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episode27 亀に教えを請うた件

【前回のあらすじ】

水無瀬早希とランドを回るも、彼女があまり楽しそうにしていない件

 お昼の時間となり、俺達の班は一度大きめのレストランに集合して昼食を摂ることとなった。

 イタリアン風のお店で、サイゼ〇ヤとは比べ物にならないくらいの価格がメニュー表に並んでいる。

 夢はお金で買えないとよく言われるけど、夢の国の通貨はお金であることに少し納得がいかない。

 とはいえ、バイトのできない高校生の資金は親からのお小遣い。  

 お土産代を残して存分に使うとしよう。


 メニューを決めたところで俺は席を立ち、少し離れた場所にあるトイレへと向かった。

 そして、トイレを出た先に、桜庭が立っていたのだった。

 桜庭は俺と目が合うと、すぐに近寄ってきた。


「午前中、どうだった? って、あまりよくなったみたいだね」


 俺の顔色を察してか、彼女は眉尻を下げた。


「もう少し盛り上がると思ったんだけど、いまいち楽しんでいるかどうか分からなくて」


「それって、緊張とかしてるってこと?」


「うーん、緊張とはちょっと違うと思う。手を握っていたけど、そういうのは感じなかったし……」


 自分の右手を見ながら思い返しても、やっぱりあれは緊張じゃないと思った。

 不意に言葉を止めた彼女の顔を見ると、目と口が横一文字になっていた。


「どしたの?」


「別に、全然大丈夫だから。ひかるんとは明日一日デートできるんだから」


 何かをごまかすように慌て出す桜庭。

 その仕草に疑問を感じていると、彼女はこんな助言をしてくれた。


「それなら、ター〇ルトークとかどう?」


「タート〇トークって、あの亀に質問するやつ?」


「亀じゃなくてクラッ〇ュだよ! 午前中になのなのと行ってきたんだけど、すごい面白かったの。なのなのが、

『ミッ〇ーに中の人はいるんですか?』

 って真面目に質問したらね、

 『ミッ〇ーってのは聞いたことがあるぜ。陸にいる、ネズミのことだろう? きっと彼のいる世界に、中の人なんていないぜ。もちろん、俺だってそうだ。俺をはぎ取っても、そこには誰もいないからな。だから絶対、そのミッ〇ーとやらに会ってもそんなこと聞いちゃダメだぜ』

 って。もう、おかしいでしょ」


 まさか冗談で言ったことを聞くなんて、さすがは菜乃だ。

 だが、桜庭には大うけだったようでなにより。

 

 タート〇トークとは、海の中で泳ぐ魚の世界が舞台の映画『ファインディング・〇モ』で登場する亀のキャラ、ク〇ッシュが見に来てくれた人間たちの質問に答えてくれるという、アトラクションというよりはショーに近いものだ。

 どんな質問をしても、魚ジョークなどを交えて面白おかしく、それでいてちゃんと答えてくれるらしい。


 一度のショーで答えてくれる人数も限られているが、もし質問権を得られたら、良い助言をしてくれるかもしれない。

 

「分かった、午後に行ってみるよ」


「うん、頑張って!」


 水無瀬の勝負の相手である桜庭に応援されるのは少し違和感があるものの、彼女は敵とはいえ、本当は水無瀬の味方。

 あくまで、彼女の為に行動してくれているのだ。


 俺は桜庭に感謝を述べて一足先に席へと戻り、みんなでの昼食を堪能した。


 そして解散後、俺はやっぱり少し表情に陰りのある水無瀬を、タート〇トークへと誘ったのだった。




***




「おーい、ク〇ッシュ―!」


「ぅおおおお、さいこー! おお、これはすげえ、人が沢山いるぜ。お前達、最高だぜー!」


 ガイドさんから事前にレクチャールームにて説明があった後、海底展望室と呼ばれる、大きな海の中が映し出される部屋へと移動した。

 午後一のタート〇トークは、まだみんな昼食を食べているのか、すぐに順番は回ってきた。

 ガイドさんの掛け声と共に、ヒーローショーのように彼の名前を呼ぶと、優雅に泳ぎながらク〇ッシュがやってきた。


「ク〇ッシュってあの亀さん? 結構声、渋いんだね」


「一応百五十歳らしいからね」


「へーそうなんだー」


 午前中は乗り物系しか乗っていなかったためか、ディ〇ニーキャラが出てくる演出に、水無瀬は目を輝かせていた。 

 アニメはほとんど見ないって言っていたけど、やっぱりこういうのは女の子は好きなのかな?


