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episode6 世界が変わった件

【前回のあらすじ】

世界の干渉者でありたいと選択した件

「――起きて。――ゃん」


 ふわふわと漂っていた意識が舞い戻り、脳に血流が回り始める。

 すうと一息吸い、五感がうまく機能し始める。


 そして、自分の体が何者かに揺らされていること、その者が自分に対し何か話かけていることに気が付く。


「あ、やっと起きた」


 開眼して間もなく、大きな瞳が二つ、視界にドーンと飛び込んでくる。


 肩まで下りたさらりとした茶色っぽい髪。

 前髪はおでこの上で切りそろえられており、青色の制服に身を包む。


 太めの眉に丸々とした大きな瞳と小さな口。


 見たこともない女の子が夜這いでも仕掛けにきたかのような格好で俺の上体に跨り、おはようのお出迎えをしていた。


「君、誰?」


 眉を(ひそ)め俺は正答率百パーセントの模範質問をする。

 いや、起きたら知らない少女が跨っていたら誰でもそう言うでしょ。


 すると、名もなき少女は頬を膨らましぷるぷると身を震わせ、一瞬にして顔を真っ赤にした。

 それはイカを締めた時に一気に白くなるのと似ていた。




 

「そんな本当に知らないような顔をして何を言ってるのお兄ちゃん。妹の顔を忘れるなんてありえない!」





「え、お兄ちゃん? 妹?」


 そんな涙目になったところで、俺の覚えている限りの記憶フォルダに妹なる存在はインプットされていないのだが。



「母さんいつの間に再婚でもしたの?」


「ちゃんと血のつながった妹だよ!」


「じゃああれか? 昔生き別れた妹がいて、つい昨日この家に辿りついたとか」


「辿りついてないよ! スタートからずっとこの家だよ!」


「そう言われても、俺に妹がいた記憶が全くないのだが。俺か君、どっちかの記憶が操作されているとか心当たりは?」


「いやいや全くないから。ありえないから。SF小説でも読み過ぎたの? 現実をちゃんと見て!」



 上体を起こし、大きく横に手を広げて少女は言う。




「美玖は美玖だよ! 御影美玖(みかげみく)。正真正銘のお兄ちゃんの妹だよ。というか、昨日も一緒にご飯を食べたじゃん。記憶喪失ごっこやるような年齢でもないでしょ!」




 むーと右頬を膨らまし、腕を組む御影美玖を名乗る少女。

 というか、いつまでこの妹なる少女は体の上からどいてくれるのだろうか。

 そんなところで仁王立ちされても、君、義経みたいな守るべき存在がいる訳じゃないでしょ。


 そこから微動だにせず放置少女と化した彼女を放って置き、俺は周辺状況を確認する。



 例の男の誘いに乗っかり、男の言う世界を変える実験に参加。

 謎のスイッチを押して今に至る訳だ。


 だが、見渡す限り、ここは俺が小さい頃から慣れ親しんでいるマイルームで間違いない。

 少しくすんだテディベアも箪笥の上にしっかり置いてある。


 男の言う実験は現実世界を変えるのではなく、実は夢世界みたいなところに転移するのでは、そんな風に昨日考えていた。

 けれど、夢の侵食の時のようなふわふわとした感覚ではなく、正常に五感は働いている感じがする。

 俺の上に乗っかっている少女の重さもしっかり感じられるし。

 それを言ったら平手どころかグーが飛んでくるだろう。

 未だ腕を組んだ先で強く握られている少女の拳がそれを語っている。


 世界が変わったと言えば、この少女がそうなのだろうか。

 だが、俺は妹がほしいと願った覚えが全くない。

 一つだけ願いが叶えられると言われ、妹がほしいと願う男は、ギャルゲーをやりすぎて妹に幻想を抱くモンスター童貞か、過去に妹を失い蘇らせたいと思うようなブラコンくらいだろう。

 まあそんな人はいるはずもないだろうが。


 となると、今日はもしかしてクリスマスなのだろうか。

 若干寒いし。



「君はサンタが贈ってくれたプレゼントか何かだったり?」



 その瞬間、視界に大きな拳が飛び込んできた。

 上体を固定されていた俺は避けることもできず、額に神拳がぶつけられた。


「お兄ちゃんのバカっ! もう知らない!」


 少女は涙を流しお母さーんと叫びながら部屋から飛び出していった。

 俺は取り残されたメイを見つめるカンタのように天井をぼーっと眺める。


「どうなってるんだ? この世界は」


 俺の記憶が操作されているのか、それとも御影美玖なる存在が生み出されたのか。

 はたまた本当に世界が改変されてしまったのか。


 どれにせよ、男の言う世界を変えるの意味。

 真実を知らなければこのもやもやは解消されないのだろう。男はそれを言うことはない。

 そうなれば、自分で見つけるしかない。


 スマホで今日の日付を確認する。



「二〇二〇年四月三日月曜日。え、春休みは?」



 スイッチを押す前はまだ三月二十四日だったはず。

 いつの間に十日間過ぎたんだ?


 思わず時計に目を向けると七時半を指している。

 学校に遅刻せずに行くには、十五分後には家を出ないといけない。

 だから美玖は俺を起こしに来たのか。


 とりあえず美玖のことは保留にしよう。

 まずは学校に遅刻しないようにしないと。

 高校三年生で遅刻なんてしてしまえば、今後の進路に関わってくる。

 特段行きたい大学などないが、自分から内申を下げる必要もないし。


「春休みに希望を抱いてはいなかったけど、何もなくさなくてもいいだろう……」


 俺は脳裏に浮かぶ男のニヤつく顔に北斗百裂拳を加え、学校に行く準備を始めた。

今後は2000字前後で投稿頻度を高めたいと思います。今まで文字数長すぎ!と思っていた方はすみません!これからは一口サイズで読めるようになるかと!

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