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episode21 作戦会議を開いた件

【前回のあらすじ】

柴崎楓が弓道で、志熊星矢は剣道で全国一位と知った件

「まずは、僕達がどうして集められたのかについて考えたい」


 僕が最初に出したお題。

 それは、共有夢に関することだった。


 黒幕は自分達を同じ夢世界に閉じ込めた。

 集まったメンバーは、年が同じでみんな未成年。

 数多の人間がいる中、僕たちが選ばれた理由は何なのか。

 ランダムなのか、それとも恣意的なことなのか。

 その理由が分かれば、何か黒幕について知ることができるかもしれない。


 柴崎も星矢も沈黙する中、僕は思考の海を辿る。

 しかし、その先に島は見えず、予測だけが渦巻いており、確たる真実に近づけない。


 そんな中、柴崎は興味深いことを口にした。


「そういえばあたし、夢の侵食が起き始めた時、クラスで耳にしたんだけど、みんな口々に昨日の夢は楽しかったって言っていたわ」


「同じく。羨望せし存在との交流、はちきれんばかりに腹を膨らませる夢。どれも至福の時であったと述べていた」


 二人のクラスメイトはみんな楽しい夢を見ていたという証言。

 普段から夢の内容を口にする人は多くはいない。

 だからこそ、夢の内容が印象的であったという事実には、少しばかり疑問を感じられる。


「なるほど、黒幕が言っていた幸せな夢を見させる、ってこういうことか。じゃあ、どうして僕たちだけこんな悪夢ばかりなんだ?」


 確かに夢葉たちと過ごした時間は楽しいものであった。

 しかし、今直面している問題は悪夢のようなもの。

 話を聞く限り、他の人も黒幕と戦うようなことや、夢の侵食について語る人はいない。


「そう、それが言いたかったの。あたしたちだけ、他の人とは違う夢を見ているって。だからやっぱり、この夢だけは他とは特別なのよ」


「特別……。じゃあ、もしかしたらこの夢が夢の侵食の根幹になっていることも」


「ありえるかもね」


 核となっている夢。

 そう言われてみると、腑に落ちる。

 夢葉とレアがこの夢の中にいるのも、それが原因なのかもしれない。

 何かが掴めそうな気がして、今度は自分たちの共通項を探し出す。


「僕達に共通することって、全員が中学三年生ってことぐらいだよね」


「だと思う。後は……志熊、あんたはどこ中学なの?」


「オレは尋常(じんじょう)中だ。岐阜県の」


「岐阜県、じゃあ違うわ。あんたが名古屋に住んでいれば話は変わっていたわ」


「なぬ、ならば姫君とライトは愛知なのか」


「そうだよ」


 そこから先は、色々と腹を割って話してみたものの、三人に共通するようなことは見つからなかった。

 部活動は当然のように違うし、趣味も被るものはなかった。


 仕方なくそこで共通項を探すのを諦めることにする。

 もし本当に偶々集められただけだとしたら、あまり深く考えても意味がないと判断したから。


 なので次は、黒幕について考え始める。


「あの男には物理法則が効かない。そして、夢世界を自由に操ることができる。この二つが大きいことだと思う」


「それはあたしも見て分かったわ。あんなの、反則過ぎるわ」


「だから、今こうして僕達が喋っていることも、あの男には筒抜け。世界を支配しているということは、そういう……」


「ちょっと待って」


 そこで柴崎が話を止める。

 どうしたのかと首を傾げながら僕は彼女に目を向ける。


「どうして会話があの男に筒抜けなのよ」


「いや、だってそれは世界を支配しているんだし」


 僕は何を当たり前のことを、と言いたげな顔で話すが、対する柴崎はそうではなかった。

 彼女は客観的に、冷静に考えた答えを言う。


