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epilogue1 文化祭1日目が終わった件

【前回のあらすじ】

御影光はあの日言えなかった好きという言葉を桜庭美雪に言えた件

 文化祭一日目は、風のように過ぎ去った。

 楽しい時間はあっという間に過ぎ去ると言われているが、こんなにも早く過ぎるとは思わなかった。


「まあ、それも俺が爆睡していたからだけどね」


「先輩何か言いました?」


「いや、もったいないことをしたなーと思って」


 目の前でたませんを頬張る菜乃を前に、つい後悔の念が出てしまう。

 



 昨日の演劇の練習は、夜八時にまで及んだ。

 学校側も文化祭前日ということから、各クラスの事前準備を考慮して、時間を伸ばしてもらえるのだ。


 午後三時前にはクラスに戻ると、何も言わずともその練習の輪の中に入れてくれた。

 きっと、八代と鈴村がまた何か言ってくれたのだろう。

 

 そんな中、菜乃だけでなく桜庭とも一緒に戻ってきた俺に対し、早川が何か言いたげそうな視線を向けてきていた。

 けれど、それはほとんど諦めのような視線で、ため息を一つつくと、興味を失ったように衣装を手に取っていた。

  

 彼にとっても最後の文化祭なのに悪いことをしたなと思いつつも、俺が不在中の彼の行動は、菜乃から聞いている。

 その姿を見て、いつか彼にも桜庭とは別の、いい人ができることを祈っている。


 練習と言っても、今日は本番前の最後の練習。

 最初からリハーサルが行われた。


 とはいえ、桜庭と菜乃に関しては元々練習を積んできた身。

 俺自身も、後顧の憂いがなくなったことで、伸び伸びと演技をすることができ、百パーセントとは言えずとも、それなりの完成度となっていた。


 そんな練習が、先生による退去宣告により終わりを迎え、俺は直帰した後に泥のように眠りに落ちた。


 そして、ゆっくり出店を回ることができる一日目の半分以上が消費された午後二時に、やっと起きたのだった。


 その起きた理由は、菜乃が家まで来てくれたからだった。


「せんぱーい! 文化祭終わっちゃいますよ!」


 怒涛のインターホンの連打と共にその声が聞こえてこなければ、きっと夜まで寝ていたに違いない。

 聞くところによると、美玖は出店の準備があるため朝一で学校に行ったらしいが、その後心配になって菜乃に連絡を取ったらしい。

 そして菜乃が家に来ると、案の定爆睡丸と化した俺がいたとのこと。


 かくして、文化祭一日目が終わる二時間前に、ようやく学校に滑り込んで今に至るのだった。


 

 とはいえ、その後何かあったという訳ではない。

 八代と鈴村は、二人で楽しそうに文化祭を回っている様子が見えたから、声はさすがにかけられなかった。

 星矢と柴崎の姿は見なかったが、きっと見つからなかっただけだろう。

 そして桜庭も同じく見つけらず。

 まあ、見つけたところで何を喋っていいのか互いに分からないというのが本音な所。

 むしろありがたかった。


 そういうこともあり、迎えに来てくれた菜乃と一緒にクラスを回っていると、美玖を発見。

 一人で黙々とカステラを焼いていたが、その前には長蛇の列が。

 美玖の作るカステラが美味しいと評判になっていたらしい。


 けれど、どうやら一日中カステラを作っていたらしく、俺が美玖のクラスにお願いして彼女を狩り出すことに成功。

 その後は、まるで保護者の気分を味わいながら、菜乃と美玖と文化祭を回ったのだった。


 楽しそうに二人で女子会トークをするのを見て、俺は去年と一昨年を思い出す。

 けれど思い出のようなものは何もなく、ぼんやりと体育館で軽音楽部などが歌っている姿や、三年生が全力で演劇をしている姿を眺めていたような気がする。

 誰かと一緒に回るなんて、初めてのこと。

 こんなに楽しいなら、もっと早いうちに友達を作っておけばよかったと少し後悔する。


 今後もこんな風に後悔するようなことが、きっと沢山あるだろう。

 高校生活の大半を無為に過ごしてしまったのが、その典型例。

 これからは、なるべく後悔をしない人生を送っていきたいな。


 そんなことをふと思いながら、ゆっくりと沈んでいく太陽に目を向ける。


 いよいよ明日は、演劇の本番。

 けれど、俺にとって演劇は、あくまでただの舞台。

 Ⅿが世界を変えて舞台を用意する中で、俺達が踊らされるように。



 …いや、違うな。


 Ⅿの舞台上で、俺達が踊っているように。


 演劇の舞台を利用させてもらおうとしよう――。


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