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episode20 最強の2人と再会した件

【前回のあらすじ】

水無瀬の姿を見て再度、世界を救う決意をした件

「よし、成功したか」


 地べたに寝転がっていた体をゆっくりと起こす。

 

 まずは状況確認。

 肌で実感する、何となく鈍い感覚。

 夢の中であることに間違いはなさそうだ。 


 広い運動場に、立ち並ぶ大きな校舎。

 今度の場面は学校であった。


「というか、ここ僕が通っている中学校じゃん」


 今いる場所は、普段は入ることが禁止されている屋上だった。

 そこから見える景色に既視感を覚え、すぐに自分の学校であることに気付く。


「夢は自分の記憶を整理するために見るものだってよく言われるけど、本当なのかも」


 これまで見た景色は、思えば今まで見たことがあるものばかりだった。

 お菓子の家は、実物は見たことがないが、初めてグリム童話を読んだ時に、一番印象深かったもの。

 それが関係しているのかもと推測する。


「とりあえず、みんなを探そう」


 二回目の夢を見た時は、起きた場所に夢葉がいた。

 おそらく星矢や柴崎も近くにいるだろう。

 そう思い校内を探すべく、屋上の扉に手を掛けようとした。


 するとその瞬間、鼻に金属が当たる感触を覚えた。


「わぁぁ!」


 慌てて飛びずさろうとした所、引き戸ということもありドアノブに服を引っかけて体が半回転し、勢いよく地面に頭を打つ。


「あ、すまぬ」


 頭をさすりながら、僕は聞き覚えのある声の主を睨みつける。


「星矢、驚かせるなよ!」


「オレの脳裏に悪魔が舞い降りたのだ、許せ」


「魔が差した、じゃないよ! ったー」


 これはこぶになりそうだと夢世界に戻って早々仕組まれた不運に嘆いた。


「ちょっと志熊、早くどいてよ。あたしが入れないじゃない」


「これは失礼仕った。姫殿を日の下に(さら)すべきか迷っており」


「はぁ? 何訳の分からないこと言っているの。早く通して」


「御意」


 星矢が跪いて開けた道の先から、柴崎が不機嫌そうな顔で出てきた。

 どうやら星矢と柴崎も近くで目が覚めたらしい。

 夢の中を探し回る可能性も考えていたから、その手間が大きく省けて有難く思う。


「あんたもこんな訳の分からない男に付き合わされて大変ね」


「まあ、悪い人ではないんだけれどね」


 そう言いながら、僕は二人の顔を見て安堵する。


「それで柴崎、その格好は一体?」


 再会して早々気になった柴崎の格好。

 白色の道着を着て背中には矢筒を携え、そして手には弓がしっかりと握り締められていた。

 その隣では、相変わらず大きな剣を携えた星矢もいる。


「まさか柴崎、星矢の毒牙にかけられたのか!?」


「ば、馬鹿じゃないの! 私がこれを持っているのはあの男と戦うためよ。誰がこのナルシストなんかと」


「姫君であろうとも、聞き捨てならん。オレはありのままを体現しているだけだ」


「ならその剣は何よ。オモチャの剣なんか持ち歩いて。子供過ぎでしょ」


「我が黒龍剣の捌きを知らぬか。何を隠そう、オレは剣一筋で天下を取った男だ」


「まーたあんたの妄想でしょ。何を言っているのかさっぱりだわ」


 どうやら少し話し合う必要があるらしい。

 これ以上仲間同士で争うのはよくない。


 僕は二人の間に割り込み仲裁をした。

 そして、ひとまず話し合いをするべく近くの教室に移動することにした。




***




「まずは、僕たちはまだお互いのことを、特に柴崎はよく知らないから、一度自己紹介をしよう。あと、これから先の戦いに備えて特技も教えてほしい」


 教壇に立ちながら僕は先生風に言う。

 正面の席に星矢と柴崎は二席間を空けて座っていたから。

 それ以上、特に意味はない。


 まずは星矢から名乗り出た。


「オレの名前は志熊星矢。うぬらと同じ、十五年の時を経ている。特技は剣舞。剣道界においてオレの名を知らぬものはおらぬ」


「そういえば、天下を取ったとか言っていたよね。もしかして、それって全国大会のこと?」


「肯定だ。オレは片手面使いの男。右腕一筋で天王山を支配した」


 予想以上の大物に、今更ながら驚く。

 そしてやはり、黒幕と対峙した時に彼が気絶していたことを少しばかり悔やんだ。

 彼がいてくれれば戦況もだいぶ変わっていただろう。


「姫殿、我が才能はどうだ。これが汝を救った漢の正体だ」


「ふーん」


 けれど、柴崎はあまり驚いていなさそうであった。

 まるで、自分の方がすごいとでも言わんばかりに。


 トントンと机を指で叩くのをやめ、今度は柴崎が立ち上がる。

 立ち上がる瞬間、その長い髪が静かに靡いた。


「前も言ったけど、あたしは柴崎楓。で、見て分かると思うけれど、弓道部に入っている。中学生大会をニ連覇しているわ」


「に、ニ連覇!? ということは、中学一年生から……!」