「いやいや、広い夢世界を支配していたとして、すべてが聞こえている訳ないじゃない。むしろ広すぎるから聞こえないでしょ」


「けど、柴崎も聞いたでしょ、黒幕の話していたこと。あれはすべて僕達の話を聞いていないと分からない訳で」


「それって夢葉とレアちゃんのこと? そんなの、夢世界を支配しているならそれくらいの情報は持っているでしょ」


「それに、僕がその、夢葉が好きだって言ったことも……」


「そんなの、見てればすぐに分かるわよ」


「な!」


 そんなに分かりやすいだろうか、僕は。

 少し今まで行動を省みる僕をよそに、ずっと黙っていた星矢が口を開く。


「いや、首魁がオレたちの弁を聞いているのは違わぬ事実だろう」


「首魁? 黒幕のこと? どうしてあんたはそう思うの?」


「単純に考えればよい。物理法則が効かず、自由に消えたり顕現したりできる。そんな存在の実体が、ここにいると思うか?」


「……つまり、黒幕の姿は偽物であると?」


「うむ。例えるならホログラムだ。おそらく、奴に一太刀浴びせても効かないだろう。何故なら、奴の本体は別の場所にある。この夢世界を、哨戒している隠れ家にな」


「確かに……そうかもしれない」


 そう考えればすべて説明がつく。

 僕たちは超絶的な行動ができないのに、黒幕はそれができる。

 遠隔操作であれば、すべて可能なのかもしれない。


「だとしたら、やっぱり世界を壊すしかないのか」


 夢世界に現れる黒幕は本体ではない。

 だとすれば、無理に戦って怪我を被るのは下策に当たる。

 核兵器みたいなものがあれば、と考え始めたところで、またもや柴崎が否定の意を示す。


「ちょっと待って、それは違うわ」


「どうしてそう思うの?」


「あんたは冷静さを失っていたから気付いていなかったと思うけれど。夢葉とレアちゃんを穴に落とした後、最後に男が現れた時、あの男の顔に傷がつけられていたの」


 そう言われて、僕は小さなレアが握り締めていた白い塊のことを思い出す。


「それって、レアが突き出したあの角のこと?」


「たぶんそう。あの男が消える間近、あたしは確かに、顔を歪めているのが見えたわ。たぶん、その傷のせいよ」


「……だとすれば、実体は同じであると?」


 柴崎が見つけていた思わぬ根拠。

 僕はごくりと唾を飲み込んで言う。

 すかさず、柴崎は口元にえくぼを作りながら答えた。


「そうでなければ痛みを受けることも、傷をつけることもできない。それに、あたしたちが揃ったところで黒幕が現れるっていうのも何となく気に掛かる。本当に、そういう条件があるのかもしれないし。そう考えたら、やっぱりあたしたちの声は聞こえていないと思うわ」


「なら、普通に作戦を立てられるね」


 流石に夢の中すべてに監視カメラを設置することはできないだろう。

 柴崎の言うことを信じていいかもしれない。


「じゃあ、手段は二つ。この世界を壊すか、黒幕を倒すかの」


「世界を壊すって、夢を? どうやって?」


 柴崎はファミレスでの話し合いに参加していないから、僕の自信満々に言った前者の手段に疑問を呈する。

 目を丸くする柴崎に対して、僕は何の躊躇もせず、ついでに無駄にいい表情を浮かべながらその手段を彼女に突き付ける。


「バクを探すんだよ」


「ば、バク!?」


 僕が考えていた夢世界を壊す作戦。

 それはバクを見つけてバクに世界を壊してもらうことだった。


 龍や河童が現実世界に存在するか否かレベルの突拍子もない自分の言説に、柴崎は口をパクパクさせた。

 簡単に信じてもらえるとは勿論思っておらず、その根拠となる実体験を述べた。


「僕が初めてこの夢世界に来た時、つまり夢葉と出会った時、野原の彼方に前後が黒で真ん中が白の生き物を見つけたんだよ。最初はその動物の名前を思い出すことが出来なかったんだけど、以前バクだってことを思い出してね」


