episode17 先生に呼び出された件
【前回のあらすじ】
実力テスト1位は志熊星矢だった件
「お、姫君よ、我の雄姿を見てくれ! 我は武だけでなく知にも長ける男よ」
群衆で溢れかえる俺達の方へ、柴崎が歩いてくるのが見える。
普通に歩いているだけなのに、長い手足がモデルを想起させる。
しかし彼女は、星矢が声を掛けると目を閉じ、眉間に皺を寄せ不機嫌な表情を浮かべる。
そしてそのまま星矢の傍を素通りし、中央階段から下へと降りていった。
星矢は「うーむ」と後頭部をガシガシと掻いた。
「柴崎はどこへ行ったんだろう」
「あれじゃない? 補習テスト。柴崎さん、実力テストの日に休んでいたし」
「そういえばそうだった」
実力テストは直接成績に反映されないものの、進路を決めるにあたっては大事なテスト。
そのため、テスト当日に休んだ生徒は放課後に一日数教科ずつ、補習者を対象に作られた別の実力テストを受けることになると先生は言っていた。
前日に体調が悪そうにはしておらず、テストの翌日に何もなかったかのように登校していた柴崎。
彼女のみがうちのクラスで補習の対象となったのだ。
生理的な面での欠席という可能性もあるが、正直他に理由があるような気がする。
「星矢は柴崎と現実で会ったのは始業式の時が初めてなんだよね。なんでそんなに仲が悪いんだ? 夢の侵食の時、結構いい感じになってなかったか?」
俺は思い切って星矢に聞いてみる。
柴崎は他の人に対しても全く興味を示さないが、星矢に関してだけは特別蔑視している感じがして否めない。
星矢は腰に手を当てて宙を仰ぎ、はぁとため息を漏らす。
「我には存ぜぬ。開幕の儀の時よりあの調子でな。我にも見当がつかぬ」
落胆した表情の星矢。
恋心を寄せる人にああいう態度を取られ続けていては、心苦しくもなるだろう。
三年生になってから星矢のことを嫌悪し始めたのではなさそうだ。
少なくとも中学生の頃の彼女は、まだ人の気持ちを理解しようとする素直さがあった。
それが今では欠片もなくなっているのは、自分と同様、この三年間で何かあったに違いない。
「まあまあ二人共。そんな暗い顔しなくても、今日は志熊君が学年一位を取ったことを素直に喜ぼうよ」
「そうだな。そっちの方が重要だった。星矢、おめでとう」
パチパチと八代と一緒に拍手を送る。
星矢は照れくさそうな顔をして口元を緩めている。
けれど、完全に表情が明るくなったわけではなかった。
何とかしてやれないものだろうか。
そのためには柴崎と一度話してみるほかはない。
俺は嫌われてはいないだろうけど、とりわけ親しいわけでもない。
一般人Bの言葉に彼女は果たして耳を貸してくれるのだろうか。
白紙に力強く刻まれた志熊星矢のスコアを眺めながら、今から補習テストを受けるであろう柴崎の姿を思い浮かべた。
***
翌日の放課後。
帰りのHRも終わり、テストという非日常からひとまず解放された解放感に浸りつつ、俺は今日も今日とていそいそと帰り支度を始める。
リュックサックを背中に背負い、教室を出ようとしたところで、肩を叩く者がいた。
「御影君、ちょっといいかな?」
肩を叩いた人物は、脇に教科書を抱えた春木先生であった。
「なんでしょうか?」
「君にはこの後私と一緒に職員室に来てほしくてね。部活も入っていないみたいだし、大丈夫ですよね?」
「ええ、特に用事はないですが」
放課後に職員室へ呼び出しを受けることなんて、今まで一度もなかったため、少し戸惑う。
何かまずいことでもしてしまったのだろうか。
俺の動揺に気付いたのか、春木先生は「説教ではないから安心してください」と今一番聞きたかった言葉をくれた。
クラスの生徒の注目を浴びながら教室を出て、春木先生の後を付いていく。
とはいえ、説教ではなかったら何故職員室に呼ばれるのだろうか。
進路希望調査の紙は先週提出したが、第一志望は専業主夫です、などと金魚の糞になるようなことを書いた覚えはない。
そういえば先週、星矢が調査票に「世界を掌握する」と書いて先生に門前払いされていたか。
頭がいいのか悪いのかよく分からないやつだ。
前を歩く春木先生は終始無言。
学校は楽しいか、と気のいい会話の一つや二つしてくれてもいいのになと思う。
なんか反抗期真っ只中の息子に声を掛ける父親みたいだな、それは。
「さあ、入ってくれ。私はこれで」
「え、ここって進路指導室では?」
案内されたのは職員室横にある、畳六畳ほどしかない進路指導室だった。
「職員室に来てほしいとは言いましたが、職員室とは言ってない」
「いや、じゃあ進路指導室でいいじゃないですか?」
「細かいことはいいじゃないか。ほら、待っている人がいるから?」
「待っている人?」
進路指導室の扉は、外から生徒が覗かないように窓ガラスに紙が貼られている。
そのため、扉を開かなければ中に誰かいるのか分からない。
誰がいるのか先生に尋ねようとするも、先生は「ではではー」と隣の職員室へと消えていった。
何がしたいんだろう、あの先生は。
嫌な予感しかしないものの、入って用事を済まさなければ帰ることはできそうにない。
しぶしぶ俺は扉に手を掛ける。
「おじゃまします」
しかし、開いた扉の先には誰もいなかった。
代わりに、机が一台置いてあり、その上にノートパソコンが開かれた状態で設置されていた。
パソコンの画面が白く光っている。
見ろ、ということなのだろうか。
俺は後ろ手で扉を閉める。
指導に呼ばれたのだと廊下を行き交う人に変な噂をされるのは困るし。
扉を閉めると同時、ピコンとパソコンから起動音のようなものが鳴り、画面に人の姿が映し出される。
そして、その人物は俺のよく知る人であった。
「黒幕……!」
何度見たか分からない、サングラスをかけた男の顔が、じっとこちらを見据えていた。




