表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
241/314

episode48 越えられない差を見せつけた件

【前回のあらすじ】

加納菜乃を探すことを決意した件

 その後、二時間かけて夜の街を駆け抜けて捜索したものの、やはり手がかり一つ見つからずその日の捜索は終わりを迎えた。

 菜乃がやっているのは、いわゆるかくれんぼのようなもの。

 全く俺たちが知らないような場所には行くはずがない。


 そのため、今日は中央公園へと足を運んで、重点的に探しては見たものの、その姿はどこにもなかった。


 翌日、やはり菜乃は学校に来ず、クラスメイトから不安の声も聞こえてきた。

 そこで、午前中の授業が終わりを迎えた後、俺と桜庭はいつものメンバーを集めたのだった。




「……というわけで、俺と桜庭はこれから菜乃を探しに行こうと思う」


 幸い、授業が午前中だけということもあり、午後は家に帰ったとしても学校側からはお咎めは一切ない。

 なので八代や鈴村の時とは違って、使える時間は大幅に増えている。


 しかしながら、それは文化祭の練習を休むのと同一。

 事情だけは説明しておかなければならない。


 とはいえ、ここには菜乃を探すのを止めるような人物はいなかった。


「君らならきっと見つけられるよ。それなら、俺もこの学校で手がかりがないか探してみる」


 まずは八代が同意を示してくれる。

 この学校の中に限って言えば、八代の交友網の広さは絶大。

 むしろ赤の他人であっても、彼に声をかけられれば答えない者は、特に異性に限って言えばほとんどありえない。

 水無瀬について情報を集める時も、一瞬で多くの情報を集めていたことだし。

 このまま残ってもらう方が、効率もいいだろう。


 八代が残ると言えば、必然的にもう一人。

 彼の隣でくっついている鈴村も、大きく頷いた。


「星矢、君が作った台本は無駄にしないから。必ず菜乃は見つけてくるし、練習はその分、家で積んでくるから」


 一番練習を抜ける許可を貰わないといけないのは、やはりこの男だろう。

 うちのクラスの演劇は、この男の台本によってすべて作られているのだから。


 俺が学校に復帰した時、何も言わずにその輪に迎え入れてくれた彼。

 この中では一番交流が深い彼であれば、分かってくれるはずだ。


「パーティまで、まだ伍時いつときある。ジャンバルジャンを見つけたジャベールのことだ。エポニーヌを頼んだぞ」


 レ・ミゼラブルのストーリーに交えて、星矢からも後押しを受ける。

 本当であれば行動力のある彼も動いてほしかったが、彼には演技指導等、練習をまとめるという大事な役目がある。

 

 菜乃が戻ってきても、彼女がやりたいと言い出したレ・ミゼラブルが中途半端な形で終わってしまうのが、一番悪い。

 そうなればきっと、菜乃を見つけられたとしても、不登校になってしまうか、責任を取って転校するとか言い出しかねない。

 

 まだ転校してきて一ヶ月経っていないが、今じゃ立派なクラスメイト。

 そんな彼女の居場所を、これ以上失わせるわけにはいかない。


「柴崎も、それでいいか?」


 そして最後の一人、柴崎にも声をかける。

 けれど彼女は、いつものツンツンとした態度は一体どこへ行ったのか。

 星矢の制服の裾をちょこんと摘まみながら、その背中に隠れるように小さくなっている。

 

 過去を暴露された時ですら見せなかったその様子に、首を傾げざるを得ない。

 それは俺以外も同じで、心配するような顔つきでみんなが柴崎のことを見ていた。

 

 だが、彼女を庇うように星矢が前へと躍り出る。


「楓のことは気にするな。我に任せておけ。貴殿らは各々、やるべきことをやろう」


「そっか、なら任せる」


 それだけ堂々と彼氏が言うのであれば、もう何も言うことはないだろう。

 もう何度も一緒に苦難を乗り越えてきた仲だ。

 本当にどうしようもなくなったら、きちんと手を伸ばしてくれるに違いない。


 こうして、いつものメンバーから許可も得られたため、俺と桜庭は教室を後にしようとする。

 

 だが、そんな俺達の背中に声をかける者がいた。




「ちょっと二人共、一体どこへ行くんですか?」




 振り返った先には、既に衣装に着替えを済ませたマリウス、もとい早川が手を伸ばしながらこちらに歩み寄ってきたのだった。

 俺は手を伸ばせば届くような距離で立ち止まった彼に、一言で説明する。


「菜乃を探してくる」


 そう言って扉に手を掛けたが、次は肩を掴まれた。


「意味が分からないですよ。菜乃さんはただ学校を休んでいるだけですよね。そんなことより、文化祭まであと五日しかないんですよ! 勝手なことをされては、みんなが困りますよ!」


 一刻も早く探しに行きたいのに、彼の正論により足止めを食らってしまう。

 そんなこと、俺だって痛いくらいに分かっている。

 文化祭まで時間がないことなんて。

 

 けれども、文化祭以前に、大事なものがそこにはある。

 彼女と交流を重ねてきたからこそ、分かることが。

 

 俺は早川の手を外そうとするも、彼は力を入れて離す様子はない。

 そのことに苛立ちを覚えて彼を睨みつけるも、彼は彼でムッとした視線を向けている。


「早川、今はそれどころじゃないんだ。文化祭には必ず間に合わせるから、だから行かせてくれよ」


「いいやダメです。風邪以外の他の理由があるなら、先生や保護者に任せればいいじゃないですか! どうしてあなたが行く必要があるんですか! それに、桜庭さんを一緒に連れて行かなくてもいいじゃないですか」


 そう言って、ちらりと視線を桜庭に向ける彼。

 なるほど、そういうことか。

 俺が桜庭を連れて行くことに納得していない。

 それが一番の理由か。


 だが、それであれば問題はない。

 桜庭からの返答を求めているようであったが、その答えは既に決まっている。

 なぜなら、俺は桜庭のことを信じているから。


 俺が隣にいる桜庭に目を向けると、彼女もこちらに目を向けてきた。

 そして、俺が頷くと、彼女は笑顔で返してくれた。

 その様子を見て、早川は俺と桜庭を交互に見比べる。


 その通じ合っている理由が分からないと言わんばかりに。


 だがそれは、今の彼では絶対に分からないだろう。

 何度もすれ違いを重ねながら、互いの想いをぶつけあった俺と桜庭にしか、絶対に分からないのだから。


「はやっちごめんね。わたしは、御影っちと一緒に行きたいから」


 そう言って、桜庭は俺の肩を掴んでいる早川の手首をポンと叩いた。

 すると、あっけらかんとした表情で、早川はその手を力なく離した。


「行こう、桜庭」


「うん! ……えっ」




 桜庭は君には渡さない。




 そのことを見せつけるように、俺は桜庭の手を掴んで教室を飛び出したのだった――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 超えられない差、ってそういう……(笑) 通じ合ってる……青春だなぁ(遠い目)
2021/11/27 20:48 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