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7-4. 導火線 4


本日は2話更新します。こちらは2話目です。





 会議が終わり、サラの部屋に行くと告げて、アルフレード王子は目でイルクを誘った。

 2人で、王子の私室に入る。この程度の目くらましでも、やらないよりはマシだ。

 王子が簡潔にひと言で訊ねた。


「おまえの見立ては?」


有罪ギルティ。父が黒幕だ。だが、水の協力者がいるはずだ。それが分からない」


「……今回の内乱で、エスターク公爵を疑う者などいないだろうな」


 使われている力は水、風、土。そして反乱の鎮圧に自ら乗り出したのは、エスターク公爵の子飼いであるゴート将軍だ。


「分かってる。でも、父が黒幕だ」


「私以外の誰も、そんなことは信じないだろうね」


「アルが信じるなら、それでいい。……生まれた時からあの怪物と付き合ってんだぜ、俺は」


 少しだけ声に余裕が戻ったイルクの肩に、王子はぽん、と手を置いた。


「分かった。エスターク公爵が主犯だと、そのつもりで調査を進めよう。――それより」


 一瞬言いよどんでから、アルフレード王子は続けた。


「それとはべつに、私がいま気になっていることがある。リーニィが、どうしてもサラと茶会をしたいと」


「茶ぁ?」


「ああ、めずらしく、水の公爵も強硬だ。このままだと、リーニィとサラを会わせないわけにいかない。――私は、サラの鍵を盗んだのは、水の公爵の手の者ではないかと思っているんだ」


 サラの家の鍵が盗まれたことは、イルクにも知らせてある。

 本人はあまり気にしていないが、家の鍵はひじょうに重要なアイテムだ。

 妖精は、基本的に自分からは人間に関与できない。人間の側から話しかけてもらえなければ会話できないし、招待してもらわなければ人間の家に入ることもできない。

 逆に、家の鍵さえあれば、無条件の招待を受けたも同然なのだ。そのアイテムを手に入れた者は、いくらでもサラに関与できるようになる。

 イルクも、鍵という単語に反応した。


「――サラの部屋に大量のおれがなだれ込んだのも、それのせいか」


 王子やイルク、ヴァリューズ侍女長の力で、サラの部屋には吟味されたれしか届かないようになっている。

 だが、送信者がサラの家の鍵を持っていれば。

 それを媒介として、さすがに自分自身や武器はムリだとしても、お触れくらいなら潜り込ませられるだろう。


「このタイミングで、リーニィと茶。つまりサラは、リーニィと顔を合わせるか、反乱を鎮めに行くかしかないってことか?」


「結果を見れば、その二者択一になっている」


 王子はひとつ、ため息をついた。

 人間にはまだ理解しがたいようだが、王子がその気になれば、この反乱の実行犯など一瞬で割り出せるのだ。なんなら反乱そのものも文字どおり消し去ることもできる。

 だが、ある程度力のある種族なら、そんなことは皆知っている。

 そのうえでこの反乱を利用しているのなら、そこには隠された目的があるはずなのだ。

 エスターク侯爵が黒幕なら、仮に王子が国の至るところの記憶を読み返したとしても、バレるような行動をしていないだろう。


 つい先ほど、王子は、


「いざとなれば、私が親征を行い、反乱を鎮める。サラが現地に赴くのは、私の親征に同行するときだけだ」


そう言って、会議を終わらせたのだ。

 だがそのぶん、イルクを現地に派遣するという話も立ち消えてしまった。


「我々は、エスターク公爵にいっぱい食わされたのかな。彼は本当は、イルクを反乱の現場に行かせたくなかったんじゃないか」


「さてね。公爵がどこまで計算しているか、俺にも分からない。あの人は、すでに出来上がっている状況を利用するのがとてつもなく巧いから」


 実際ゴート将軍は、エスターク公爵にそそのかされて鎮圧に出たわけではない。彼はむしろ、ここで武功をあげたいと意気込んで立候補してきたのだ。

 将軍は王子に向かって、「手柄を立てて戻って来たら、イルク坊ちゃまと公爵様の仲を取り持ちたいもんですわ!」と豪快に笑って、出かけて行った。

 公爵に利用されている(と思われる)水の精霊も、自分が利用されていることにまったく気づいていないだろう。


「で? どうするつもりだ」


 幼なじみの短い問いに、王子も短く答える。


「決まってる。リーニィと茶会一択だ」


「まぁなー。そっちのほうがまだ安全だよなー」


 アルフレードは、サラに身の安全を約束した。あんなに努力している彼女に、現状唯一与えられるものが最低限の安全だけとは。

 さっさと王妃になってくれれば、同じ部屋で過ごせて、警護も格段にラクに厳重にできるのだが。


「イルク。少し相談がある。どうもサラは、私のことを上司としか思っていないらしい。もう少し仲を進めるにはどうしたらいいだろうか」


「ああ? おまえ、それいま言うことかよ?」


「これはこれで大事なことだ」


「そうだけどさ。……あー、思うに、アルの恋愛観ってかなり古いんじゃないかと。言っただろ? 最近の人間は恋愛したがるんだよ」


「恋愛」


 全能の王子にしては情けない声を出してしまい、イルクに笑われた。


「ははっ。たとえばさ。もうサラとデートしたのか?」


「デート……それは、2人だけで会うことか? たしか未婚の女性は、シャペロンがいないと男性と出かけてはいけないはずだろう」


「だーかーらっ、いつの時代の話してんだよ! シャペロン(年上の付き添い女性)なんざ、人間界じゃ100年以上前に廃れちまったぞ」


「そうなのか」


「あーもー」


 ぐしゃぐしゃと髪の毛をかき回しながらイルクが続ける。


「まあ、でも、デートの基本って2人で飯食うことだからな。おまえらそれはやってるだろ?」


「朝食と夕食は摂っているが……」


 つい言葉尻がしぼんでしまう。


「なんというか、ああ、サラが言っていた。朝食は朝礼のようで、夕食は業務報告のよう、らしい」


「なんだそれ。仕事かよ」


「だからどうも、サラはそう思っているのだ」


「なぁるほど。予想どおり難題だなぁ、あのお妃君は……。わかった。現代日本の一般女子のデート事情とやらを、少し調べてみるよ」


「よろしく頼む」


 秘密の情けない話し合いが終わり、今度こそサラの部屋に行こうと二人は立ち上がる。

 イルクがひっそりと笑った。


「ま。俺は、こういうアルも見られて嬉しいよ。おまえって基本なんでもできるじゃん?」


 楽しげな幼なじみに、ふと、自分の能力のほとんどはサラに通用しないのではないか、と王子は思った。



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