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1. 絶対の白


本日2話目です。


明日からは毎日正午更新予定となります。





“…………み”


 白い空間に、沙良は漂っていた。


“……き……み”


 ペンキのように真っ白な空間は上下もわからず、重さも感じない。


「な、なにこれっ?」


“お……さ…………み”


「え、誰かいるの? ぅわっ」


 支えがないので、少し辺りを見渡しただけで身体がぐるんぐるん回ってしまう。


「ちょ、ここどこよ? てか、誰かいるんなら、助けてくださーい!」


“これ、話を聞かんか!”


「ひょえっ?」


 いきなり大声が響き、沙良が固まる。


“――次のお妃君きさきぎみはなんと粗忽な。まあよい、そなたが次の……の妃じゃ”


「次の、なに? え、妃!?」


 慌ててあちこち見渡し、またでんぐり返ってしまった沙良の耳元に、ため息らしき音が届く。


“ほれ、止めてやろう。落ち着かんか、みっともない”


「あ、……どうも」


 座った姿勢で、ぴたっと安定した。

 あいかわらず浮いたままだけれど、とにかく人心地つく。

 そういえば、最初からこの声は聴こえていた気がする。今いきなり周波数があった感じだけれど。


“ツヅキサラ。転職を命じる。ネレスィマナンの王妃となり、王を助け、良き国を造るがよい”


「は!? 造るがよいってなに! え、王妃!? いや、それって転職ですかね!?」


 脳みそに直接言葉が押し込まれた。


“粗忽なうえに支離滅裂な娘じゃの。まあ、かの国の王子は優秀じゃ。励むがよい”


ザツ! いや、えっと、その、お断りします!」


“却下じゃ。そなたに拒否権はない”


「ンな勝手に決められても! わたしの意思は? てか、あなた誰なんですかっ」


“天/絶対意思/神/世界/みなもとの力/宇宙/集合体/完全な白/唯一の存在/大いなる海/最高位/声”


 似たような、いや、ばらばらな単語が頭の中に同時に炸裂した。

 処理しきれなくて、くらっとめまいがする。


「……っ?」


“異なる次元の世界に渡るそなたに、どの種族とも通ずる言語能力を授けよう”


「いえっ、あの、そんなのより、命令の取り消しを、……っ」


 頭をかき混ぜられている感覚が気持ち悪い。


(わたし2晩徹夜なんだけど!? 連続でんぐり返しの挙句これってっ)


「ひどいですよ! 神様だかなんだか知りませんが、横暴すぎます!」


 さわ、と周囲が揺れた。なんとなく、戸惑っているような空気だ。


“……まさか嫌なのか”


「さっきからそう言ってますよねっ?」


“ふぅむ……”


 心底意外そうな響きがする。けれど、沙良の期待もつかの間、“声”はあっさりと答えた。


“折り合いをつけるしかあるまい。もう決まったことじゃ”


ザツ(2度目)!」


“そう嫌がることでもないぞ。なにせ、かの国の王子は、ここ最近のあらゆる次元世界で生え抜きの()()()()じゃ”


 なだめるようにおもねるように、“声”は沙良を説得し始める。


“眉目秀麗、温厚篤実、柔和にして誠実。王としても生物としても、あまねく塵界(じんかい)において最高の優良物件じゃ”


 なんだろう。

 神様(たぶん)の言葉だから嘘ではないのだろうけれど、ここまで手放しに褒められると逆に不安しか感じない。


(てか、これって押し売りだよね? まっとうな社会人が乗っちゃダメなヤツ!)


「クーリングオフ不可の商品を絶賛されても、信用できませんっ」


“な”


 ひどく人間くさく、“声”が絶句した。


“地球人類の日本産、28歳。女性割合74%。……んむ、多少女性成分が少なめとはいえ、この階層ならば優良物件との婚姻を望むものであろう? そなた……そうとうの変人なのじゃな”


「なんかいろいろ失礼! てか、ちがうしっ」


 なぜ、沙良のほうがおかしい扱いなのか。

 どこを見ればいいのか分からないまま、とにかく叫ぶ。


「結婚相手は自分で探します! 押し売り断固反対! わたしを家に返してくださいっ」


“それはできん。……ん~む、困ったのう”


 本当に困り果てているような“声”と同時に、周囲の白がへにょへにょと揺れる。

 パッ、と白が光った。


“それでは出血大さーびすじゃ。そなたにもう一度、転職の機会を授けよう。――かの国で、魔法使いに”


「はい?」


“ネレスィマナンのお妃君となるか、唯一無二の魔法使いの道を歩むか。良き国を造るがよい”


 周囲の白が明滅し始める。

 暗くなるたびに、身体が沈んでいく感覚がした。


「実質選択肢ないじゃん! 日本に戻せー―――っ」


 わめく沙良を、明るい“声”が包む。()()はやりきった感で満ち溢れていた。


“心配ない。神託はった。――そなたの活躍を楽しみにしておるぞ”


 瞬く白が限界まで眩しくなり。

 沙良は、また投げ出された。――次は、暗く広い空間に。


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