「バクって、バクが夢を食べる話は聞いたことがあるけれど、それは作られた話なんじゃ……」


「その話には続きがあってね。そのバクが野原の雑草を食べ始めた時、例の目が覚める頭痛がして、僕は夢から追い出されたんだ。それってつまり、夢を食べたから僕が夢から覚めたってことでしょ?」


 バクを見つけることが必勝の策。

 それ以外の夢世界を壊す方法は、残念ながら今の僕には思いつかない。

 けれども、賭けてもいい手段であると思う。


 僕の熱弁を聞き、柴崎は顎に手を当てながら呟く。


「そう、そんなことがあったのね」


「うん。それでさっきこの夢が夢世界の根幹を成していたって話をしていたでしょ? なら、この夢をすべて食べれば、夢の侵食は止められると思う。バクの力を最大限引き出せれば、可能性はある」


 バクによって夢から追い出されるのは、共有夢を見ている人全員であることは前回に確認されている。

 だとすれば、バクは夢世界の核爆弾になり得る可能性を秘めている。

 その気になれば人を夢から追い出すだけでなく、その夢自体をなくすことだってできるはず。


 とはいえ不安も残る。

 万一成功しなかった場合だ。

 柴崎はそこに言及した。


「でも、もしできなかったら?」


「その時は、もう黒幕を倒すしかない。夢の原理を知らない限り、この世界を壊す方法はたぶんこれだけだと思うから。その時は二人に大きく頼ることになるけれど……一緒に、世界のために戦おう」


 二人に対し頭を下げる。

 戦闘となれば自分にできることは全くない。

 参加すれば、逆にお荷物になることは目に見えている。


 けれど、星矢と柴崎の二人であれば。

 近接と遠距離で頂点を取った二人ならば、あの無謀な相手でも希望は見えるはずだと信じていた。


 数十秒の時間が流れた後、先に柴崎が言った。


「分かったわ。その時はあたしの弓に任せなさい」


 自信満々に言う柴崎。

 その隣にいる星矢は自分の胸を叩き、目だけで意志を伝えた。


「ありがとう、二人共」


「何言ってるのよ、あたしたちは仲間なのよ」


「あはは、それもそうだね」


 共通の敵が存在すれば、民衆は団結してその敵を倒そうとする。

 今の状況はまさにそれであった。

 出会ってから何年と時を経ていない三人ではあったが、黒幕と言う共通の敵を倒すという目的がその間に絆を紡いでくれた。

 そんな気がしたのだった。


「それじゃ、まずはバクを探しましょ」


「うん、この世界のどこかにはいるはずだよ。頑張って探そう」


「我が千里眼をもってすれば容易いことよ」


「へぇ、なら早くやって見せてよ」


「ま、待て。千里眼の発動には時間が……」


 意地の悪い視線を柴崎は送る。

 戸惑う星矢の姿を見て、彼女はケラケラと笑った。

 どうやら柴崎も星矢の扱いを覚えたみたいだなと密かに思った。


 僕は(おもむろ)に窓際へと歩みを進め、開いた窓から空を見上げる。

 空は青く澄み渡っていて、何度見ても夢だとは思えないほどリアルに広がっている。


 この先、そう簡単に夢の侵食を止められるとは思わない。

 むしろ、死にもぐるいの死闘が待ち受けている可能性だってある。

 けれども、絶対にあの男に勝つ、と右手の拳を力強く握りしめる。


 青い空に星型のピンバッチを付けた少女の顔が浮かび上がる。

 夢葉のためにも、絶対に。

 世界を、救わないと。


「御影―、そろそろ行くわよー」


「うん、分かった」


 柴崎に呼ばれて窓を閉め、教室を出る。

 次に空を見上げる時には、空に浮かび上がるのではなく、隣にいてくれたらいいなと心の底から願ったのだった。

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