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episode10 文化祭の演劇テーマが決まった件

【前回のあらすじ】

席替えにて、加納菜乃と席が離れることに成功した件。

 文化祭。


 それは、リア充のリア充によるリア充のためのお祭りである。

 陽キャと呼ばれる部類の人達が騒ぎ立て、陰キャと呼ばれる人達が何とかしてやり過ごそうとする、天国と地獄の縮図に他ならない。


 どちらかと言えば陰キャの部類に位置する俺は、去年と一昨年にクラスで一体何のイベントが行われていたのかすら覚えていない。

 いや、あまりに何もなかったので、思い出したくもないというのが本音のところ。


 とはいえそんな文化祭も、三年生は全員一律、体育館の舞台でイベントを行わなければいけないというルールが、この学校には課せられているらしい。

 だからこそ春木先生は、演劇物をやる前提で、テーマを決めようと言い出したのだった。


 三年生にとって、この九月末に行われる文化祭は受験勉強の邪魔でしかないと思う人も多い。

 けれど先生達は、文化祭を真剣にやれないような生徒は受験戦争に勝つことはできないと、若干スパルタ気味なのである。

 とはいえ本音は、夏休みを乗り越えたご褒美と、追い込みをかける前の、最後の楽しみとして、この時期に設定しているのだろう。

 本当のところはよく分からないが。

 

 そんな三年生の晴れ舞台である演劇。

 そのテーマを決めるには全員の同意が必要であり、三年生の思い出がかかっている。


 だからこそ、なかなか生徒の中から、やりたいテーマが出てこなかった。




 しかしながら、クラスメイト同士の話し合いが続く中、「はいっ!」と勢いよく手を挙げた人物がいた。


「転校生のナノが言うのもなんですけど、『レ・ミゼラブル』とか、どうですか?」


 レ・ミゼラブル。

 世界史の授業か何かで聞いたことはあるが、話の内容は全く分からない。

 確か戦争の話だっただろうか。

 するとその提案に、春木先生が嬉しそうに話し始めた。


「レ・ミゼラブル、いいじゃないですか。私達のクラスは文系の世界史クラス。ストーリーも素晴らしいですから、きっといいものになりますよ!」


 すると春木先生は、再び教卓の下でごそごそし始めると、一本のDVDを取り出した。


「実は私もですね、もし皆さんが何もテーマが出なかった時は、このレ・ミゼラブルを提案しようと思っていたのですよ。まさか加納さんから言い出してくれるとは思わなかったですが。もしよろしければ、二時間目は私の世界史の授業ですが、これから二時間、映画を鑑賞しませんか?」


 春木先生は世界史の先生ということもあり、菜乃のアイデアには好意的な印象を得ていたらしい。

 他にテーマを求められたものの、クラスメイトから別案は出そうになく、そのまま映画鑑賞という流れになった。

 受験生とはいえ、映画鑑賞は遊びの一種。

 断る生徒もいなかった。


 映画は二時間半という超大作だった。

 二時間目では見終わらず、戦争に向けて登場人物達の想いが交錯し始めたところで打ち止めに。

 

 だが生徒皆、その世界観に引き込まれた結果、帰りのHRの時間に、その延長が流されることになった。


 主人公と思われる主要人物が最期を迎えた時、おうおうと涙を流す生徒もいた。

 そして映画が終わると、おー!!という歓声と共に、面白かったという声が相次いだ。


「レ・ミゼラブル。皆さんの最後の文化祭の劇として、いかがですか?」


 その声に反対する者は、誰一人いなかった。


 代わりに、おうおうと涙を流した生徒、星矢が、席を立ちあがって宣言した。


「感涙した! 是非我に、この脚本を一任してほしい! 必ずや我がクラスを、堂々たる優勝へと導く脚本を書いてしんぜよう!」


 星矢が脚本を書くとか。

 横文字や難読漢字が多そうなのだが。


 とはいえ、脚本を書くというのはかなり難易度が高い作業。

 特に一時間という決められた舞台時間で、二時間半のこの作品を凝縮しなければならない。


 言動はあれだが、学力に関しては学年一位であることは確か。

 その鶴の一声で、劇作家が彼に任されることになった。


 そして早くも翌日。


 学校に来ると、全員の机に『あゝ無情~レ・ミゼラブル~』と書かれた脚本が並べられていたのだった。

 皆一様にその脚本を読んでおり、俺もその出来を確かめることにしたのだった。



 

