第四話 宿場街「イラベラ」
筆がのったので、本日二度目の投稿です。
さあ最初の街へ向けての旅です。
テロップとオスカーと俺との三つ巴漫才なんぞやりながら前に見えている街に突き進む俺たち三人。
いや、一人と一台と……一個?
『私の扱いひどすぎませんか?』
いや、そんなことはないけどね。
『確かにひどすぎるわな』
『でしょー!』
なぜか悪者にさせられた俺。
そうそう。テロップの中の人にも名前をつけた。その名も「トダさん」。
そう、「さん」までが名前だったりもする。なぜそんな名前にしたのかって?
そりゃ有名字幕翻訳家のあの方に擬えて──
因みに、トダさんという名前をつけたところ、それまでオスカーを呼び捨てにしていたのに、なぜか「オスカーさん」とオスカーをさん付けで呼ぶようになった。
なぜに?──
☆☆☆ ☆☆☆
その後も変わった三人ですすんでいくと街の入り口に着いた。
入り口の前には数人の槍を持ち鎧をきた兵士と思しき男達が何やらチェックしていた。中には入場を断られている者もいて、暴れ回る者もいた。そういう者達は兵士に捕らえられて腕ごと復位をロープで巻かれて連れて行かれていた。つまりは逮捕されたのだろうと思う。
「ねえトダさん」
『はい、なんでしょう?』
「あのたぶん逮捕されてる人達ってあれからどうなんの?」
『この世界には奴隷制度があるので、おそらくそのまま奴隷に落とされる者だと思われます』
「奴隷制度なんてあるんだ」
『地球でも昔はありましたよね』
「確かヨーロッパとか古代エジプトとかではあったみたいだね」
『それと同じだと考えて良いと思います』
「なるほど」
『ワイらも気をつけんといかんね兄さん』
「そうやね。とりあえずこの世界の法律的なこととか常識はトダさんにお願いするよ」
『お任せください』
『心強い仲間やね兄さん』
「だね」
『主人のお力になれるよう善処させていただきます』
「うん、頼むね」
『御意』
そんな話なんぞをしていると──
『兄さん、街に入るのにカネが必要らしいで。兄さんこっちのカネ持っとんの?』
ピンポーン!
オスカーの声に被るようにチャイム音が鳴った。
『主人、ウェストポーチの入れてある小銭入れの中を見てみてください』
トダさんに言われるまま、ウェストポーチの中にある小銭入れを出して中を見てみる。
そこには、日本の硬貨ではなく、見たこともない金銀銅貨が入っていた。というか、小銭入れのがいかんとは似つかわしくないほどに多くの硬貨がたくさん入ってた。
「えっと──なにこれ?」
『こちらのお金です』
「なんでこんなの入ってんの?」
『主人が持っている硬貨の材質をこちらの価格で評価した額に換金してあります。それから小銭入れの中は今のところ約百倍の容量になってます。今後増えたらその分内部容量が増加していきます。
また、内部容量が大きくなってますので、お金を出す時はいくら必要かを意識することで取り出しできるように改善されています』
「マジで……」
『因みに小銭入れに入っている硬貨の目録は以下の通りです』
そういうトダさんのテロップの下に硬貨の目録が記載されている。
白金貨 一三二枚
金 貨 三二八枚
大銀貨 一,〇九七枚
中銀貨 八八七枚
小銀貨 二,九九四枚
大銅貨 九二三枚
中銅貨 七五七枚
小銅貨 三,四四五枚
「えっと……これいったい日本円でどれくらいの額になるの?」
『それは以下をご覧ください』
と、またトダさんのテロップの下に詳細を出てくる。
それは以下の通り──
白金貨 百万円/枚
金 貨 一万円/枚
大銀貨 五千円/枚
中銀貨 二千円/枚
小銀貨 千円/枚
大銅貨 五百円/枚
中銅貨 百円/枚
小銅貨 十円/枚
「えっと、つまり?」
