episode9 自己紹介をした件
【前回のあらすじ】
桜の下で美少女と出会った件
俺は慌ててこの二年間の記憶を振り返り、そしてその片隅にも二人の存在がなかったことを確認する。
一年生の時も二年生の時も、同じようにポスターに書かれた名前を眺めていて、全員分確認していたはずだが、二人の名前があればすぐに気づくはず。
なんなら名字か名前のどちらかが一緒の漢字を見ただけでハエを捕獲するカメレオンのように反応する。
であれば考えられるのは、転校の一択。
だが、二人は全く違う中学校に通っていた上、星矢に関しては岐阜県だ。
何がどう転んだらこの学校に転校してくるのかが全く持って意味不明。
こうなれば直接会って話を聞くしかない。
そう思い、足早々に教室に向かう。
が、その途中で予鈴のチャイムが鳴り響く。
思ったよりポスターの前で立ち止まっていたみたいだった。
廊下にはこれから体育館での始業式に向かう隊列が組まれつつある。
これは、次の休み時間まで待つしかなさそうだ。
残念無念また来年。
***
始業式は背の順ではなく番号順で列が組まれるため、俺は問答無用で後ろの方だった。
そのため、柴崎と星矢と直接話せる距離ではなかったが、前方に確かに二人の姿が見えた。
間違いなく、あの二人だった。
そして教室に戻って来てからホームルームが始まるまでの短い時間に、俺は二人の姿を盗み見る。
自分の席は中学生の頃を思い出す、廊下側の後ろから二番目。
後ろの席には男子が、前の席には女子が座っている。
この席からであれば、誰でも見渡すことが出来る。
志熊星矢の体格は相変わらず大きい。
顔つきも中学生の頃はまだ幼さが見え隠れしていたが、目の堀も深く、今となっては社会人と言っても過言ではないほど成長している。
ただ、ボサボサに伸びた髪をそのままにしているのが気になるくらいだ。
ホームルームを間近にして腕を組んで目を閉じている姿は、知らない人が見たら不良に見えるのかもしれない。
そして柴崎楓に関しては、元々美人だったのに更に磨きがかかり、腰まで伸びた髪は傍から見てもサラサラ。
慎重に対して小顔なその顔は、女優としてテレビに出ていてもおかしくないくらい整っている。
ただ、三白眼とは言わないにせよ、鋭い目つきは更に鋭度を増したように思え、こちらも近寄りがたい雰囲気を醸している。
元々他人を寄せ付けないような女の子であったが、何故だか三年前よりも負のオーラが漂っているような気がした。
「さて、ホームルームを始めましょうか」
颯爽と教室に入ってきたのは、年齢としては三十代後半に見える男性教諭だった。
丸型の眼鏡をかけており、ぱっと見理科の先生のように思えるが、始業式後に行われた学年集会で国語の担当ということが伝えられた。
にも関わらず、何故か白衣を着ているちょっと変わった新三年一組の担任である。
「これから皆さんを高校から羽ばたかせるためのお手伝いをします、春木康生と申します。これからよろしくお願いします」
パチパチと徐に拍手が起こり、自分もぺちぺちと軽く手を鳴らす。
何だろう、格好や話す言葉から詐欺師でもやっているかのような怪しい雰囲気を感じるのだが。
やっぱり国語じゃなくて理科を専攻すべきだったのではなかろうか。
「それではまず簡単に、皆さんの自己紹介をしていただきたいと思います。名前と好きなもの、あとは何か一言を言ってもらおうかな。三分後に出席番号一番から」
「そんなー」
出席番号一番を背負う者が悲鳴を上げる。
一番とは色々と悲しみを背負うことが多い。
長男で生まれてきたら、次男のために我慢することが多いように、特に学校においては楽だからという理由で強制貧乏くじを引くことが多い。
その点、俺の名前は「み」から始まるため、基本後ろの席で、色々な順番で後回しになるという特典が付いている。
捻くれた先生でなければ最後の番号から当てることは基本ない。
「……にしようと思ったけど、それじゃ一番君が可哀想だから四十番の彼からお願いしようかな」
ははは、地雷を踏んでしまったようだ。
変なことを考えてフラグなど立てるべきではなかった。
すると、背中からカタリと音が聞こえ、皆の注目が後ろに集まる。
「八代功基です。好きなものはい……アップルパイとスケボーです。一年間よろしくお願いします」
イケメンがそこにいた。
自分の通う高校は校則にそんなに厳しくないため、茶色系統に髪を染めている人が少なからずいる。
後ろの席の彼は、若干黒髪が残る程度に濃いめの茶色で髪を染めており、明らかに美容室で整えてきた、イケメンご用達のくしゃくしゃとした髪型。
身長は星矢よりは低いだろうが、百七十五はありそうで、細身。
鼻は高く、目はキリッと大きく、黄金比で形作られた顔面は、偏差値の上限を突破して百はありそうであった。
その顔に反してやや低めの声であったが、そのギャップが女子のハートを貫いたのか、何名かの女子がキラキラとした眼差しを送っていた。
三分という時間を待たず自己紹介をしてしまった彼の次は自分であり、イケメンに包まれた空気が地獄であった。
初日にして後ろの席の彼とは仲良くできそうにないと恨みがましく思い立ち上がる。
すると、女子の視線からキラキラがなくなったような空気を感じ、これが世界の条理かと悟る。
「御影光。好きなものは夢。お願いします」
軽く頭を下げ、着席する。
何一つ自己紹介のことを考えていなかったから、かなり不愛想な挨拶になってしまった。
だが、所詮は一年間の身。
卒業すれば思い出と共に繋がりも消え去るだろう。