「そうよ。それがあたしの特技」


 仲間の二人が予想以上の特技を秘めていて、驚きよりも胸の底から躍動感が溢れ出てきた。


 剣と弓。

 近距離と遠距離の戦闘に長けた人物が二人も仲間にいるのはすごく心強い。

 黒幕に対してどこまで力技が通用するのか分からないが、この力は絶対に必要になるだろうと確信する。


「それで、御影はどうなの?」


 尋ねられて一瞬だけ口ごもる。

 自分には二人のような特殊は持っていない上、頭もさほどいいわけではない。

 ザ・凡人であった。


 しかし、僕には一つ自信を持っていることがあった。


「御影光、十四歳。中学三年生。残念ながら、僕は二人みたいに飛びぬけた特技を持っていない。けれど僕は思うんだ。この夢葉とレアがいる夢世界に、僕のような凡人がいるのには何かしらの理由があるって」


 正直、そうあってほしいという願望のようなものもあったけれど、あの男が何も考えずに僕にこの夢を見せているとは思えないのだ。

 そうでなければ、世界七十億人の中の一人である僕の名前を名指しするようなことはしないはず。

 それに、僕が選ばれた人という証拠も存在する。


「星矢と柴崎は今まで見た夢世界を現実でも見たことがある?」


「今までって言われても、あたしはまだ二つだけだから。けど、二つとも見たことないわよ」


「右に同じ。オレの海馬に構築されているであろうパンドラの箱の中には存在せぬ」


「だよね。だけど、僕は違うんだ。今まで見てきた世界。思い出してみれば、僕は全部見たことがあるんだよ」


 ただの広い草原だと思っていたのは、北海道のふれあい牧場に行ったとき、森は田舎にある実家に戻ったとき、確かに見た光景であった。


「それなら、何かあるかもね。あんたがここにいる理由も」


「うん。たぶん、僕たちがここに集められたのには、黒幕が一枚噛んでいると僕は思っている。何かしらの理由があるって。だから、今からそれについて作戦会議を開きたいと思う」


「ちょ、ちょっと待ってよ」


 黒板に添えられているチョークを手にすると、柴崎がその行動にストップをかける。


「どうしたの?」


「あんた、まさかあの時のこと忘れたわけじゃないでしょうね。あのサングラス男が言っていたことを。あんたが、あの男と会ったことがあること」


「なぬ! そうなのかライト!」


「ああ、そのことね……」


「あたしは正直、あんたのことをまだ疑っている。それは、あんたもあの男に通じているかもって。だから、あたしたちに話していないこと、すべて教えてほしい。……そしたら、信じることが出来るから」


 疑いながらも信じたいと言う柴崎。

 その目を見た僕は、トラウマではあるものの、それらをすべて話すことにした。

 辛くはあったものの、話しているうちにどんどん気が楽になる。

 仲間、という以前に友達の存在の大きさに気が付いたのだった。


 最後まで真剣に聞いていた柴崎は、僕が話し終えると目を瞑ってふぅと一息吐いた。


「なるほどね、あんたがあの時全然動けなかったことにも納得したわ」


「ごめんなさい」


 僕は素直に謝る。

 それは、夢葉に対しても、レアに対しても。

 あの時自分が動けていたら、たとえ力がなくても二人を守ることが出来たのかもしれない。

 そのことを、深く後悔していた。


「分かった、あんたを信じるわ。話してくれてありがとう」


 ありがとう、と言われて、僕は目を丸くした。

 柴崎のような気が強い子がお礼を言うのは、かなり珍しいのでは。

 僕の反応を見て、柴崎は顔を真っ赤にしながら言う。


「な、何よ。あたしだってお礼くらい言うわよ」


「姫君の美貌がリンゴとなりて輝いている。眼福なり」


「あんたは黙っていなさい、この中二病!」


「中二病!?」


 この様子を見る限り、星矢は柴崎に一目ぼれでもしたのだろう。

 けれど、その道のりは長そうである。


「ということは、まだあの二人は生きている可能性があるってこと?」


「僕はそう思っている。あの男がやろうとしていることは、僕達を徹底的に絶望させようとすること。たぶん、男の言うもう一つの目的は、それだと思う」


「何それ、性格悪っ。きもっ」


 柴崎は両手で自分の腕を抱え、ブルリと身震いする。


「じゃあ、一通り話し終えたから、これから作戦を考えよう。夢葉とレアを救出し、黒幕を倒す作戦を」


 そう告げると、柴崎と星矢の目の色が変わる。


「あたしもあんたと同じで、あの時は全然動けなかった。それが一番悔しい。だから、次会った時は絶対に、この弓であの男を射抜いてみせる」


「オレは、そのことを知らぬ。四次元世界を彷徨っていたからな。だが、(つが)いを失ったとなれば黙ってはいられない。鍛錬に精錬を重ねたこの武技、必ずや我らの矛となろう」


 二人の意気込みを聞き、僕は黒板に大きく「救出大作戦」と書く。

 僕の心にはもう、迷いは一切なかった。

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