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episode6 悪夢にうなされた件

【前回のあらすじ】

夢葉とそっくりな女の子、水無瀬早希と仲良くなった件

 話が世間話から過去話へと移ったところで、昼休みが残り五分であることを告げる予鈴が鳴り響いた。

 手元を見るとおかずが半分以上も残っており、それだけ話にのめり込んでいたことに気付く。

 それは水無瀬も同じで、互いに弁当箱を見比べて苦笑した。


「それじゃ戻ろうか」


「そうですね、久しぶりにこんなに喋ったような気がします」


「僕もだよ。せっかくだし明日も……」


 一緒に食べながら話そうよ。

 そう言いかけたところで、俺は言葉を詰まらせた。

 それは、自分が明日、果たして夢から覚めるのかという不安に駆られたからだった。

 夢の中での黒幕探しが長引けば、その分寝ている時間も長くなる。

 明日水無瀬と会う可能性は低くなるかもしれない。


 あくまで可能性の話だったけれど、約束を守れなかったら彼女に申し訳ない。

 首を傾げてこちらを見る彼女に、代わりの言葉を紡いだ。


「席は近いし、いつでも喋れるよ」


「そうですね!」


 最初は控えめな性格なのかと思っていたけれど、話していくうちに結構おしゃべりな性格であることが分かった。

 夢に関する情報は得られなかったけれど、。新しいクラスになって数日。

 話せる友達ができてよかったと少し嬉しく思った。


 午後の授業は空腹との闘いだった。

 育ち盛りの少年にとって、小食は禁物。

 周りの人にお腹の音が聞こえないように、必死で腹筋に力を入れる時間が続いた。

 おかげで最後の授業が終わる頃には、腹筋が少々痛んだ。


 しかし、そのなけなしの努力も、帰りのHRに後ろからこっそりと、


「お腹、鳴っていましたね」


 と(ささや)かれま声により瓦解(がかい)してしまう。

 恨めしそうに後ろを向くと、


「私も同じです」


 唇の前で人差し指を立てる彼女がいた。

 案外冗談とかが好きなのかもしれない。


 そして、さようならと全員が復唱し、今日一日の学校生活が終わりを迎える。


「御影さん。黒幕探し、頑張ってくださいね」


「うん、できる限りのことはやってみるよ。ありがとう」


 水無瀬のエールに、僕は笑顔で答える。

 バイバイと小さく手を振って水無瀬が教室を出て言った後、特に学校に残る用事はないので、自分も帰ることにする。

 どうも昨日寝すぎたみたいで、全然眠気が感じられない。

 今日ちゃんと寝られるか心配になった。

 夢愛好家にとって、夢を見る以前に寝れないというのは、死活問題だ。


「よし、走るか」 


 カバンを肩に背負い上げ、下駄箱へと移動する。

 そして靴を履き替え紐をきっちりと結び、勢いよく駆け出す。

 学校に自転車で来たことを思い出したのは、家の扉に立ち、ポケットに手を突っ込んだ先の自転車の鍵に触れた時だった。


 ちょっと浮かれすぎていたのかもしれない。

 けど、気分が高まってしまえばしょうがないよね。


 そう自分に言い訳しながら、明日徒歩で学校に行かなければならないことを大量の水を飲み干しながら、頭の中から追い出そうとした。

 片道一時間。

 ふへー。


 本日母が帰ってきたのは夜の十時を回ってからだった。

 普段は八時帰りが多いにも関わらず遅くなったのには理由があった。


「今日会社の人が三人も休んでね。その代わりをしていたら遅くなったの。もう大変だったのよ。患者も増えてきたし」


 仕事の愚痴を呟く母の顔を見て、僕は早くこの問題を解決しなければと思った。

 社会への影響が徐々に出始めているこの現象。

 どのような原理で起きているのか、さっぱり分からないけれど、解決するには夢を見るしかない。

 ランニングをしたこともあり、お風呂につかるとほぅと息が漏れた。


 ちょっと筋肉痛になった腿をさすり、全身の力を抜く。

 それに合わせて、大きな欠伸が口から零れ落ちた。


「やばい……寝そう」


 夢の中をリアルに感じていたこともあり、ほぼ地続きで起きているような気がする。


 夢をリアルに見せることで現実でも徒労感が続くようにする。

 そうすることで人々は睡眠を求めやすくなり、結果、夢に依存する。


 そんな図式を黒幕は狙っているのではないのか。

 ふと、そんな考えが頭をよぎった。


「あ、これは無理だ……」


 まどろみ始めてしまえば、もう動けない。

 動くのが億劫(おっくう)になる。

 加えて今浸かっているのは、入浴剤の溶けた極楽のお風呂。

 そういえば、お風呂で寝てしまうのは、睡眠じゃなくて気絶だとどこかで聞いたことがあるような……。

 そんなことを考えていると、抵抗虚しく成すがままに意識は消失し、再び第二の世界に足を踏み入れることとなった。




***




「うー、あづいよぉ。……はっ!」


 砂漠のど真ん中に放り出されたような熱気を感じて僕は飛び起きた。

 不快指数が天井を越えそうな、ジメジメとした湿度と熱気。

