episode14 桜庭美雪と話した件
【前回のあらすじ】
星矢は黒幕と会っていない件
まさか自分の姿を見られているとは思わなかった。
木に寄りかかって桜に話しかけているのを見られるとか、黒歴史以外のなにものでもない。
「いやー、この桜の木は樹齢何年か測っていてね」
「え! すごーい。御影君は触っただけで分かるんだー! 何年だったの?」
「このくらいの木の大きさなら樹齢百年は越えているのは間違いない」
黒歴史をさらに増やしてどうする俺。
何が樹齢百年だ。
木輪を見ずして年数など分かる訳なかろう。
というか、今俺の名前言ってなかったか?
「桜庭さん、俺のこと覚えていたの?」
「朝会ったばかりだし、そのくらいは私だって覚えているよ。御影光、好きなものは夢。お願いします。だっけ?」
「何でそこまで覚えているの。今すぐにでも忘れてほしいんだけど」
「忘れないよー、だって面白かったもん。御影光、好きなものはーー」
「わーわーなにも聞いてないー」
耳をふさぎながら叫び、黒歴史がこの世で拡散されないよう苦心する。
そんな俺の姿を見て、桜庭は手で口を押さえながら笑う。
というか、俺以外の自己紹介でもっと面白いものがほかにもあったと思うのだが。
ほら、あの痛いせりふをものともせず叫んでいた男とか。
「うーん、でもわたし的には御影君の自己紹介のほうがツボだったよ。淡々と言っているところとか、あとは夢が好きなところとか!」
人によって主観は異なるし、そういうものなのか。
ウケをねらって笑いがとれなければ恥ずかしいが、ウケをねらっていないのに笑われると、反応に困る。
困惑する俺の前で、桜庭は上から舞い落ちてくる花びらに手を伸ばし、そのうち一枚を見事にキャッチする。
薄ピンク色の花弁を摘まんで俺に見せながら、彼女は微笑む。
本当に、よく笑う人だ。
すると、ピンク色の小さな命を宙に舞わせ、彼女はその細くて白い腕を俺に伸ばしてくる。
その所作は握手を求めるものだろうか。
「わたしの名前も覚えていてくれたんだね。桜庭美雪です。あと一年で卒業だけど、それまでよろしくね」
「あ、あぁ。よろしく」
クラスメイトに握手を求められるなんて今までなかったから、戸惑いつつもその手を握りしめる。
小中学生の頃は、女の子の手に触れるだけで照れてしまっていたが、高校三年生ともなればもうすぐ大人目前。
だから、これくらいの社交挨拶で動揺することなどないはずもなく、しっかり女の子特有の肌に触れ、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
握手を交わし、必然桜庭と目が合う。
はやりのカラーコンタクトを入れているのか、太陽に反射し大きな二つの目はきらきらと輝いている。
けれどなぜだろうか。彼女の瞳をのぞいたとき、ふと違和感を覚えたのだった。
曇りなきまなこ。
その先に、どこかで見たことあるような既視感があった。
「どうしたの、御影君。そんなにじっと見つめられると照れちゃうな」
「あ、ごめんつい。何でもないんだ」
握った手も離さないままでいたので、手を離して少し距離をとる。
手はつかめたが、違和感の正体をつかむことはできなかった。
というか、語頭に「あ」を付けすぎてキョドっているのがばればれだ。
意識して直したいものだが、なぜかしっぽではなく、頭について回るんよね。
呪われた仮面みたいだ。
というか、この時間にこの場にいるということは、
「桜庭さんは部活をやっていないの?」
「昔は色々やっていたんだけどね。こっちに来てからはなにもやっていないよ! 御影君は何かやっていたの?」
「俺も色々やってみたんだけど、どれもしっくり来なくて結局なにもやらずじまいだよ」
「そっかー、自分に合った部活動を見つけるのって、結構難しいもんね」
何か一つのことに打ち込める気概を持った彼ら彼女らは本当にすばらしい。
それが上手くあれ下手であれ、そんなことはどっちだっていい。大事なのは続けること。
続けることができれば、たとえプロになれずとも将来きっと役に立つ。
桜並木を歩きながらしばらく談笑し、河川敷を降りて十字路にさしかかったところで、
「じゃあわたしこっちだから」
と、桜庭は俺の家とは反対方向を指さした。
「結構家が近いんだね」
「なら、明日から一緒に帰っちゃう?」
「え、そ、それは……」
「冗談だよっ! まったねー!」
バイバーイと手を振りながら桜庭は走り去っていった。
俺は胸の前で小さく手を振り、その後ろ姿を見送る。
彼女は自分の容姿を見たことがないのだろうか。
その振る舞いを誰にでも行っているのか。
それが少しだけ気になった。




