正直よく分かりません」


「俺も。――ああ、待てよ。紹介者が言ってたのって、これか。恋の憧れが実現しそうになると怯えて逃げる種族がいて、モジョ? とか……。サラはモジョなのか?」


「――スパダリ劇場は全面禁止!! 参考文献は没収!!」


「はあ!? おま、俺の努力をっ」


「サラ、私も本当に困っているのですが」


「るっさいわ! 人間の女性はとぉっても感情的な生き物なんですよ! わたしがダメっつったらダメ!」


 人間界での沙良の持ち物が入っているクローゼットに、マンガをまとめて放り込む。

 イケメン2人の、


「おい、たしか夫婦は夫が妻の尻に敷かれているのが健全、とかってセリフあったよな」


「――ああ! それでは、いまの私たちの状態は健全な夫婦なのか」


という意味不明な会話は、聴こえなかったことにした。

 結局、唯一の成果は、頻繁にぶつかられたせいで、急に至近距離でアルの顔を見ても動揺しなくなったことだ。

 慣れってすばらしい。





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