episode1 夢の侵食から3年経った件
2章は毎話と言っていいほど伏線が仕込まれてますので
注意しながら、そして伏線回収を楽しみにしながら読んで頂ければ幸いです^^
夢の侵食から三年が経った。
三年という月日は短いようでとても長い。
二千年代に入り、技術の進歩が甚だしいこの世界は、男の独善的な野望により一週間の遅れが生じたところで全く動じず、既にあの出来事はネットの海に沈められた。
一週間と言えど、誰しもが数日間眠りにつき続けた経験をしたことにより、いっとき5チャンネルやツイッターなどネット上を騒がせたのは確かなこと。
ただ、逆に言えば全員が同じ影響を受けていたことにより、それを責める者は誰もいない。
むしろ誰を責めればよいか、群衆は責任者を求めたが、結論的に宗教がすべてを受け止めた。
「これは、神による仕業である」
神。
便利な存在だ。
お腹が痛くなれば、誰しもが神に祈りを捧げる。
どうか神様、もう悪いことはしないから、この痛みを抑えてくれ、と。
苦しいときの神頼み。
今際の念仏誰でも唱える。
神の懐は深い。
正月の初詣で一円五円十円と雑魚銭を投げて祈りを捧げる我々に対しても、怒りを向けることなくすべてを受け止めてくれる。
陰謀説も話題に上がったが、原因不明犯人不特定。
結局は市場にはびこる見えざる手がついに人間の生活に手を出したのだと、神の仕業ということで事態は収束。
止まっていた経済も一年経てば遅れを取り戻し、二年も経てば再び発展の一途を辿り始めた。
ちなみに、夢の侵食があった翌年の正月三が日の賽銭額は、過去最高を上回ったとか。
皆、考えることは単純である。
そして俺、御影光は夢の侵食から帰ってきてからの中学最後の一年。
なんとなんと、あの水無瀬早希と付き合うことに至っていた。
一週間とはいえ、夢で過ごした時間は数か月。
昼夜問わず共に過ごしてきた時間は、夢葉がすべての記憶を所持していたことにより失われず、俺もすべてを思い出すことができた。
互いに弱い所と強い所を見せ合い、共に成長した。
そんな深い経験が、確実に俺と水無瀬の距離を縮めた。
毎日昼休みを共に過ごし、楽しい話題に花を咲かせ、夏休みが始まる直前の七月二十日十六時二十分二十五秒。
俺は彼女に告白をし、晴れて付き合うことになったのだ。
とはいえ、お互い付き合うのは初心者同士。
せっかくの夏休みがあったにも関わらず、手を繋ぐことができたのは、会いたいと思う回数が、会えないと痛いこの胸が、君のことどう思うか教えようとしているクリスマスになってからだった。
遅いよと言われるかもしれないが、自分らはまだ中学生。そして何より受験生。
恋愛にかまけていられるほど余裕があるはずもなく、日々勉強に忙殺。
代わりに図書館で一緒に勉強をしていたのはいい思い出。
参考書を見るふりをして彼女に目を向けたらばっちり彼女と目が合うのもしばしば。
「一緒の高校に絶対に行こうね」
そう約束して、俺は有言実行。
頭のいい水無瀬のレベルに合わせた高校入学への切符を手に入れ、四月一日を迎えた。
けれど彼女は、水無瀬早希は高校一年生になる目前に、俺の前に二度と姿を現さなかった。
***
「なん……だと……」
桜舞い散る入学式。
その年は遅咲きも早咲きもせず、四月三日に満開の桜が校庭を埋め尽くしていた。
仄かな暖かさの中に頬を撫でるような心地よい風。
そんな春真っ盛りの校舎内にて、俺は大きく張り出された紙を見て愕然とした。
「一組……二組……三組……四組……五組……。
待て、落ち着くんだ俺。もう一度、一組……」
初めて買った宝くじの当選番号を新聞紙の紙面から探し出すように、俺はクラス分けされた名前の羅列している掲示物を何度も読み返した。
二週間前、三月中旬に水無瀬と一緒に合格発表を見た時、確かに二人共合格になっていたことを確認したはず。
彼女のスマホには合格の二文字と背景に桜が舞っていた。
にもかかわらず、水無瀬早希の五文字がどこを見ても見つからなかった。
俺のクラスは一組とすぐに見つかったのに。
「はーん、なるほど。さては先生が名前を入れ忘れたんだな」
よく見ると、三十人のクラスが四つあり、五組だけが二十九人だった。
恐らく水無瀬の名前だけ入れ忘れて中途半端になっているに違いない。
俺はすぐさま掲示物の隣で仁王立ちしている、いかにも生徒指導と思われる四十代後半の男性職員に声を掛ける。
「あの、水無瀬早希の名前がないんですけれど」
