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呪われた君主  作者: 咲乃いろは
第六章 君主の気持ち、護衛の思い
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無関係の世界線の話のよう

「えっ、じゃあメイは君主様なの!?」


出遅れてしまったが、ルカにこんな話を聞いて黙っておくのも悪い気がして、芽依は自分の素性も明かす。ユラには正体をバラすことには慎重になれと言われているが、一応慎重になった結果だ。


「さらに呪いの器?そんなことありうるの!?」

「ありうっちゃったみたいです…」


芽依としては自分が君主の魂を持つということから有り得ない話だと思っているので今更どんなステータスが増えようと驚きなどしない。一方ルカは目を点にして口が開きっぱなしだ。そんなに驚くことなのか。


「それで壊死とかもしてないみたいなんだけど、ルカは?」

「あ、ああ、僕は右眼が」

「眼……」


見た目では分からないが、ルカの右眼はもう殆ど見えていないという。この右眼の壊死が悪化して、ここに迷い込む原因と、なったらしい。

君主を失った呪いの器。解呪する前提でその身に呪いを宿したというのに、唯一の存在を失った。


「……その……、ルカは国には帰らないの?次に君主の魂を継いだ人に解呪してもらうとか……」


自分で言ってて、なんて冷酷なのだろうと思った。魂の器を、使い捨てみたいに。自分がその身だというのに、笑える。


「……何度か考えはした。このままだと呪いに喰われ、やがて死ぬ。恐怖が募れば帰って縋りたいと思う時もある。……けれど、僕の呪いを解呪しようとしてくれていた君主様を裏切るみたいで、足が動かないんだ」

「そう……だよね」


ルカは自分の君主を慕っていた。呪いの恐怖とも渡り合えるくらいに。その忠誠を違えることが未だにできないのだ。もう君主は、その忠誠に応える事ができないというのに。


「それに、この谷底から抜け出すこともできない。僕は自分を持ち上げるほどの空気抵抗を生み出す魔力はないし、誰かが助けに来てくれるのを待つしかないけど、こうしてここで生活を成り立たせることが出来ちゃうくらい、誰もやってこない」


ルカの身を心配してくれる人はいないのだと、そう聞こえた。

何故なのか。何故、国を救おうとした者を見捨てるようなことが出来るのか。こんな小さな子どもが呪いを受けるということがどんなに怖かったと思っているのか。今も尚、死への恐怖を抱えて一人でこうしていることが、どんなに恐ろしいことだと思っているのか。


誰か、


誰か、


彼をここから連れ出してほしい。






「ルカ」






芽依の口から、思ったよりも強い声が出た。


意を決した、覚悟の声。







「あなたの呪い、私が解呪するわ」




「─────え?」







ルカが先程よりも一層驚いた顔になるのも無理はない。芽依自身も、自分で言ったことに驚いているのだから。何、ルカの呪いを解呪する?できるかどうか分からないのに、一体何を言っているのか。




「だから、あなたの君主様が守った命、ちゃんと守りましょう」

「!」




芽依の目には、ルカは自分の生を諦めているようにも映ったのだ。諦めて、早く信頼する主の元へ向かいたがっているようにも見えた。

だが、そんなこと望んでいる人なんていないと、そう伝えたかっただけだ。




「ね、ルカ」

「……で、でも……、」

「この火と脚のお礼をさせてほしい。あなたがいなければ私は動けずに凍え死んでいたかもしれない。あなたの主が守った命に、私は救われたわ」




使い捨てになんかさせない。


生きた証を継いでみせる。





「メ、イ……、……っ……」

「泣かないでよ。男の子でしょ」

「っ、うるさいよっ……男の()っていう歳でもない!」

「はいはい。泣きながら見栄張らないの」

「見栄じゃないっつの!少なくともあんたより歳上だよ!」

「はい?」





その後、ルカが二十歳だと聞かされた。童顔にも程がある。










***











解呪するとは言ったものの、まずはこの谷底から抜け出さなければならない。どんなに大声を出しても、地上は高すぎて聞こえはしないし、日もくれてかなり空気が冷えてきた。熾している火の熱だけでは身体が全然温まらない。


「大丈夫?メイ。唇、真っ青だよ」

「ルルルルルルカは、よよよよくへへへへ平気だだだねねねね?」

「もう慣れちゃったからね。僕も最初は凍え死ぬかと思ったけど」


ハハハ、と笑っているが、笑い事ではないくらい寒い。幸い服は日が落ちる前に乾いたが、雪が降ってもおかしくない気温である。


「ユユユユユラァァァッ!早くききき来てよー」

「ユラ?って誰?」


ルカが夜具を芽依の肩に掛けてくれる。毛布と言っては薄すぎるが、膝掛けのようなもので、いくらか暖を取れる。少なくとも勝手に動く顎は言うことを利くようになってくれた。


