プロローグ
なぜ私たちはこんな場所で苦痛を強いられているのだろうか。
両手は壁に固定され、何の身じろぎもできない状態で一体どれくらいの時間が過ぎ去ったのだろうか。
見える風景は鉄格子と血液、そして考えたくもないような汚物だらけの地面と私と同じように壁に括り付けられている複数の女性のみ。
彼女らの眼にはもう生気がない。きっと私と同じように一刻も早く朽ち果てることを望んでいるのだろう。
数日前まで私は希望を持っていた。青空楓、近くにいるだけでどんな苦難も楽しく乗り越えられそうな気がする私の親友。彼女は私と一緒の牢屋で同じように拘束されていた。どんなに苦しくても楓が居ればなんとか持ち直せるような気がしたんだ。
「生きて…」
彼女はそう私に言い残して死んでしまった。私も一緒に連れて行って欲しかった。ただ自死も許されないこの環境はそれすら許してくれなかった。
汚れた床を見つめながら私は考える。
あの日、あの場所で一体何が起きたのか。
私は鉄格子が鈍い光を反射する牢屋の中で、あの忌々しい日の記憶を思い出すことにした。それで少しでも現実から目を背けることができるかもしれないから。