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呪われた君主  作者: 咲乃いろは
第一章 受け継がれた君主
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命を懸ける相手

芽依とて全く何も考えていなかったわけではない。

呪いを解呪できるのが君主様なら、自分で呪いを持てばプラスマイナスゼロじゃね?ぐらいには思っていた。それをバスティンを連れて戻ってきたユラに恐る恐る言ってみたら、案の定怒られた。予想通りである。

そんな簡単な話ではないし、それでもし君主が命を落とすようなことがあったらどうするんだということらしい。当たり前である。

だが、呪いを宿した芽依の様子を見たバスティンは何度も首を捻って不思議そうにしていた。


「おかしいですね」

「私の頭のことでしょうか…」

「うーん……」


バスティンは唸って顎に手を当てて考え込む。


「呪いを受けた身体は、通常でしたらどこか身体の一部が壊死するはずなんですが…。確かに時の呪いはメイ姫様の身体に宿っているようなんですが、どこも壊死しているようには見えませんね」

「確かに、頭のおかしさを否定されなかった心の傷以外は元気」

「本当にどこも何ともないんですか?」


ユラにも言われて芽依は改めて自分の身体と会話を試みるが、別にどこも何ともない。目を覚ます直前のあの嫌な違和感は当に消えてしまったし、バスティンがまだ寝ていろというのでベッドに横になっているが、今から100メートル走をしろと言われたら一位でもとれるだろう。芽依の足の速さには定評がある。


「特に、問題はないけど」

「うーん…、これまで君主様ご自身が呪いを受けたという事例がない為、何とも言えませんが、もしかしたら解呪できる君主様が呪いを受けると本当に壊死を免れるということになるのかもしれません」


何かの研究材料にされているのか、バスティンはバインダーで止めてある紙にさらさらと文字を書いていた。興味あり気な芽依の視線に気づくと、バスティンは一言謝ってこれは王室の史実を記録するためだと説明した。


「では、私は身をもってそのことを証明したってわけね!新しい歴史の一ページを切り拓い──…すみませんした」

「分かればよろしい」


異世界のものでも、歴史の教科書に載ることができるかもしれないと意気揚々としていたら、鋭いユラの視線が刺さってきた。


「どちらにしても、今回のような素っ頓狂なことをする君主様は後にも先にも貴方だけですよ」

「え、えーと…褒められてる?」

「呆れてるんですよ」


呆れを重ねてバスティンが溜息をつく。手のかかる君主様で申し訳ない。


「まあ、どちらにしろ、大事無いなら何よりです。問題ないようでしたら明日、出発ですよ」


本当は一昨日だったんですからね、というバスティンの言葉で、芽依が二日間も寝ていたのだのだと知らされた。

バスティンはバインダーをパタリと閉じると、食事を持ってくると言って部屋を出ていく。

再びユラが部屋に残されて、芽依と二人きりになった。




「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………何か言って」

「何か」


舐めてやがる。

不満気な芽依の顔を見て、ユラはニヤリと笑ってベッド脇の椅子に座る。長い脚なんか組んだりして、随分と態度のでかい護衛である。


「ユラは付いてくるのよね?その、呪いを葬るための旅ってやつに」

「まあ一応そうなってますね」

「呪いは私が持っちゃったけど付いてくるの?」

「嫌なんですか?付いて来られるの」

「あ、いや、そういうわけじゃ」


睨まれた気がして、芽依は顔半分だけ布団に潜る。ユラに来て欲しくないわけではない。むしろ一人で行けと言われたらそれこそ断っているだろうが、ユラは呪いを持つ役目も奪われて、付いてくるメリットでもあるのだろうかと思っただけだ。


「言ったでしょ。俺は護衛です。歴代君主様をお護り申し上げてきた」

「歴代って、あんた一体何歳なの」

「今年二十二の歳になりますね」

「あ……え?……は?」

「何か?」


歳を訊いたのは半ば冗談だったのだ。歴代なんていうから一体いつから君主様をお護り申し上げているのかと思って、冗談混じりに訊いただけだったのだ。一億歳とかそういうボケを期待していたのに、真面目に答えられた上、成人済ときた。確かに背は高いし少年に見えるわけではないのだが、いいとこ芽依と同い年くらいかと思っていたのだ。


「ど、童顔……」

「は?言われたことねぇよ」


しかもこちらの国のではこれで二十二が普通らしい。赤ちゃんなんて卵に見えるんじゃなかろうか。


「五つも上……」

「言っときますけど、あんたも言えた義理じゃねぇですよ。俺、メイ様のこと十二くらいかと思ってました」

「小学生じゃん」


そもそも十七年間芽依を探していたとバスティンは泣きそうになりながら話していたはずだ。知らないはずがない。


「まあ、何にしたってあんたを護ることが俺の仕事だ。何歳だろうが、どんなお方であろうが、命を懸けてお護りする」

「いのち、を、懸けて」

「命を懸けて」


確認するようにユラは低く呟いた。芽依に流した視線が冷たいのか熱いのかよく分からない。命を懸ける相手を見定めているのだろうか。


こんな小娘を護るのかと。


ユラであれバスティンであれ、必要としているのは芽依自身ではない。芽依の中にある魂なのだ。魂が宿るものが芽依でなくてもバスティンは十七年間探してくれたし、ユラは命を懸けて護ってくれる。

必要なのは、世界を救ってくれる魂のみだ。




「……だったら、」




芽依は顎を引いて睨むようにユラを見上げた。何を驚いたのか、ユラは目を瞬かせた。







「私はあなたに命を懸けられるような存在になるわ」







魂ではなく、自分の存在を護られるような人間に。








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