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呪われた君主  作者: 咲乃いろは
第一章 受け継がれた君主
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始まりの熱

何が起こったのかは分からない。


ただ、身体が熱くて、痛くて、苦しくて、冷たくて、死ぬとはこういうことかと思ったことだけは覚えている。身体の辛さのことで頭がいっぱいでそれ以上は考えることができなかった。

少しでも考えることができていたのなら、今この状況が少しでも変わっていたのだろうか。否、そんな簡単な話であれば、自分は今こうしていないだろう。




「おお、我が主、よくぞ帰ってきておられた……!」


「…………………………はい?」




跪く屈強な男達、腰を折るメイド服の女達。

泥と埃と血と煤で汚れた姿を前に、彼らは何をしているのだろう。その頭を垂れる相手は一体誰なのか。


「あ……主……?」

「そうです、姫。世界中を探し回り、中には老体に鞭打つ者もいながら、やっと貴方を見付けて差し上げたのです!」


何だかいちいち癇に障る言い方をする奴だ。だが今はそんなことに突っ込んでいる場合ではない。どこから拾っていけばいいのか迷うワードが満載なのだ。

主の次は姫。世界中を探した?見付けた?何の話だ。


「ち、ちょっと待って……!何の話!?大体あんた達誰!」


数十人に囲まれた中心で、九里芽依(クノリメイ)は困惑に打ちひしがれた。






ただ、巻き込まれただけ。家の向かいで起きた火事に。

正しくは巻き込まれたのではなく、巻き込まれに行った。好きで行ったんじゃない。中に人がいて、消防車もまだ来なくて、仕方なく、だ。水を被って突っ込んでいった。何も考えていなかった。昔からの悪い癖だ。後先考えずに行動する。

中には人なんていなかった。中にいると思われていたはずの人は出掛けていて、芽依が火の中に飛び込んだ後で帰ってきたようだった。それを熱を帯びた空気の中で、窓から目にした。

その後はもう覚えていない。最後に目に映ったのは、崩れ落ちてきた天井だった。




それが何故。


火は?天井は?自分は?どうなった。



「何処なの、ここ!それとどうでもいいけど、おもてをあげい!気色悪い!」


訳の分からない人たちに頭を垂れさせる趣味はないし、これだけの人数が一堂に会して同じ格好をしているのが恐ろしくて仕方がない。思わず叫んだ芽依の言葉で、数十人の人々は同時に顔を上げた。それもまた気持ちが悪い。

一番近くにいた妙齢の男性は、先程丁寧なのか失礼なのか分からない態度で芽依の姿に喜んでいた奴だ。


「私、名をバスティン=オクター。この城の執事長をしております」

「ば、ばす……?」


明らかに平仮名とか漢字とかではない名前に、芽依は盛大に眉を顰めた。名前だけではない。このジジイ、城とか執事とか言わなかったか。言われて見渡せば、周りの連中の格好はおかしい。どこか英国の皇室にでもいそうな服、武器。そういえば芽依が今いる場所だって普通ではないのだ。大理石の床には目を瞑ったとしても、世界遺産に登録されていそうな神殿造りの柱や壁、天井。どこを取っても芽依の十七年間過ごした日本ではなかった。


「混乱されるのも無理はありません。簡潔にご説明いたしましょう」

「よ、よろしく、バスティン?」


説明してくれるのなら有難い。理解と納得できるかは置いておいてほしい。


「まず、ここは貴方が育ってきた世界ではございません」

「でしょうね」

「おお、察しておられたか!意外と聡い!」


やはりちょくちょく失礼な奴だ。


「ここはミリナ国という場所。貴方からすれば異世界と言えば分かりやすいでしょう」

「ミリナこく……、異世界……、………………うん!?」

「そうです。理解が早くて助かります」

「待ちなさい。今の『うん』はそういうやつじゃない」

「ミリナ国の君主は、魂で決められます」


話を聞かないジジイである。

バスティンは少し腰を折った姿勢のまま、格好だけは芽依に忠誠を誓っているような姿で話を続けた。


「先代が亡くなられ、十七年が経ちました。本当ならばすぐに君主になる魂を見つけ、ここにお連れするはずだったのですが、この度は違う世界に行ってしまわれたということで、相当苦労致しました。この爺、寿命が縮んだかもしれません」

「そ、それはご愁傷さまで……」

「ですが、無事こうして再び君主に玉座についてもらわれた!私達は恐悦至極に存じます!」

「あ……、はあ、そうで────…、……ん?」


よく分からないが、この人々は達が喜んでいるのだけは確からしい。その理由は探し続けた君主が現れたということ。そしてその人物が、目の前にいるということ。





「クノリメイ様。貴方はこの国の主です」





「──────────は?」






頭を垂れている相手は、他の誰でもない、自分だったのだ。









これが、芽依に課せられた運命だ。

それを理解するためには、一日や二日では全く足りない。


けれど、時は止まってなどくれなかった。





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