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episode11 役の割り振りを行った件

【前回のあらすじ】

クラスの出し物がレ・ミゼラブルに決まった件


 脚本の出来は朝のHRにて、春木先生からも絶賛だった。


「志熊星矢君。君がうちのクラスにいて良かったよ。この物語が再現できれば、優勝間違いなしだ!」


 星矢の脚本は、セリフだけでなく裏方の動きも絵付きで描かれていた。

 とても一夜で作ったとは思えない出来に、先生は拍手を送る。


「我にかかればこんなものよ」


 ガハハハと満足げな様子の星矢であったが、その鼻の高さも今回は気にならない。

 文化祭で優勝した際のMVPは、最初から決まったようなものだった。


 そしてその日の帰りのHRにて。

 早速演劇練習を行うため、まずは役割分担をすることとなった。


 壇上に立つ、四月に立候補で決まったクラス委員長である早川はやかわかけるが、進行役役を担っていた。

 相変わらず細身の眼鏡を掛けた姿は、委員長という肩書にぴったりだ。


「えー、それでは、レミゼラブルの役割分担を行いたいと思います」


 そして彼は、黒板にそれぞれの役の名前を書いていった。

 星矢の脚本には、既に裏方までクラス四十一人分、役が与えられていた。

 

 徐々に名前が羅列する中、自分はどれにしようかと頭を悩ませる。


 星矢の脚本は確かによかった。

 だが、今の俺の心境としては、とても文化祭で大役を担って楽しめる状態ではなかった。

 その原因が、隣に座る彼女との関係にあるのは明らか。


 前を向きながら、彼女の姿ができる限り視界に入らないように努力していた。

 その顔に、喜怒哀楽どんな表情があったとしても、どう反応していいか分からないから。


 早川が黒板に役を書き終えてチョークを持つ手を下げると、こちらに向き直った。


「役の決め方ですが、立候補制にしたいと思います。もし被った場合は、じゃんけんにしましょう」


 それはつまり、早い者勝ちということか。

 先に立候補すれば、同じ役をやりたいと思った人の牽制になったりもする。

 法の下の平等を重んじていそうな委員長がそんな提案をするとは、少し意外であった。


 すると早速、いの一番に星矢が手を挙げた。


「我に、アンジョーラなる役を演じさせてはくれないだろうか?」


 アンジョーラは政府に反乱を起こす青年組織のリーダー。

 男気と革命の精神が溢れた役であり、まさに星矢に相応しい役であった。

 よくよく読み返すと、アンジョーラの役のセリフは、他よりも名言っぽいセリフが多き気がする。

 もしかして、最初からこの役をやる前提で書いていたのか?


 とはいえ、それくらいの裁量は彼には許されている。

 クラスメイトから自然に湧き出た拍手が、彼の役の決定を意味していた。

 

 そして彼の立候補を皮切りに、次に手を挙げたのは菜乃だった。



「はいはい! ナノは、エポニーヌがやりたいです!」



 レミゼラブルを自分からやりたいと提案したにもかかわらず、エポニーヌをやりたいと彼女が言ったのは意外であった。


 エポニーヌは、言うなれば悲劇のヒロイン。

 幼馴染への恋は成就せず、最後の最期しかその想いは伝わらない。

 彼女であれば、エポニーヌをやりたいと言うと思ったが。

 むしろ、エポニーヌ役が似合っているのは……。



「うちもエポニーヌやりたいんだけど?」



 一番前の席に座る鈴村が、名乗りを上げたのだった。

 タイムリープ事件が、何となくレミゼラブルの恋愛模様に重なる。


 マリウスが八代で、エポニーヌが鈴村で、コゼットが沙耶ちゃんで。

 最後に想いが伝わるまで一途を貫いた鈴村の姿は、まさにエポニーヌだ。


「他にエポニーヌをやりたい人はいませんか? ……いないようですね。では、二人でじゃんけんをお願いします」


「ナノが絶対に勝ちます!」


「うちだって、負けないわよ!」


 最初はグーから始まるじゃんけんは、一発で勝負が決定した。


 菜乃がパーを出し、鈴村がグーを出したのだった。


「やったー!!」


 分かりやすく一回飛び跳ねて喜ぶ菜乃。

 負けた鈴村はその場に崩れ落ちたが、八代に頭を手でポンポンされて、少しだけ立ち直った様子であった。

 何やら八代から告げ口を受けた彼女は、再び役の候補を挙げる。



「じゃあうちは、ガブローシュでいいわよ」


 

 ガブローシュとは、アンジョーラ率いる青年組織の中で、一番最年少の子ども。

 政府との最後の戦いにも参加し、劣勢の中、単独で政府に突撃して銃弾に倒れる悲劇の役でもある。

 同じ悲劇繋がりであるが、鈴村が立候補したのは、背の小ささとか、その辺りが理由だろう。

 八代が鈴村に何と言ったのか、手に取るように分かった。


 その後、ジャンバルジャン役として八代が立候補し、即決定。

 確かに三百年生きた八代であれば、演劇の主人公を演じることは造作もなさそうだ。


 そしてなんと、星矢からの推薦により、ファンティーヌ役には柴崎が就任した。




「何であたしがファンティーヌなのよ」


「彼女の慈愛の深さは楓の優しさに通ずる。且つ、かのマリウスのハートを一発で射止めたコゼットの美貌は、ファンティーヌの美しさがあってこそ。ならば楓しか、その役をこなせる人物はこのクラスにおらぬ!」


「バカ、こんなところで何を言ってるのよ!」




 などという既に日常と化した痴話喧嘩に見慣れたクラスメイトから、拍手が送られて決定する。

 窓際の席にも関わらず、その顔が真っ赤に染まっているのがこの席からでも分かる。

 これがリア充のための文化祭というやつか。

 アンジョーラの最期は爆死ということでいいだろうか。


 と、ここまで円滑に進んだ役割分担は、どうやら登場人物の役を先に埋める流れができたらしい。

 裏方役に立候補するクラスメイトは出てこなかった。

 音響でもやろうかなと思っていた俺は、その流れが終わるのを待つことにする。


 そして数十秒の間があった後、まさかの発言をした人物がいた。




「あの、もし本人が良ければなんですが、桜庭美雪さんを、コゼット役に推薦したいです」


 


 その発言をしたのは、まさかの委員長だった。

 そして次の発言も、衝撃的なものであった。




「そして僕は、マリウス役をやりたいです」




 ヒロイン役の推薦と、その恋人になるヒーロー役の立候補。


 それが意味するのは、一つしか思い当たらなかった。

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