episode28 今のあたしが出来上がるまでの件
【前回のあらすじ】
朝早くに学校に来ると、落書きされていた柴崎楓の机を拭く桜庭美雪を見つけた件
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「かえでちゃんきらいだから、なかまにいれてあげなーい」
別にあたしも好きじゃないから、そんなことわざわざ言わなくていいのに。
「あんたのせいでウチの彼氏と別れることになったんだから、責任取ってよ!」
そんなこと知らないし。
彼氏が誰なのか知らないけれど、それはあんたの性格が悪いか、彼氏が嫌気を差したのかどちかでしょ。
「あのさ、あんたムカつくんですけど」
だから何?
見たくないなら見なければいいじゃん。
あたしは生まれた頃から容姿に恵まれていた。
それに気づいたのは小学生になった頃だと思う。
女の子には可愛いと言われ、男の子は何も言わなくても近づいてきて花や紙飛行機をプレゼントしてくれた。
特に小学三年生までは、学校において、ちやほやされながら育った。
容姿だけではなく、運動や勉強もできた。
というより、努力してできるようになった。
負けず嫌いの性格が、物心つく頃から強く根付いており、運動会で男の子に負けるとすぐに泣きじゃくり、負けないように休み時間は外を駆け回った。
勉強で分からないことがあれば、先生に聞いたらすぐに教えてくれたし、むしろ分かっていても先生が近づいてきて教えてくれた。
それでも、テストで一点でも落とした時は、帰り道に涙を零していた。
それは別に、親が厳しいからではなかった。
どちらかというと、完全に放任主義の親だったからだ。
あたしの父は物心つく頃にはいなくなっていた。
授業参観の時に、父も一緒に来ている家族を見た。
その日の夜、煙草を吸う母に尋ねてみた。
「ママ、わたしのパパはどこにいるの?」
「さぁ。どっかで遊びまわっているんじゃない?」
その言葉の意味をその時は分からなかったが、代わる代わる違う男を連れてくる母の姿を見て、小学三年生の頃にはその意味を理解していた。
ああ、ママがパパを捨てたんだ、と。
小学三年生のある日の学校での出来事。
あたしはクラスの男子に告白されてそれを振った。
けれどそれは今までもあったこと。
ただ単に好きでもない男子に告白されたところで、何の感情も湧かなかったから。
けれどその男子は、当時女子からすごい人気のあった子だったのがよくなかった。
その男子のことを好きだった女子から嫉妬され、相手にされなくなったのだ。
簡単に言えば、何を言っても無視される、ということ。
三年生の時はまだよかった。
けれど四年生、五年生と学年が上がるにつれて、行動は激化した。
男子の前で服を脱がそうとしたり、上履きを隠したり、悪口を平然と言われたり。
でも、あたしの行動は変わらなかった。
なぜなら、大抵の行動については自分で何とかできたし、いざとなったら先生に言えば、注意してて咎めてくれたからだ。
それに、別にあたしは何も悪いことをしたわけじゃない。
自分が綺麗なのは生まれつきで、美人な遊び人の母の美人であり続ける方法を身近で見てきたから。
髪の整え方だったり、肌の整え方だったり。
さすがにその辺りは小学校の時はしなかったけれど。
女子には嫌われていたけれど、男子には特別嫌われてはおらず、小学校時代はいじめを受けていたものの、ものともせず過ごしていた。
けれど、中学校に上がると、環境は大きく変化した。
学力による選別のされていない無法地帯。
百人に満たなかった学年の生徒数が一気に五百人近くに。
そして、そんな数多の生徒がいる中、既に今とほとんど変わらないくらいの容姿が出来上がっていたあたしは、すぐに注目の的になった。
月に何度も告白され、それを振る日々を送る。
そして小学生の頃から引き続き、無能な女子の嫉妬によるいじめも早い段階で始まる。
不良に絡まれるようなことも何度かあり、付き合うことを強要してくる男子もいたが、すぐに先生が駆けつけてきて、事なきを得ていた。
男女による力の差も生まれ、姑息ないじめも増え始めたこの環境下を乗り切るため、あたしは誰にも負けないよう努力し、誰も近寄ってこないような強い女を目指した。
その一環として、一通り個人技で行える部活動に体験入部を繰り返した。
その結果辿り着いたのは、弓道だった。
中学校の部活動では珍しく、この学校には弓道部があった。
どうやら県大会にも出場経験があるらしく、顧問の先生がその道のプロだった。
体験入部初日。
試しにやってみなさいと手渡された弓の行く末は、的のど真ん中だった。
運動場を駆け回っていつのまにかついていたバランスの良い筋肉と、いじめや放任主義の家で身に着いた、簡単には崩れない強靭なメンタル。
そして、生まれ持った才能が合わさり、指導教員から天性の才能ともてはやされたのだった。
今まで意味のないものと思っていた環境が、初めて活かされた瞬間だった。
それ以降、あたしは弓道に没頭した。
どれだけいじめを受けようとも、所詮は負け犬の遠吠えと一蹴し、この環境こそがメンタルを鍛えることができると、逆に利用。
もちろん、勉学でも負けることを嫌い、常に学年一位を取り続けた。
そしてそのうち、文武両道、何を言っても動じないという圧倒的な孤高の地位を手に入れたあたしに、文句を言ってくる生徒や近づこうとする生徒は、一切いなくなっていた。
あたしのぶっきらぼうな今の言動も、この頃におおよそ形となっていた。
けれども、あたしは「勝利」の二文字を頭に思い浮かべながら、何故か胸の中がぽっかり空いているような、不思議な感覚を覚え始めていた。