「あ、ああ……。ユラは私の護衛をしてくれているの。意地悪で失礼な奴だけど、とっても強いのよ。結構有名人みたいだけど、ルカは知らない?」

「聞いたことはあるかも。……人間の魔獣?」

「あ、そうそう。なんかそんなこと言ってた。実際は魔獣でもなんでもなくて、戦ってなければただの人間味溢れる騎士よ」


確かに戦うユラは獣と相違ない殺気と威圧を纏っている。間合いに入ったものを誰一人として生かしてはくれず、彼に触れられるものなんてその手に握る剣のみ。芽依でさえ恐怖だと思った空気は、その呼び名にも納得してしまった。

けれど、その剣には護るものがたくさんあって、護る想いも抱えきれなくて、重すぎる一振りを彼が振っているのも確かなのである。

どうにも言葉では伝えきれなくて、なんと言っていいものやら迷っていると、ルカが突然吹き出した。


「っふふっ……」

「ルカ?」

「ああ、ごめんごめん。メイはそのユラって人が大切なんだ?」

「…………大切……。……そう、ね。大切。傍に居てもらわないと困る」

「何で?」

「そりゃ、護衛だから」

「それだけ?」

「それだけって?他に何かあるの?」


護衛ってそういうものじゃないのか。芽依の護衛の認識が間違っていたのか。そもそも地球でごく平凡に暮らしていた女子高生に護衛と言われても、その状況自体が理解に苦しむのだから、認識のずれくらい多めに見てほしい。

正しい護衛の在り方は何なんだろうと考えているうちに、ルカには分からないならいいよ、と諦められた。最近の若者は根性が足りず、物分りが良すぎる。ハングリー精神みたいなものがないのだ。……いや、彼は芽依より年上だった。




「とりあえず、今日は休もうよ。明日、明るくなればまた脱出できる方法を思いつくかも知れないしね」

「そうね。私も今日は寒さで何だか疲れちゃったし、眠くなってきた」


気温は暑くても寒くても体力を奪っていくものだと学習した。ルカはこのまま夜具を芽依に貸してくれると言い、自分は本当に薄い布みたいなものを被る。本当にそれで大丈夫かと思ったが、魔法でいくらか暖かくしているらしい。魔力が続かないから二人分することは出来ないし、寝てしまえば魔法は切れるらしいが。


「じゃあ、火消すね」

「えっ、あ…………、待っ…………」




しまった。そう思った時にはもう遅い。




ルカは芽依の制止を聞く前に、明かりとなっていた火を消した。





「あ、──────」







芽依の世界が、闇に覆われる。







「メイ?何か言った?」

「───…………っ、な、ん、でも……、」


説明するには口も頭も身体も働いてくれなくて難しい。こんなに寒いのに一瞬で汗が背中にびっしりまとわりついた。身体が震えるのは寒さのせいか、力が入りすぎているからか。


「何でもってことないでしょ、そんな震えた声出しといて。どした?寒いの?」

「違っ……、」


ルカが近付いて来たのは分かった。全身の神経が昂りすぎていて相手の息さえも騒音に聞こえるくらいだ。そこに手を捕まれでもしたら。


「メイ?」

「っひっ─────……」


蘇る。


蘇る。


あの日の記憶。


気持ちの悪い目と口と手が動いているのが鮮明に蘇る。


助けて。


早く。


誰か、


誰か、


助けて、


助けて、助けて、


助けて、助けて助けて助けてたすけてたすけてタスケテタスケテタスケテタスケテ────……!!






「やあぁぁぁあぁぁあああぁぁ────!!!」


「メイ!?」






心配して触れてくれたルカの手を、力の限り振り払った。触るなと、優しい手を汚いもののように。



「来ないで!来ないで来ないで来ないで!!」

「メイ!どうしたんだよ!」

「来ないでっ!!」


ルカの手を振り払った憎ましい手は、そのまま腰の短剣を抜き、自分で信じられないことをしようとしている。


「メ、イ……?」

「や、めて、……来ないで……」

「わ、分かったから!来ないから、剣を下ろして……!」

「い、や……嫌よ……。だって、誰も助けてくれないじゃない……」


誰に、何を言っている?

自分の口なのに、自分の声なのに、流れているだけのテレビでも付いているかのようにどこかで誰かが喋っているようだった。自分には関係ない世界で、関係ない人が、関係ない人を、



襲っている。



「メイ……!目を覚ましてよ!」



ルカの声は聞こえているのに、短剣を彼に振り下ろそうとする手は止まらない。






誰か、







助けて









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