 そんな風に思っている最中、みんなの声に元気がないと、三回ほど「お前達、最高だぜー」「うぉー」のくだりをやった後、


「今日はオレに、人間について色々教えてほしいんだ。オレに協力してくれるやつは、こうやって大きく、手を挙げてはーいって言ってくれるかな? お前達、最高だぜー」


「うぉー」


 ついに質問タイムがやってきた。

 隣で真剣にうぉーと両手を上げて声を出している水無瀬に、つい頬が緩んだ。

 彼女の良さは、そんな真面目なところ。

 一人目に小さな女の子が当てられて質問をする姿を見て、何となくショーの仕組みは理解したのか、次の時には大きく手を挙げていた。

 それと共に、当てられる可能性を二倍にするため、俺も手を挙げた。

 すると今回は、人が少ないのも相まってか、十人に満たない人数しか手を挙げていないことに気付く。

 これはもしや、チャンスあるか?


「そうだなー、今度は後ろの席の方、行ってみようか。一番後ろの席の、左から五番目の、海みたいな水色の服を着た女の子。そう、君に決めた」


 俺は思わず横を向くと、本当に指名された水無瀬が自分を指差して、目を開けて驚いていていた。

 

「良かったね、水無瀬」

 

 俺はその肩をポンと叩くと、俺の顔を見て少しホッとした様子だった。


「君、名前は何て言うんだい?」


「水無瀬早希です」


「水無瀬早希、良い名前だ。俺に聞きたいことは何だい?」


 クラッ〇ュが海の中を泳ぎながら、こちらを見ている。

 無論、観客の視線も少なからず集まっている。

 周囲を見回した後、俺は改めて水無瀬の顔を見た。


 そこにあったのは、海の光も相まってか、まるで深海で一人静かに暮らしている、お姫様のような、深く、暗い瞳だった。




「好きな人に好きな人がいるんです。でも、その好きを諦めないといけない事情があって。それで、この気持ちをどうしたらいいのか、分からないんです。どうしたらいいでしょうか?」




 海底展望室にざわめきが走り出す。

 それは水無瀬が質問した内容が、かなり重たいものだったからだろう。

 

 好きな人に好きな人がいる。

 それは、俺と桜庭のことで間違いない。


 けれど。


 諦めないといけない事情って、なんのことだ?


「おー、人間界の恋ってやつは、結構複雑なんだなー。オレにはシェ〇ーっていう百三十年連れ添ったパートナーがいるんだけど、その出会いは単純だったぜー。オレがいつものように海でサーフィンしていた時、シェ〇―が突然現れて、オレがうぉうって見てたら、シェ〇ーがうぉーってなって、オレがうぉぅって。一目惚れだったんだ。それからずーっと一緒なんだぜ」


 それはクラッ〇ュの鉄板ギャグだろうか。

 その小さな子どもでも分かるエピソードに、笑いが巻き起こった。

 けれどその時も、水無瀬は真顔でクラッ〇ュの顔を見ていた。


「けれどミナセサキ、君の恋愛は違うんだろう? 好きを諦めるってことは、辛いもんだ。きっとその好きを伝え続けたら、更に辛くなるだけだ。君も、そしてその好きな人もだ。

 だったら、何を伝えたらいいと思う? 

 それは、君自身が一番よく分かっているはずだぜ。

 君がその人を好きになって、そこでゲットした思い出。それを振り返れば、もう一つしかないだろ?

 お前達、最高だぜー」


「「「うぉー」」」


 そしてクラッ〇ュは、次の質問を求めて再び挙手を募ったのだった。


 だが俺も、そしてきっと水無瀬も。

 それからの時間、しばらく顔を正面から動かすことができなくなっていた。

 目の前でクラッ〇ュが泳いでいるのは目に入っているけれど、耳には何も、音が入ってこない。

 入ってきているのかもしれないけれど、脳で処理がされていなかった。

 

 そして、クラッシュが続けて数名の質問に答え、ガイドさんの合図で解散が告げられた時。

 ハッと我に返って水無瀬の顔を見ると、ちょうど彼女も俺の方を見た瞬間だった。

 いつもだったら視線を逸らしていたけれど、今回はそうじゃなかった。


 今度は俺から、彼女の左手をぎゅっと握りしめ、無言のままタートル〇ークの会場から退出したのだった。

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