episode8 またまた出会った件
【前回のあらすじ】
ゲームセンターにて、志熊星矢と柴崎楓が共闘して、一緒に楽しんだ件
柴崎が立ち去ってすぐ星矢も、
「西の風が吹いている、行かねば」
と遅刻した小学生の言い訳みたいな言葉を残して立ち去って行った。
星矢が立ち去ると、取り巻きの子ども達は一斉に散開し、各々が好きなメダルゲーム機に飛びついていった。
一人残された俺は、二人の操作を見てもう一度やりたくなり、一つ難易度を上げてゾンビハザードをプレイした。
しかし、上手い人の実況動画を見たら、自分も勝てるかもしれない症候群に陥っていただけであり、一回目よりはましな動きであったが、ラスボス前で呆気なくリタイアとなった。
時計を見ると、ゲームセンターに来てから軽く一時間は経過していた。
俺はゲームセンターを出て、エスカレーター横のベンチに腰を掛ける。
「結局、何の選択肢が出てたのだろうか」
リモコンを起動し、ログを閲覧する。
今日の選択肢は全部で三つ。
【ゲームセンターで志熊星矢がゾンビハザードをプレイしている】→『①声を掛ける』
【親友の御影光から協力プレイを依頼された】→『②仕方ないからプレイしてあげる』
【志熊星矢が二回目の協力プレイをしたそうにこちらを見ている】→『②満足したので立ち去る』
「仕方ないからプレイ、か」
薄々感じてはいたが、柴崎はツンデレ属性があるに違いない。
いつか彼女が頬を赤く染めて目を逸らし、「勘違いしないでよねっ、あんたのためじゃ、ないんだからねっ」と言う日が来るのかもしれない。
むしろ選択肢として出る可能性もあり、その際は是非とも同席したいものだ。
次に好感度の画面を開く。
志熊星矢「七〇」水島道夫「四〇」峰田准「二十五」
と、既に攻略対象が確定している人は表示されていた。
ゲージを見る限り、全員好感度は五十から始まっており、上限は百となっている。
このまま進めば、星矢の好感度は近いうちに百になることだろう。
何をしても上がる彼の好感度を下げる方が、むしろ難しいんじゃないだろうか。
というか、何で百からスタートしていないのか不思議なくらいだ。
本日は四月十五日。
最終日の三十日まで、あと十六日だ。
できることは限られている中で、攻略対象が五人もいるのが謎である。
最終日まで攻略対象と接触せず明かされない可能性もある。
恋愛シミュレーションゲームとはいえ、エンディングは必ず作られているはず。
あの男は、既に未来を知っているというのだろうか。
それであれば、もう少し俺に何かしらのアドバイスをくれてもいいのに。
願いを叶えるための舞台を用意したとはいえ、目的とその先に何があるかまでの道しるべを示さないのは、シナリオとして欠陥があるんじゃなかろうか。
俺はリモコンを操作して、他に何かヒントがないか探そうとする。
すると、当たり前すぎて一度も開いたことのなかった、ヘルプ項目に注目した。
もしかしたらここに何か……。
「そこに何かあるの?」
真横から急に声を掛けられ、「わっ」と素っ頓狂な声が出る。
声の主の方を見ると、そこにはこれまた私服姿の桜庭がいた。
「おはよー御影っち! こんなところで何やっているの?」
元気に挨拶する桜庭は、ピンクと白のレースのドレスに身を包み、首を傾げながらこちらを見た。
いつもとは違う新鮮な場所で見る彼女の顔は、薄く化粧をしているようで、いつもより可愛らしく見えるのは気のせいではないはず。
彼女に覗き込まれ、俺は18禁動画をパソコンで見ていると部屋に親が入って来た時ばりに、慌ててリモコンを操作して画面を閉じた。
ほんとあれはやめてほしい。
健全な男子高校生が一人暮らしを決意する出来事ランキング一位に上がるに違いない。
「どしたの御影っち。それ、新しいアイポッドか何かなの?」
桜庭は俺が慌てて取った行動の意味が理解できていないようで、見当違いな質問が飛んでくる。
もしかして、桜庭にはあの画面見えてない?
試してみるか。
俺はリモコンの開くボタンを押して画面を起動する。
今日の柴崎コーデがドット表示される。
「桜庭はこの画面見えてないのか?」
「画面? わたしには何も見えないよ。御影っちがリモコンをピコピコしたから、何か見えているの? もしかして、えっちなもの?」
「いやいやなわけ。見えてないならいいんだ?」
ピコピコって、おばあちゃんくらいしか使わない気がする。
どうやらこのリモコンは俺専用に作られているらしく、桜庭は「はえ~」と首を傾げて俺の謎動作に困惑している。
本当に、どんな技術を使ったのか。
俺は画面を閉じてポケットにリモコンをしまう。
「桜庭はどうしてここに? 俺と家が近いなら、ここ結構遠いと思うけど」
「わたしは今日二階に新しくできたクレープ屋さんに来たの! ほら、あそこに人がいっぱい並んでいるでしょ」
桜庭の指差す先にはフードコートがあり、その中でとりわけⅬEDがピカピカ輝いている、いかにも女の子向けのクレープ屋があった。
制服を着た女子高生が列を成しており、クレープを買った人たちがインスタ映えを連呼して写真を撮っているのが伺える。
嬉しそうな桜庭の手には、チョコとイチゴのクレープが握られており、彼女は一口、また一口と口に運んだ。
何だろう、小動物が餌を食べているのを眺めている気分になる。
もきゅもきゅする桜庭が俺の視線に気づき、コクリンコと飲み込んで俺の前にクレープを差し出した。
「御影っちも一つ食べる?」
若干上目遣いで左手を顎に当てながらとんでもないことを言う彼女。
いや待て、一口飲んだペットボトルや缶ならまだしも、食べ物のそのかんかん間接的な何かは色々とまずいんじゃなかろうか。
何この子簡単にそういうことしちゃうの?
知らない男の人からお菓子をもらっちゃダメって教わらなかった?
だがしかし、これを断ったらせっかくの彼女の厚意を無下にすることになる。
それはそれで如何なものだろうか。
断るべきか、思い切ってかぶりつくか。
恋愛ゲームで究極の選択肢を与えられたような状況に陥った俺。
どうする、俺!
心の中の葛藤が佳境を迎えたその時、
「なーんて冗談だよっ」
桜庭は右目をウインクしてクレープを再び口にくわえた。どうやら彼女は小悪魔だったらしい。
知らない男の人からお菓子どころか知らぬ間に財布を抜き取って姿を消すタイプだ、これは。