 レミゼラブルとは、ヴィクトルユゴーというフランスの作家が書いた歴史小説である。

 かの有名なフランス革命後に起きた七月革命や六月暴動などの事件を基に、架空の人物達が奔走する物語。


 主人公は主に二人。

 ジャンバルジャンとマリウスである。


 物語はこのジャンバルジャンという人物が一本のパンを盗み、十九年間の監獄生活を送る所から始まる。


 彼は服役後、温かく出迎えてくれた司教の家で銀食器を盗んでしまう。

 そのことで再び彼は捕まるも、司教はその銀食器を厚意で渡したと断言し、釈放された。

 それがきっかけで彼は改心し、名前を変え、その街の市長にまで上り詰めた。


 そんな彼が営む工場で、幼い娘であるコゼットを持つファンティーヌという女性が働いていた。

 彼女は貧しく、娘の育児をテナルディエ夫妻に任せており、この夫妻にお金を搾取される毎日を送っていた。

 綺麗な髪と歯を売ってまでお金を作るも、彼女はしまいには倒れてしまう。

 市長として、彼女のことを知ったジャンバルジャンは、コゼットを引き取ろうと考えた。


 そんな中、市長である彼がジャンバルジャンであることを見抜いた警察がいた。

 ジャベールである。

 彼はジャンバルジャンを捕まえると、終身刑に掛けたのだった。

 ジャンバルジャンは服役時代、四回も脱獄を働いていた為だ。

 彼が捕まったことにショックを受けたファンティーヌは、そのまま亡くなってしまう。


 ジャンバルジャンは亡きファンティーヌとの約束を果たすため、五回目の脱獄を果たし、森の中で当時八歳のコゼットと出会う。

 テナルディエ夫妻の元で労働の搾取を受けていた彼女を、莫大なお金を払って、引き取ったのだった。


 その後パリへと逃亡した二人は修道院で生活を送る。

 ジャンバルジャンはコゼットを、父のように育て続けたのだった。

 ここで第一幕は終了する。




 それから約十年の時が経ち、大きくなったコゼットがジャンバルジャンと歩いていくと、一つの運命的な出会いを果たす。

 その相手が、マリウスという青年である。

 彼は政府に反抗する青年達による組織に所属していた。

 二人は共に恋に落ち密会を続けるも、ジャンバルジャンの逃亡のため、彼の嫉妬のため、イギリスへと行くことを聞かされ、離れ離れになることに。


 しかしそこに、試練が訪れる。

 マリウスが所属する組織のリーダーであるアンジョーラの一声により、反乱を起こす日が決定したのだ。

 政府に対するその反乱は、自由を獲得するために。


 彼はコゼットと生きるか、それとも自由のために友と死ぬか。


 その苦悩に苛まれながらも、彼の傍には、彼に恋するエポニーヌの姿があった。

 エポニーヌは彼の笑顔が見たいがために、彼の恋が成就する手助けをしていた。


 そして戦いの火ぶたが切られる数夜前。

 マリウスは戦うことを決意し、一つの門を境に、コゼットと最後の邂逅を果たす。

 その陰には、真実を知ったエポニーヌが失恋する姿と、コゼットの相手を確かめようとしたジャンバルジャンの姿があった。

 ここで第二幕が終了する。




 しかしながらアンジョーラ達の反乱の日が仲間の裏切りにより政府に知られてしまい、その前夜に政府から奇襲を起こされ、戦いが始まった。


 圧倒的な兵の量に、どんどん死に逝く仲間達。

 苦戦を強いられる中、マリウスの胸に一発の銃弾が飛んでくる。

 あわやと思ったその瞬間、彼の前にエポニーヌが現れ、彼の代わりに銃弾を受ける。

 マリウスの命を救ったエポニーヌは、大好きな彼の胸元で最後の想いを伝え、死んでいった。


 だがそんな彼も、一発の銃弾を浴びて瀕死の重傷に。

 そこに颯爽と現れたジャンバルジャンは、マリウスを抱えて下水道を通り、彼の命を救おうとする。


 そして下水道の先に待ち受けていたのは、彼を何度も刑務所行きにした、ジャベールであった。

 マリウスを必死で助けようとする彼。

 彼が市長として改心しようとしてきた光景を見てきたジャベール。

 本来であれば、警察として、このままジャベールを刑務所に入れるべき。

 だが彼は迷いに迷って、彼らを見逃してしまう。


 そしてジャベールは、警察としてあるまじき行動をした自分自身の罪にさいなまれ、法に縛られた彼の信念が崩壊し、投身自殺をしてしまう。


 そうして青年達の暴動は、リーダーであるアンジョーラが自由を叫び、銃弾に倒れて終了した。

 ここで第三幕が終了する。


 


 そして終幕。

 ジャンバルジャンに助けられたマリウスはコゼットと結婚を果たした。

 しかしながらその裏で、激動の時を生きたジャンバルジャンが病床に伏す。

 マリウスとコゼットに見守られる中、彼の魂は約束を果たしたファンティーヌと共に、天高く昇って行ったのだった。




 以上が、星矢の書いた脚本だった。

 所々、映画とは違う展開が挟まれていたものの、原作も読み、時間を短縮するため改変したとのこと。

 そこに星矢の思想の面影はなく、一言で言って、素晴らしい出来であった。


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