episode29 男三人衆裸で語り合った件
【前回のあらすじ】
ディズニー〇ンドにて、三日目を待たずして水無瀬早希と御影光の恋は終わりを告げた件
「おーい、生きてるか―御影―って、なんで濡れてるの!?」
背中を揺り動かされるのを感じて、俺は目を覚ました。
枕に顔を押し付けていて息が苦しく、布団の中だったため、真っ暗。
どうやら、いつの間にか寝ていたらしい。
八代の問いかけに応じるべく、俺は布団の中からゆっくりと体を起こした。
「もうすぐ風呂の時間だから起こしたんだけど……もしかして、泣いてた?」
かすみ目で八代の顔を認識した後、俺はスマホを取り出して内カメラを起動した。
そこには、涙を流し過ぎて目を腫らし、鼻と頬を真っ赤にした俺の顔が写っていた。
目元がひりひりして、痛みを感じる。
今お風呂に入ったら、きっとひどく痛むことだろう。
「色々あって」
俺はゆらりと立ち上がって、大浴場へと向かう準備をする。
カバンの中から着替えとタオルを取り出していると、背中に声がかかった。
「その話、お風呂に入りながら聞いてもいいかい?」
振り返った先では、片手に温泉セットを抱えて意気揚々としている八代が目に入る。
その穏やかな目を見ていれば、それが単なる好奇心でないことはすぐに分かった。
「なあ、星矢君も聞きたいでしょ?」
部屋の中にはパッと見、見当たらなかった星矢は、トイレの扉を開けて中から出てきた。
「うむ、友の涙の理由を聞かぬ友がどこにいる」
「決まりだね、さあ行こう」
俺の背中をポンと叩くと、颯爽と八代は外へと歩いて行った。
それに続き、玄関先に既に用意していたのか、タオルや着替えを抱えて星矢も出て行く。
「え、俺の許可は?」
話すとは誰にも言っていないのに、これでは断りようがない。
言うまでもない、ということだろうか。
まあ、八代には勝負の話を聞いてくれた借りもある。
その結末を話さないというのは、道理に反するだろう。
でも、こういうのって、普通大浴場じゃなくて、電気を消した部屋の中で話すもんじゃないだろうか。
少しずれた二人の反応に首を傾げながら、俺も二人に続いて大浴場へと向かったのだった。
***
「そっか、ちゃんと向き合えたんだな」
「我の知らぬ間にそんなことが。だがライトよ、貴様はやはり、ロマンティストだな」
「ロマンティストなんて言われたの、初めてなんだけど」
男三人衆、露天風呂に浸かって暗闇に散らばる星を眺めた。
今日あった出来事をかいつまんで話すと、八代は俺の肩に手を置いた。
制服を着ている時には分からなかったが、意外と筋肉のあるその腕に、少し驚いた。
「正直、どっちかに絞れずに中途半端になってしまうかもと思っていたんだ。君は優しいから。さっき泣いていたのも、決め切れないことに嘆いていたんだと思い込んでいた。
だから見直した。きっと彼女も今頃泣いているかもしれないけれど、修学旅行が終わる頃には元気になっているよ」
「ありがとう、八代」
ちょっとだけ、ほろりと流れた涙を、温泉の湯で顔を洗うことでごまかした。
すると、少しだけ蚊帳の外になっていた星矢が、その距離を縮めてきた。
鍛え抜かれたボディビルダーのような肉体が目に入り、何故か危機感を覚えた。
「我もライトとドリームガールが戯れる姿は目にしていたが、納得した」
だが、とそこで星矢は言葉を切る。
「ライトは気付いていなかったであろうが、チェリーガールはうぬらの戯れを目撃していたぞ」
「え、それっていつの話?」
「我がライトを目撃するチェリーガールの姿を目視したのは二度。亥の時に二人で手を結んでタワーオブ〇ラーに足を運びし時と、夕刻に石橋にて黄昏し時だ」
どうやら桜庭には最初と最後の瞬間を見られていたらしい。
シーの面積はそれほど広くない。
運が良ければ二度三度と鉢会う可能性だってあるだろう。
だが、それについては問題なかった。
「大丈夫、それについては、桜庭から許可を貰っているから」
「許可?」
「うん。嫉妬はしないから、水無瀬の気持ちにちゃんと応えてほしいって」
「ふっ、甘いぞライトよ」
だが、その免罪符に対して星矢はこんなことを言った。
「女子は心では理解してたとて、嫉妬に狂うものだ。明日、ゆめゆめフォローを忘るるな」
「いやいや、明日と言わずこの後にでも呼び出した方がいいよ。まだ二時間くらい自由時間あるから」
八代と星矢の助言に、それもそうかと頷いた。
何があったのか知らない桜庭にとっては、たった一夜だとしても不安にさせる訳にはいかない。
それだったら、先に手を打っておいた方がいいに決まっている。
「分かった、風呂から出たらすぐ連絡するよ」
その発言に、二人は大きく頷き返してくれた。
シーでは各々が想い人と過ごしていたけれど、修学旅行のようなイベントは、この先待ち受けていない。
男だけの時間も、俺にとっては青春。
少し冷たい風を感じながらも、今度は八代と星矢のデートについて言及してみたりと、男三人での談笑を楽しんだのだった。




