プロローグ
新連載です。
これからがっつり1ヶ月、更新していきます。
お楽しみいただければ幸いです!
本日は2話アップいたします。
しっとりと身体を濡らす雨に、ふわりと沈丁花が香る。
坂を上りきって、土月沙良は大きく息をついた。抱え直したエコバッグから大根がのぞいている。
「やっと……。やっと休みだぁ~」
昨年度から続いていたプロジェクトが最終段階で揉めまくり、ここ2か月はとんでもなく忙しかった。
本日午前中にプレスリリースが無事終わり、3日ぶりに帰宅できたのだ。
「うう、やっぱり重い。いくら安いからって、大根丸ごと一本は無謀だったか……。いや、今日は絶対ふろふき大根とビールだっ!」
駅前の八百屋で見かけた破格のお値段に、ふらふらと買い求めてしまった。
地獄のような残業三昧と今日の達成感が合わさって、ちょっとテンションがおかしい。そういうときの買い物は危険である。
反省はしたけれど、大根に後悔はない。
沙良は、坂の上のワンルームマンショにたどり着いた。郵便受けがぱんぱんに詰まっている。
「チラシとかほとんどいらないのにな~、って、あれ?」
最後にポストに残っていたのは、空色の封筒だった。
「わあ。いまどき手書きの手紙って。誰だろ~?」
パソコンの入ったビジネスバッグとエコバッグを両肩に、傘を手首にかけ直す。
空色の長方形に指が触れた、その瞬間。
――沙良は白い空間に投げ出された。