「何だ? 水無瀬早希? お前、男だろ」
「いえ、俺のことじゃなくてかの……友達の名前です。一緒に合格したのを確認したのですが」
流石に先生の前で彼女と公言するのは恥ずかしく、友達という便利な単語に置き換える。
「そんな名前の生徒いたかなー。ちょっと待ってろ。確認してきてやる」
がたいのよい先生がノシノシと歩き、職員室へと消えてゆく。
普通にいい先生だった。
数分後、時刻は八時十分を迎え、沢山の生徒がなだれ込んでくる中、先程の先生が戻ってきた。
「どうでした、先生! たぶん五組の人ですよね!」
やや興奮気味に訴える。
合格通知の届いた水無瀬がこの学校に受かっていないはずがない。
けれど、俺は心の奥底では、何となく底冷えする寒気を感じていた。
嫌な予感、と言うべきもの。
思い返せば、今日の朝テレの占いは最下位だった。
水無瀬とは合格発表を見た次の日から今まで会っておらず、その上連絡をしても全く返事が返ってこなくなっていた。
しまいには、入学式は早くクラス発表が見たいから七時半には学校に行こうと約束していたにも関わらず、彼女が校内に姿を現さなかった。
校門で三十分待っても来なかったので、先に行ったのだと思い今に至る。
勿論、校内に彼女の姿はなかった。
先生は俺の顔を見ると、大きな右手で頭を掻きながら、俺に真実を告げた。
「一年生の名簿を確認してきたが、水無瀬早希はこの学校に入学していないぞ」
その瞬間、俺は世界が崩れ去るのを感じた。
世界に立った一人取り残されたかのような感覚に陥り、頭が真っ白になって床に膝をつく。
「おい、大丈夫か!」
先生が慌てて俺の肩を掴む。
そしてガクガクと首が折れるんじゃないかと思うくらいの勢いで体を揺らした。
けれど、全神経が脳に集中していたため、痛みも揺らされる感覚もない。
思考は宙を舞い、宇宙の彼方へと飛ばされる。
水無瀬早希がこの学校にいない。
どうして、の言葉が脳内に連呼する。
この学校に彼女がいなければ、一体どこにいるんだ。
俺はとっさにポケットのスマホに手を伸ばしラインを開く。
彼女とのメッセージは未読のまま。
それを確認した上で、彼女に電話を掛ける。
「友達が一緒の学校にいないのはつらいと思うが、まあ頑張れ少年」
先生はそう告げて俺のそばから離れていった。
コール音が何度も耳を通り抜けていくが、彼女の声が一向に響くことはなく、
「おかけになった電話をお呼びしましたが、お出になりません。しばらく経ってからおかけ直し下さい」
と言われ、留守電につながることなく切れる。
俺はスマホの電源を落とした。
今の状況から考えられること。
一、やっぱり先生の勘違いにより、合格していたにも関わらず名簿の登載がされていない。
その内職員室からごめんねてへぺろと言って先生が名前を加える。
二、水無瀬は実はこの学校に受かっておらず、俺があの日に見た合格の画面は別の学校のものだった。
今思えば、俺の合格画面に桜が舞っていなかったような……いや、スクショを確認したら舞っていた。
三、彼女はやっぱり夢世界の住人で、今の今まで夢を見ていた。
そして今日目を覚まして現実を知った。
さすがに現実感なさすぎる。
そして四。
水無瀬早希は何らかの事情があって俺の前から姿を消した。
「けれど、そう考えるしかないか……」
水無瀬を怒らせるようなことを俺はしたのだろうか。
残念ながら全く見当つくことが思い出せない。
高校の入学を捨ててまで俺の前から姿を消した理由。
ラインに既読が付かない今、どう考えても自分が原因としか思えない。
気付かないうちに、俺は水無瀬の地雷を踏んでいたのだろう。
思えば一年経った今でも、彼女のことを全部知っているかと言われると、あまり自信がない。
どこまで踏み込んでいいか分からず、あまり深く聞いたりしてこなかったから。
もしかしたら、それが原因なのかもしれない。
自分が水無瀬に興味を全然持っていないと思われたか、もしくは俺の亀のような歩み寄りが、彼女のストレスになっていたのかもしれない。
「どうすればよかったのだろうか」
掲示物の前で立ち尽くす俺に声を掛ける者は誰一人としていない。
心の支えであった水無瀬を突然失った今、俺の目に世界は、絶望に彩られたものに感じられ、何もかもがどうでもよく、色彩すら失われたように感じたのだった。
2章 高校編開幕です!!
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