『全部で一億四千六百九万四千六百五十円です』
そう聞いて一瞬クラッと来た。
「あのートダさん──そもそも小銭入れの中っていくら入ってましたっけ?」
俺は恐る恐るトダさんに聞いてみたら──
『日本円で七百八十三円です』
「え゛……」
『七百八十三円です』
固まる俺に、トダさんはそう繰り返して来た。
「マヂですか──」
『マヂです』
またまたクラッと──。
いや、そりゃそうだろう千円にも満たないお金が一億半弱とか聞かされれば誰だってクラッとくるはず……たぶん──
『兄さん金増えたな』
と笑って言ってくるオスカーに俺は「増えすぎだ」とあえて突っ込んだ。
でもまあ、金はいくらあっても困るもんではないし──というか、大事にしていこう。
そんな会話をしていると、トダさんが
『主人背後で我々をみている三人組がおります』
と不穏なテロップを出してきた。
『ああ、赤と白、緑の髪の男達だな──』
オスカーも気付いているらしい。
ってか、気付いてないの俺だけ?これってオスカーやトダさんいなかったら俺ってただのカモじゃん!
「キヲツケヨウ」
『兄さんや、台詞がカタカナになっとるで』
『あ、オスカーさんに先越されました』
そりゃあねえ。一億半弱とかいうお金持ってて、しかもそれが狙われてるなんてなったら、そりゃセリフもカタカナになるよ。
でも本気で気をつけなきゃね。
「次の者、こちらへ」
そして、街への入場チェックが俺たちの番に回ってきた。
っていうか、言葉日本語じゃん。これは色々助かるんだけど、なぜに日本語?
『それは主人が取得している言語スキルによる者です』
あ、俺そんなの持ってるのね。
『というか主人のような転移者は、なぜか初めからこのスキルを持っているようです』
あ、そうなのね──
オスカーに兵士の前まで進ませると、
「こんにちは」
挨拶は全ての基本だよね!
『はいこんにちは。お兄さん凄い良い服着てるようだけど、この街にはどのような要件で?』
と兵士は俺を上から下まで品定めをするかのように視線を送ってくる。
まるで入管の関所みたいな感じだ。
「旅の途中でして」
まあ違いはないわな。
「そっか。じゃあ身分証明書みせてくれる?」
え゛、そんなんもってるわけ──
『主人、ここは素直に持っていないと伝えてください』
トダさんがサポートしてくれる。どうやらトダさんのテロップは俺以外には見えていないようだ。
「すみません、持っていなくて」
「そうなのか。見たところ変なのに載っているようだけど、一応念のため犯罪歴がないかを確認させてくれるか?」
犯罪なんてしてないし、ここは──
「わかりました」
と答えた。兵士は一つ頷くと、詰所の中から丸い水晶のようなものを持ち出してきた。その推奨は透明に輝いている。
「ではこれに手を乗せてくれ。のせる手はどっちでも構わない」
兵士の指示に従い、俺は利き手とは逆の左手を水晶に乗せた。これは何があってもすぐに利き手を使えるようにするためだ。
手を乗せると……別になにも反応を示さなかった。
「犯罪歴はないな」
当然だろうとか考えていたら、
「そうだ、この先身分証明を持っていないと何かと大変だからな。街の中央部に冒険者や商業者のギルドがあるから、ここで冒険者や商人の身分証明書を発行してくれるぞ」
とのこと。
つか、やっぱり冒険者ギルドや商業者ギルドなんてものがあるらしい。さすが異世界、お約束は外していないようだ。
「あと身分証明書持っていないと各地の通行料も割高にもなるからな」
という兵士さんのアドバイスも聞き、割高になった通行料の中銀貨四枚を支払い、街の中に入った。
通行料、ホント割と高いのね──
トダさん、はい、あの超有名字幕翻訳家の方の……ですね。