episode11 休憩時間に談笑した件
【前回のあらすじ】
変わった自己紹介が続いた件
柴崎楓を美人と評するなら、桜庭美雪は美少女と評されるだろう。
若干張りつめていた空気も、桜庭の自己紹介によって和やかな雰囲気が舞い戻ってきたことを肌で実感する。
皆が皆、自己紹介においては堅い挨拶をしている中、桜庭はフレンドリーなものであり、たったの数言でハートを鷲掴むものであった。
桜庭美雪。
桜の咲いた庭で雪のように美しく舞い散る桜。初めて抱いた彼女のイメージにピッタリだった。
純情可憐、純真無垢。
彼女の挨拶に計算や思慮は見られず、心からの言葉であるに違いない。
いずれ彼女はこのクラスでも人気者になるのだろう。
対して、俺は彼女とは正反対の陰の者。
桜の木の下で声を掛けて貰えたのは、前世で全財産を募金に費やした徳が功した奇跡でしかない。
クラスが変わったところで、声を掛ける勇気もないし。
今朝のこと覚えてる? って話しかけて、
「え、えっとぉ……誰だっけ?」
なんて苦笑いで言われた日には枕を抱えて悶絶する映像が容易に浮かぶ。
一生引きずるトラウマを抱えるくらいなら、初会話などアカシックレコードにしまっておいた方がましだ。
そして、その後も自己紹介が進められ、最初に嘆いた男が話し終え、ちょうど鐘が鳴る。
「次の時間からは普通に授業ですから。受験生の諸君、頑張ってくださいね」
春木先生は手を振りながら教室を後にする。三年生になって初の休憩時間。
十分間の休み時間を何に費やすか、机の木目を数えながら悩んでいると、突然目の前が暗くなった。
これは、所持金が半分になりポケモンセンターに運ばれてしまうのか!
「無事だったかライトよ。此度の邂逅、嬉しく思うぞ」
俺はこの声に応えるべくか一瞬迷ってしまったが、流石に知り合いを無視するわけにはいかない。
いや、決して自己紹介で圧倒的にクライメイトにヤバい奴認定された彼と語らうことで、自分も同類扱いされるのを危惧したのではない。そう、決して。
「星矢も相変わらずみたいだね」
「うむ。この鋼鉄の右手をどうライトが修復したか定かではないが、あれはまさしくモーセが海を割った奇跡に近しい。ライトにはモーセの十戒の称号を授けよう」
「いや、言われなくても十戒レベルのことなら守ってるからあんまり嬉しくないのだが」
「遠慮はいらぬぞ。我と共に世界を救った英雄ならば当然のことよ」
「まあ、誰にも認知されてない英雄だけどね」
有名になったところで、テレビにクローズアップされるのは恥ずかしいし、自分の記憶に留めておくくらいがちょうどいい。
「なになに二人共、ちょっと興味深い話をしているね。俺にも聞かせてよ」
ぬっと俺の左横から顔を出してきたのは、後ろの席の八代だった。
そのまま立ち上がり、俺の左隣に陣取る。
八代も星矢も高身長なため、異様な圧迫感を感じる。
このままじゃ、やられる!
やられる前にやり返そう。
そう思い自分も立ち上がろうとするが、悲しいかな、俺の身長は百七十ジャスト。
二人の前では低身長に見られてしまう危険があったため、泣く泣く白旗を振る。助けてー。
「ほう、爽やかボーイも興味あるか。ならば聞かせて見せよう、我とライトの英雄譚を!」
「ちょ、星矢声がでかいよ!」
慌てて星矢の口を塞ぐべく、椅子を鳴らしてじたばたとする。
俺の口マスクをひょいと容易く星矢は躱すと、夢の侵食であった出来事について語り出す。
「あれは千の時を経る前のことだった。我は突然、異世界にこの身一つで飛ばされ、深淵なる森にてライトと邂逅したのだった――」
語り始めた星矢は口を止めることを知らず、訳も分からない専門用語を織り交ぜながら続ける。
よくまあペラペラと小難しい言葉が出てくるものだと別の意味で感心する。
星矢の語りに八代は嫌悪する姿勢を見せず、むしろ何度も相槌を打ちながら話を聞いている。
何だ、この男も良い奴じゃないか。
あの頃は自分がまだ中学生だったから星矢の言動を受け入れられたけど、今初めて出会っていたら、たぶん速攻で「あ、この後行かないといけないところがあるんだよね」と逃げ道を作るのに奔走するだろう。
休憩時間は十分しかない。
夢の出来事に所々脚色をつけて語っていたため、遊園地で出会った〇ッキーとの熱い友情物語を語り終えたところでチャイムが鳴る。
「ではまた次なる休憩時間に」
マントを羽織っていないにも関わらず、バサリと体を翻し、星矢は席へと戻っていく。
「彼はいつもああいう感じなのかい?」
「そうだな。星矢は初めて会った時からずっとあんな感じだよ」
「なかなか面白い友達を持っているんだね。御影、光くんだったよね。席が前後同士これからよろしく」
「……こちらこそ」
差し出された右手を振り払う訳にもいかず、俺はその手を握り返す。
これ、CDとか買わずに握ってよかったのだろうか。
ふと鈴村の席をちらりと見ると、彼女は口をへの字にしており、目だけで睨みつけられた。
やばい、今日の夜道は気をつけよう。
教室の前の扉が開き、次の授業である社会の担当の先生が入ってくる。
俺と八代は席に着き、急いで次の授業の準備を始めた。




