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呪われた君主  作者: 咲乃いろは
第二章 君主とその護衛
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護衛に適した人材

温かい茶を口に含んで、ふと思い出したことがあった。


「そういえば、宿で夕飯食べてた時、なんかあんたの様子が変だったのはアルマのことに既に気付いてたからってことなの?」

「え?……ああ、まあ……」


警戒というにはゆるすぎたものだったと思うが、口をもぐもぐとさせながらも、妙に周りを気にしている素振りを見せていた。一番おかしかったのは芽依のお茶を飲んだことだ。本当に間違ったにしても、その後の行動も気にかかっていた。


「恐らくアルマは、あんたに毒を盛るつもりだったんでしょう。あんただけに持ってきた茶には結構強力な毒が仕込んであった」

「仕込んであった……って、ちょっと待ってユラ、あんたそれ飲んじゃってたじゃない!」


ごほ、と噎せかえりながら芽依は今更慌てる。だからアルマもあの時、何故動けるのかと不思議がっていたのか。ユラが芽依の代わりに毒を飲んだことは知っていたから。


「飲んだけど大丈夫ですよ。ある程度の毒は慣れていますし、仕込んであったのは俺が一番耐性のあった毒です」

「耐性のあったって……。それ、私が飲んでたらどうなってたの?」

「舐めただけで数分後に即死ですね」

「!?」


ゾクリと背筋に冷たいものが走る。そんな危ないものの耐性って、一体ユラはどんな訓練を受けてきたのか。


「まあ、と言っても、貴重な器を死なせるわけにはいかないでしょうから、何かしら理由をつけて解毒薬を飲ませ、身体が麻痺している間に何かしようとしていた、というところだろう」


さらりと言ってのけるが、恐らくユラともあろう護衛が、あの華奢な体躯の少女に蹴りを入れられ、逃げられたのだ。毒で身体の感覚が鈍っていたとはいえ、相手も油断ならない実力であるのは間違いなかった。


「ユラは優秀な護衛よね」

「あ?急になんすか」


建物の中だが、充分広かったので火を焚いている。その中に薪を一つ火の中に投入して、ユラは眉を寄せた。芽依が素直に褒めるのがそんなにおかしかったのだろうか。


「別に。私がみたいな素人が見てて分かるくらいに強いと思うから、優秀なんだろうなーと思っただけ。心の声よ」

「そういうのは漏らさないようにするもんですよ。というか、別に俺は護衛としては優秀でもなんでもないですよ」

「何それ、ミリナ国にはもっと強い奴がいるってこと?」


バスティンから聞いた話によると、彼ほどの強さの騎士は世界でも有数だと言っていたくらいだ。そのユラが認める程の強さというものは、もはや伝説の魔物ではなかろうか。


「違ぇよ。俺は()()としては力不足だってこと」

「どういうこと?」

「俺は仕事だからやってるだけで、元々護衛なんて向かないんですよ。隊にいて、こき使われていた方が余っ程いい。……誰かを護るって、そんなに簡単なものじゃないしな」


そう言った彼が何を考えていたのかは分からない。けれど、確かにユラの瞳が一瞬翳ったのは明らかで。それが茶化せるようなものでも、気軽に突っ込んでいいものではないことを芽依は悟った。

ただ、一つだけ否定したい。


「ユラ、もう一度言うわ」

「はい?」


命を懸けて護ると言った彼の言葉に嘘はないはずだ。


その時の眼が、あまりに真っ直ぐで綺麗だったから。





「あなたは優秀な護衛よ」





天窓から射し込む月明かりの下で、芽依の笑みは不敵に照らされていた。












***











先日から気になっていたことだが。


「お風呂に入りたい」

「風呂?あるわけねぇでしょ」

「分かってるわよ、そんなこと」


分かってて言った。言葉にすれば誰かが風呂をデリバリーしてくれるんじゃないかと思って。君主様なら有り得ない話ではないのではないだろうか。

幸か不幸か、アルマのお陰で昨日は風呂に入れたが、考えたら初めての野宿の時も今日も風呂にありつけていない。一日目は何かと気持ちが忙しかったので気にならなかったのだが、今は大分覚悟を決めてしまったので、芽依はあの時気付かなかった女子の尊厳というものを取り戻しつつあった。


「せめて何か身体を拭けるものとかあれば……」

「ああ、そういえば裏手に川は流れてましたけど」


行きます?と後ろを指さすユラに、芽依は笑顔を固まらせた。これだからデリカシーのない男は。


「あんたね、今の外の気温分かってる?」

「さあ?まあ少し肌寒いくらいですかね」

「あんたの皮膚どうなってんのよ。分厚い鱗でも付いてんの?」


これだから面も身体も皮の暑い奴は。

外は真冬とは言わないまでも、上着を羽織っていないと充分凍える寒さだ。太陽が気温を守ってくれない夜に、冷たい川で裸になろうとするなんて自殺行為である。


「じゃあ我慢するこったね。次の宿がいつ取れるかは分かりませんけど」

「う……」


次の宿が取れるどころか、もしかしたらこの先何日も川さえない状況になるかもしれない。そしてもっと寒い日が続くかもしれない。それを考えたら今寒さを我慢して入っておいた方がいいのだろうか。何でこんなサバイバルなことを考えなければならないのか。


「分かったわよ。……川、行くから付いてきて…」

「はいよ」


さすがに夜に一人で知らない世界を歩くのは怖いし、またアルマのような敵がくるかも分からない。ユラもそのつもりであったのか、タオルを用意してくれた。










「うっ、ううう……、つ、冷た、いぃぃぃ……!」


まず服を脱ぐのに戸惑った。考えたら外で裸になるなんて温泉よりも恥ずかしい。もちろんユラには後ろを向かせたが、距離を取る訳にもいかず、すぐそこにいるのだ。ユラからはそんな貧相な身体見せられたところで、食べられるものも食べたくなくなるんで大丈夫ですよとのお言葉を頂いたので、アルマに蹴られていたところを殴ってやった。ユラは苦しがっていたので我ながらいいパンチが入ったと思っている。


川の水は月の光でキラキラと輝いていた。底が透けて見える。薄暗闇でも小魚がゆったりと泳いでいるのが分かった。彼らは眠らないのだろうか。

全身を水の中に埋めてしばらくすれば、水の冷たさなど気にならなくなった。代わりに空に浮かぶものに意識が移る。


「綺麗」


輝く彼らに手を伸ばして見るが、到底届きそうにはなかった。濡れた肌に外気が触れて、氷のように体温をさらに奪っていく。それでも、この光がそれを溶かしてくれるようで、愛おしく、求めるように近付いて。




「─────っ!」




いつの間にか立ち上がって、真っ裸で全身を空気に晒していた。それに気が付いたのは、残念ながら寒さの為ではない。


ガサ、と川の畔から聞こえてきた不穏な音のせいだ。


「な、なに……?」


何かいる。

とりあえず慌てて水の中に身を沈めて身体を隠すが、この状態で何ができようか。芽依は音がした方をじっと睨むしかなかった。



やがて、そこからニャア、とか細い鳴き声がして、真っ黒い猫が飛び出してきた。



「……ね、猫?」



警戒して損した。ほっと肩の力が抜ける。

だが、安心したのも束の間。猫に続いて飛び出してきたものがいたのだ。



「………………へ?」



ブン、という耳障りな羽音とともに、大量の()()が芽依目掛けて襲ってくる。






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