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episode12 ちょっとずつ変化が訪れる件

【前回のあらすじ】

桜庭美雪に志熊星矢のアイデンティティを否定された件

 月曜日と書いて憂鬱と読む。

 それは学生だけでなく、社会人にも共通の認識であることは間違いない。

 そもそも休日と平日という境目を作ったのが間違いであると個人的に思う。


 人間とは適応性の塊。

 だからこそ氷河期も生き抜き、数字や漢字といった文字の概念を認識できる。

 進化の過程で、人間に仕事や学校に行くのも休日、という認識を植え付けることができていれば、鬱になる人も減ったはずである。


 そう考えたところで社会に与える影響は皆無。

 抵抗するなら全人類を催眠にかけるしか方法はないだろう。

 とどのつまり、月曜日は嫌が応にもやってくる。


 俺はこの日、登校時間をいつもより早めに設定して家を出発。

 河川敷をきょろきょろ不審者のように見渡しながら、足早々に学校へ向かった。


 普段より三十分早い登校だったため、教室には俺のほかに数名しかおらず、さすがは受験生。

 みんな机に向かって勉強に没頭しているようだった。 


 登校時間をずらした理由はなんてことはない。

 桜庭とばったり出くわしでもしたら、俺としても彼女としても気まずいことこの上ないからだ。


 俺自身、彼女ともめたわけではないが、あの場に居合わせてしまったことが罪。

 何かきっかけがない限り、無理に話しかけたりしない方がいいかもしれない。

 それが、土日で考えた結論だった。



 早めに教室に来たが、なにもその後のプランを考えていない。

 とりあえず俺もこの空間に溶け込むべく、教科書を開いて勉強するふりを開始した。


 そわそわした気持ちでいると時間の経過が早い。

 何一つ教科書の内容が脳に刻まれることなく八時を迎え、人が増え始めた教室にて会話の花が所々咲き始めていた。

 背中で風が吹いたため振り返ると、星矢が重そうな部活用の荷物を抱えて席に向かっていた。


 彼がどう土曜日のことを消化したのか気になるところだが、無理に話しかけはしない。

 どう話しかければいいか、全く分からないのだ。


 その後、少し時間をあけて柴崎が教室に入ってくる。

 土曜日で会ってから好感度の変動はなにもなかったため、あの後に誰とも接触しなかったのだろう。


 柴崎が席につくと、星矢は後ろを振り向いて話しかけ始めた。


「二夜ぶりだな姫君。此度の戦闘、楽しかったぞ」


「は? なんの話よ」


 親し気に話しかける星矢に対し、柴崎は冷たくあしらう。

 星矢の話していることが土曜日のことというのは、恐らく気付いているはずだが、彼女が知らないと言い張るのは、ここが教室だからだろう。


 ただでさえ注目の的になりやすい美貌。

 常に誰かから視線を浴びているような彼女が、星矢と休日に会っていたなど知られてしまったら、尊厳に関わる。そんなところだろう。


 星矢は国語ができるにも関わらず、恋愛には奥手。

 彼女を前に、気持ちを汲む能力が低下しているのが残念。


「姫君の銃さばき。あれはまるで、機械に身をやつした……」


 喋りの途中で、彼は言葉を止めた。

 否、止めざるを得なかったのだろう。

 目を閉じて無視を決め込めていた柴崎が、右目だけ小さく開く。


 二人の横を一人の少女が横切る。

 一昨日嵐を巻き起こした桜庭だ。

 星矢の眼差しが彼女を捉えた瞬間、彼は時間停止の魔術にかけられた。


 桜庭は星矢の横を通った際、ただ無表情であり、そのまま星矢の前の席に腰掛ける。

 その彼女の元に「おはよー」とクラスメイトの一人が駆け寄り、笑顔で挨拶を返すと談笑し始める。


 あれだけ強く止めろと言った言葉遣い。

 それを聞かれた星矢はまた何か言われると思ったのだろう。

 が、彼女は聞こえていたのか、聞こえた上で無視をしているのか、彼に対して何もアクションを起こさない。


 宙釣りになった彼は言葉の使い方を忘れたのか、口をパクパクさせ、席を立つ。

 そのまま教室を出ていった。

 その後ろ姿を、柴崎は少しだけ目で追っていた。

 少し下がった眉から、彼女はほんの少しだけ困惑しているように見えたのは気のせいだろうか。



「やっぱり柴崎楓を狙っているのか?」



 声の主は正面。

 顔を向けると、いつもの爽やかスマイルで八代は俺に声を掛けてきた。


「そんな熱い視線を送っていると、いつか気付かれるかもね」


「いや、別に狙ってはいない。俺はただ……」


 狙ってはいないが、熱い視線を送り続けていたのは間違いないのかもしれない。

 柴崎に限らずであるが。

 これは、ちょっと見過ぎていたな。


「柴崎がクラスで孤立していないか気になっただけだ」


「どちらかと言うと、彼女がそれを望んでそうだけどね」


 八代は柴崎の方を見ながら着席する。

 俺はポケットに入っている機器に手を当てた。


 今日で二週目に入った恋愛シミュレーションゲームも大事だが、俺はそれよりも星矢と桜庭のことが気になってしょうがなかった。


 あの時の言葉が今後の星矢の行動に響かない、なんてことはないというのが、今日の態度で証明された。

 順調に上がり続けている好感度にも、影響が出るに違いない。


 とりあえず、今日一日星矢がどう行動するのか。

 それに対して柴崎がどういう態度を取るのか。

 静観するのが正しい判断なのかもしれない。

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