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5-6. 結婚は、しなくてもいいはず! 6




「……サラのおっしゃることも、分かるのですが……」


「だから冷静すぎだっつの。おい、このお妃君に説明して分かんのかよ?」


 沙良はむっとした。昨日のリーニィ姫なんかより、目の前のイルクのほうがよほど失礼だ。


「はばかりながら会社員歴6年。どろっどろの出世レースに巻き込まれたこともあるので、権力争い関係のお話にもそこそこついていけますけど」


 がばっとイルクが身を起こす。


「そう、それだよ、権力闘争! それに女の嫉妬がからむわけ! どーよ、この2つが最高レベルって面倒くさそうだろ?」


 思わず、沙良も顔をしかめてしまう。沙良とて、べつに出世争いや恋愛問題が好きなわけではない。


「リーニィは水の公爵の長女なんだが、まーワガママなお姫様でよ。まあ、あの子がきゃあきゃあ惚れてる分にはかわいいもんだが、一族がそれを見逃すわきゃねーわな。1,000年もの間お妃君が現れなかったんで、せめて王妃だけでも先に立てるべきだって主張してたのが、水の公爵閣下。つまりは、自分の娘を娶れってこった」


「はあ、なるほど~」


「そうなったら当然、ほかの一族も王妃候補を差し出し始める。つっても、まあ、王妃とお妃君が別人でもかまわないって事実を知ってるのは高位貴族だけだから、それほど数はいないが、こういうのは数じゃねーだろ。誰を選んでも問題ありまくりだ」


「うん。そりゃそうですよねー」


「で、だ。妖精ってのはたいがい、ものすごーく嫉妬深いんだよ。人間の嫉妬なんて目じゃねーぞ、たいてい命のやり取りにまで発展するからな」


「うわ、こわっ。あーそれで王子も、王妃様を決められなかったんですか。たいへんですね~」


「サラ……完全に他人事ひとごとですが。現状では、殺される筆頭候補は、あなたなんですよ」


「ええっ! なんでっ?」


 スズシロ様を抱きしめて座り直したら、王子が疲れた声を出す。


「お妃君だけは、“絶対者”から賜る者。この国のどんな高貴な者にも、操作も抵抗もできません。そして過去何代にもわたってお妃君が王妃となることは慣例化しています。お妃君が王妃になるのが、いちばん平和なのですよ」


「だが、お妃君が現れるまでに時がかかったせいで、妙な事を考えるヤカラが出始めた。自分の身内を王妃にて、ジャマなお妃君は存在しなかった状態に戻せばいい、と考えてもおかしくないだろ?」


「そ、存在しなかった状態……」


 この場合、親切に日本に送り返してくれるというわけではないだろう。

 沙良の考えを読んだかのように、王子がちらっと視線をくれる。


「新しく王妃となった者に時間管理を学んでもらい、日本に返してもらいたいと願うのは、かなり危険な賭けです。現在の筆頭王妃候補はリーニィですが、彼女が夫を、つまり私ですが、サラと2人で分け合うという状態を一瞬でも認めるとは思えません」


「ええええっ。いえ、わたし、お2人のジャマはしませんからっ。ここでひっそりと生きて、リーニィ姫が時間管理をマスターしたら、さっさと帰りますからっ」


「妖精は嫉妬深いつっただろう。それまでに生きていられる可能性は限りなく低いぜ」


「そんなぁ~。ひどいよぉ……」


 昨晩考えたような、結婚か死か、という状況ではないけれど、結婚に命がかかっていることはまちがいないらしい。

 なんでこんなひどい状況に投げ込まれたんだ。

 思わず頭とスズシロを抱えた沙良に、王子の申し訳なさそうな声が響く。


「完全に私の事情ですが、サラに王妃になっていただくのが、もっともよい方法なのです。ですが、サラにも有利な点があります。サラ自身が王妃になれば、誰より早く確実に自分を人間界に戻してあげられます。そのために、王妃となればよいのでは?」


「だな。リーニィほど嫉妬深くないのが王妃になっても、そいつが時間管理をマスターできるか、人間界と相性がいいかは、また別の賭けだ。あと、護衛の立場から言わせてもらうと、お妃君と王妃が別人で、しかも殺し合う関係なんざ、守り切れる自信がねーよ」


「殺し合ったりしませんっ」


「じゃ、黙って殺されるのを待っとくんだな」


 反論の余地もなく、沙良は黙り込んだ。

 昨晩、リーニィ姫の呪いで、沙良は火傷した。あれはまさに、警告だったのだ。軽い火傷で、しかも王子がすぐに直してくれたけれど、その気になればリーニィ姫は、沙良を即死させる手段すら取れるのだろう。

 常識も生活様式もまったく異なる世界で、沙良が自分で自分の身を守れる可能性はゼロに近い。


(転職。あの“声”はそう言ってた。お妃君と王妃という、この国の時間管理の仕事に就く。報酬は身の安全と、いつか日本に帰る技術の習得)


 そう考えれば、決して悪い条件ではない。

 沙良は、きっぱりと顔を上げた。


「分かりました。じゃあ、王妃になります。――ただしっ」


 顔じゅうに喜びを浮かべる王子に、びしっと告げる。


「いわゆる人間の結婚生活みたいなのは、ナシでっ。世間に、わたしが王妃だと広めるだけでも、じゅうぶん時間稼ぎになりますよね?」


 その間に、沙良は必死で時間管理の方法を学び、少しでも早く地球と行き来する方法をゲットする。


「てことで、時間管理についての勉強は今すぐにでも始めたいです! あと、身辺警護については真剣によろしくお願いしますっ。わたしからの条件はこの2つで!」


 この契約が正しいかは、分からない。

 仕事でもこういうことはある。条件を精査し、最良の方法を理解はしても、これでいいのか頭の片隅に疑問が残る。

 そんなときは、走りながら考えるしかない。ちがうと分かったら、修正しながら一度決めた道を進むのだ。


「ありがとう、サラ。あなたの安全は、必ず確保します」


 笑顔で差し出された王子の右手を、沙良は鼻息荒く握り返した。




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