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episode22 恋愛シミュレーションゲームが動き始めた件

【前回のあらすじ】

志熊星矢が屋上にて柴崎楓に告白した件

 まさかとは思っていたが、本当に告白するとは。

 水島が柴崎に告白する時は、特になんとも思わなかったが、二人の場合は、そこそこどういう人か知っているため、緊張感やドキドキが自分にまで伝わってくる。


 現に胸の辺りに手を当てると、普段より少しだけ鼓動が早い。


 星矢の頭の中まで見透かしそうな真剣な眼差しと、柴崎の今まで見たことがない、少し頬を赤くして、恥ずかしいから逸らしたいけれど逸らせられない表情。

 それを見るだけで、おおよそこの後の展開は見当がつく。


 小さく、しかし聞こえないほどではない絞り出したかのような声を彼女が発したのを耳にする。

 何と言ったのかまでは聞き取れなかったが、星矢の耳には恐らく届いているだろう。





 ピロロロロン♪





 ポケットの中で、振動と共に、今まで聞いたことがないようなベルの音が鳴り響いた。

 慌ててポケットを抑える。扉越しに二人を見ると、どうやら音はばれなかったようだ。


 そして次に、こんな機械音がくぐもった音で流れる。





『志熊星矢。好感度が百に達しました』





 それは、この恋愛ゲームがクリアされたことを意味する、祝福の音声だった。


 リモコンを取り出して画面を起動する。


 ログを確認すると、



『志熊星矢が告白をしてきた』



【①告白を受け入れる ②告白を受け入れない ③???】



『②告白を受け入れる、を選択した。志熊星矢の好感度が百に達しました』



 と書かれており、好感度の欄を開くと、志熊星矢の姿がドットではなく写真のようにリアルに映し出され、その上に好感度百の文字がキラキラとピンクと黄色の光沢で光っていた。


「これでクリアか」


 俺はホッと胸を撫で下ろし、天井を見上げた。


 柴崎楓が願ったこと。

 それはこの恋愛ゲームをクリアすることで達成できると、Mは言っていた。


 ということは、柴崎が願ったことは、単純ではあるものの、恋人を作ることだったのだろう。

 けれど、ただ恋人を作るのであれば、彼女なら誰とでも作ることができたはず。


 だとすれば、実は夢で出会った志熊星矢と恋人になる、という願いをした、というのはあり得ないにしろ、一定以上信頼のおける恋人を作りたい、と願ったのかもしれない。


 それでいて恋愛ゲームはその対象の振り落とし。

 信頼という関係を築き上げるため、好感度というパラメーターを用意し、短い期間ではあったものの、地道にその願いが達成できるようにしたのかもしれない。


 恋愛とは、人生において簡単な人もいれば難しい人もいる。

 その人の心次第、考え方次第で大きく変わる。


 だからこそ、この世で生み出される恋愛ゲームは、簡単にはクリアできないし、クリアするまでに様々な出来事を乗り越えるからこそ、感動のエンディングに出会うことができる。


 Mに対してこれを言うのもなんだが、まあ、いいことをしたんじゃないだろうか。


 これ以上この場所にいて、二人だけの空間を邪魔するのはよくないだろう。

 万一ばれてしまっては、変な誤解を与えかねない。

 二人が来てから誰もここを通らなかったし、まあ大丈夫だろう。


 そう思い、俺は重い腰を押し上げて、制服のお尻についた埃を払う。

 そしてそのまま階段を降りようと手すりに手を掛けた。



 その時だった。





ピロロロロン♪





『柴崎楓の好感度が百に達しました』





 俺は階段を降りようとした足をその場で止めた。


 つい先程聞いた似たような電子音。

 それが聞こえたのは、俺のズボンのポケットからではない。



 では聞こえたのはどこから。



 聞こえてきたのは背後から。

 それも重い鉄扉の向こう側。


 俺は踵を返し、小さく開けた扉から再びその先を覗き込む。


 柴崎はリモコンを持っているはずがない。

 だからこそ、この前彼女と会った時に、リモコンについて説明をした。


 その時の彼女は、好感度をそれほどあてにしていない印象があり、たぶん半信半疑で聞いていたはず。


 けれども、そういうリモコンがある、という認識は少なくとも持っているはず。


 となると、俺の持っているリモコンから聞こえてきたものと同じものを持っている人物はこの場でたった一人。



「……今の音、何?」


「いや、これは……あ……」


 星矢のポケットから柴崎がひったくりしたのは、真っ白で俺のと同じ形をしたリモコン。


「何で星矢が……」


 俺が戸惑う中、柴崎はそのまま無言でボタンを押した。

 彼女は持ち主ではないため、画面は見れないはず。


 そう思ったものの、ボタンを押しながら上下に視線を動かす彼女には、その画面が見えているようだった。

 

 もしかして、と俺もリモコンを取り出す。

 このリモコンは俺にしか扱えないのではなく、操作する人にしか見えない、そういうものじゃないのかと推察する。

 それであれば、納得がいく。

 Ⅿは、俺にしかこのリモコンは使えない、などということは言っていなかったし。


 柴崎だけでなく、星矢もこの恋愛シミュレーションゲームを行っていた。


 その事実に素直に驚く。

 ということは、彼は彼で柴崎楓の好感度を百にするべく選択肢を選んで動いていたことになる。


 ポチポチと何度もボタンを押し、視線を大きく動かす彼女。

 その表情は先程までとは打って変わり、以前までの彼女と同じ、冷たく、何も感じさせないような無表情がそこにはあった。


 この事実が、彼女にはどういう目で映ったのだろう。


 その答えは、すぐに明かされた。

このエピソードが、3章の折り返しとなります。

ここから物語がまた動き出します。恋愛シミュレーションゲームの真骨頂が、牙をむき始めます。

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