 額に触れると、だらだらと滝のように汗が流れていた。


「ここは、草原じゃないの?」


 前に見た青々とした草原はおろか、草一本すら見当たらない。

 代わりに存在するのは、ごつごつとした岩で形成された天井と床が大きく四方に広がる地形。

 言うなれば、洞窟の奥地という言葉がふさわしい。

 そして、(ほの)かに洞窟を照らす光源は、その前方から放出されていた。


「何か、嫌な予感がする」


 その光源の正体。

 加えて、カレーを煮込んでいる時にでも聞こえてくる、ぐつぐつとした音。


 薄々気付きながらも、その場所へと歩みを前に進める。

 一歩進むごとに汗が噴き出し、暑さで呼吸が若干苦しくなる。

 いつの間にか身に着けていた部屋着の(そで)を掴んではためかせるが、熱風が送り込まれるくらいで気休めにしかならない。


 光源の十メートル手前。

 その正体に気が付いたところで僕は歩みを止めた。


 テストの山勘は外れるのに、こういう悪い予感はどうして外れないのか。




 絶句したその先にあったのは、ブクブクと泡を飛ばしながら煮えたぎる、灼熱地獄を彷彿とさせるマグマだった。




「これは……本当に夢なのか?」


 頬をつねると、いつもと違う鈍い痛みを感じた。

 この感覚、夢世界に戻ったと見て間違いない。


 マグマの範囲は二十メートルにも及び、自分が顔をのぞかせている場所は、それの二倍くらいの高さに位置する。

 ともすれば吸い込まれそうになるくらいの高さ。

 それでもこれだけ暑いのは、四方が塞がれている洞窟に加え、何よりメラメラ燃えるマグマの灼熱度から来ている。


「とりあえず、夢葉を探さないと」


 起きたら近くに夢葉がいることを期待していたが、残念ながらこの場所にはいなさそうだった。

 隠れられる岩陰もなさそうだし。


 この場所から移動するには、背後に見えた一本道を通るしかなさそう。

 そこからこの洞窟を抜け出して夢葉を探そう。


 そう思ってマグマに背を向けて一歩踏み出した、その時だった。


「な、なんだっ!」


 突然地面が揺れ始め、僕は耐え切れず尻もちをついた。

 背後にはマグマがあるため、慌てて四つん這いの状態でマグマから遠ざかる。


 地震はしばらくの間続き、なかなか収まる様子がない。

 人が立てないくらいに大地を揺るがすその揺れは、かなり恐ろしく感じられた。


 早く収まって!


 そう心の中で祈る声は天に届かず、容赦なく揺れが襲いかかってくる。

 その揺れの行きついた先は、何をどうすればそんな不運が起きるのか。


 洞窟の揺れが伝播し、目の前でガラガラと大きな岩々が崩れ落ちる。

 崩れ落ちた先には、唯一の抜け道であった通り道。

 そこが大きな岩でどんどん塞がれていく光景を前に、言葉を失った。



 まさに悪夢であった。



 自分の頭上に欠けた岩などが降ってくることはなかったけれど、唯一の抜け道は多くの岩で塞がれてしまった。

 これでもかというほど岩が山積みになったところ揺れは収まったが、絶望のあまりその場から動けなくなった。


「嘘、でしょ……」


 進路の塞がれた今、自分にできることは何一つとしてなかった。

 試しに大きな岩をどかそうとしてみるが、中学生平均の筋力では、微動だにしない。

 残念ながら、岩をどかせるほどのチート能力に目覚めていそうにもなかった。


 夢葉から具体的に黒幕を見つける方法を聞いていない上、黒幕も夢葉も探す手段を奪われる。


「こんなの、どうすればいいの……」


 声を荒げる気力すらなく、弱音が小さく言葉となり口から漏れる。

 夢なら早く覚めてほしい。

 そう思う気持ちが心の中で高まる。


「どうして入口だけ集中的に塞がるんだよ……。地震にしては悪意がありすぎるんじゃないのか?」


 遂には自然現象に対してまで恨みを持ってしまう。

 辺りを見回すと、他の場所は全く被害がなく、ただ一点に対して被害が起きている。

 本当に、誰かが意図的にやったような現象。


「……もしかして黒幕の人が意図的に引き起こしたの?」


 何となく、そんな考えが頭をよぎった。

 ピンポイント過ぎるこの現象に誰かの介入を直感する。

 何故塞いだのかは分からない。

 けれど、こんなことをするのは黒幕しかいないだろう。


「黒幕、ここにいるんだろ! 僕をこんな場所に閉じ込めてどうするつもりだ!」


 慣れない怒鳴り声を洞窟の中で響かせる。

 生まれてこの方、激昂した記憶が全くなく、若干声が裏返った。

 自分の声が洞窟内で反響し、その声は、徐々に小さくなる。


 そして音が完全に途絶えた時、新たな音を生み出した者がいた。




「見事だ。よく私が引き起こしたと見破ったものだ」




 悪魔のような高笑いがマグマの燃え盛る方から響いた。

 その気配を背中から感じ取り、勢いよく振り返る。


 そこには万有引力の法則を無視し、マグマの上、崖の先に立つ男の存在がいた。




 そう、空中に浮かぶ男の姿が――――


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