職業選択の不自由
さて、この世界がファンタジーな異世界ということがわかったところで、もう一つ重要な要素がある。
それが『職業』という概念である。
職業というと、一般的に定義されるのは仕事の種類であり、前世の俺は企業に勤める会社員であった。
この世界の職業では、10歳の誕生日を迎えると神殿で女神様から信託が降り、自分の持つ才能によって職業が決められるという、自由意志など全く持ち合わせていない理不尽なものであった。
そして職業には、Lvという概念が存在しレベルが上がるとそれに見合った天賦が得られるというから、まさにゲームの世界みたいだなと、この時の俺は能天気に考えていた。
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5歳になり、この世界の暮らしにも慣れてきた俺は家の書庫で面白そうな本を見つけた。
『魔力感知と魔力操作について』いかにもなタイトルである。
正直、前世で日本人だった俺はこの世界に魔法があると知った時、それはもう歓喜し何とかして魔法を使おうと試行錯誤したのだが、うんともすんともいかなかった。
「こんな本があるならもっと早く見つけるべきだった、魔法使いに一番大事な魔力総量を増やすのは、もっぱら子供の時からの訓練というのが異世界転生では王道だからな」
今からならまだ間に合うはずと意気込んで本の1ページ目を開くと
”まずは『魔術士』の職業を得た諸君、おめでとう。この本が魔法を扱うことができる唯一の職業である君たちに、自分の進むべき道を照らす一筋の光となれば幸いである”
俺はこの世界のシステムについてようやく理解し、同時に絶望して本を閉じたのだった。
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「副団長、アルフレッドのことですがそろそろ王国剣術の訓練を始めさせてはどうかと考えているのですが」
「家で副団長はやめたまえマルス君、君も家でいる時まで第一隊長でいたくないだろう」
最年少で第一隊の隊長に抜擢されたこの男(アルフレッドの父)は優秀なのだが、真面目過ぎて時々ワシの方が気疲れするわい。
「失礼しましたお義父様、それで息子のことなのですが」
「アルにはまだ早いのではないか?
ワシは10歳の神託を聞いてからでも良いと考えているんじゃがの。君の実家であるロールス子爵家と我が伯爵家の男子が代々『剣士』の職業を得ているからといっても…のぉ」
(こればかりは神のみぞ知ることじゃしの)
「万が一、『剣士』ではなく『槍士』や『戦士』であっても、心身の鍛錬が無駄になることはないかと存じます」
「む、確かに、君の言うことも一理あるか。
では明日にでもワシからアルフレッドに聞いてみるとしよう。『剣聖』の君と『剣姫』のエルザから生まれた子が、まさか魔術士の職業を得ることもあるまい」
翌日、俺はじいちゃんから剣の鍛錬をしてみないかと提案された。
何でも両親の家系は王国騎士団では名の通った名門であり、男子は代々神託で『剣士』の職業を得て『剣聖』や『剣鬼』、さらに剣士の最上位職である『剣帝』まで輩出したことがあるらしい。
だが、異世界転生チート魔法使いに憧れている俺はこれを聞かずにはいられなかった。
「おじいちゃん、うちの家系で有名な『魔術士』になった人はいないの?」
「魔術士か? うむ、わしの知る限り信託が降ったものはおらんのぉ。魔術士は詠唱に時間がかかる上、魔力切れに陥るとお荷物になってしまう故、どうしたって前衛のサポートが必要になってくるんじゃが、アルは魔術士になりたいのか?」
ふむ、じいちゃんの話を聞くと魔術士はこの世界ではイマイチなのかもしれん。剣士も悪くない気がしてきた。
それに両親とも剣士の上位職とするならば、もしかしたら俺にも剣の才能があるのかもしれない。
「じいちゃん! 僕、剣の練習するよ!」
「そうかそうか、ではアルには特別にじいちゃんが直接教えてやるからの」
「うん! 僕じいちゃんより強くなれるように頑張るよ!」
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それから4年の月日が流れ、俺は9歳になった。
「じいちゃん、今日も剣の稽古しよう!」
「アルか、はっはっは、良いじゃろうでは先に木剣を持って庭へ行っててくれんか」
「はーい」
伯爵家ということもあり、うちの庭はかなり広い。
(高校のグラウンドぐらいあるんじゃなかろうか)
「こんにちはアルフレッド坊ちゃん、今日も伯爵とお稽古ですかな?」
「うん! トーマスさんは今日も『庭師』のセンスが冴え渡ってるね」
「お褒めいただきありがとうございます。生産職の私はこれぐらいしか取り柄がございませんから」
彼の言う生産職とは、剣士や魔術士などの戦闘職に対し戦闘力の低い裏方の職業と言われている。
庭師も、生産職の1つである『木こり』から発展した職業で、庭の芝生や植物の成長を促すスキルを取得できるらしい。
「そんなことないよ! 生産職で進化するのはとっても大変だってじいちゃんが言ってたから、庭師になったトーマスさんはすごい人だよ!」
「あっしはたまたま運よく魔獣狩りに出くわしただけですから。坊ちゃんが神託を受けたらすぐにLvもあっしより高くなられますよ」
心地よい風が吹く穏やかな日
「さて、どこからでもかかってきなさい」
今日こそじいちゃんに一撃入れるべく、俺は剣を構えるのであった。




