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episode15 夢世界を楽しんだ件

【前回のあらすじ】

黒幕を倒す策を考え、ファミリーレストランの誓いをたてた件

 それからの日々は、ターゲット探しに(いそ)しむ日々が続いた。

 その最中の夢世界は、場面転換が定期的に繰り返され、一日に三回夜が来たこともあった。

 昼夜が不規則になったことで、時間感覚は徐々に失われる。


 けれど、ここは夢の世界。

 眠くなることはない。

 だから、歩みを止めることはなかった。

 

 しかし、さすがは果てしない夢世界。

 ターゲットが一向に見つかる気がしない。

 GPSが付いていればどんなに楽なことか。

 ついそんな愚痴を漏らしたくなる。


 とはいえ、過ぎ去る時間は確実に僕らの絆を深めた。




 理解しづらかった志熊の言葉は、徐々に理解できるようになり、片言のレアの言葉も、フィーリングで理解できるようになった。

 そして、夢葉とはよく冗談を言い合う仲にまで発展した。


 みんなで悪に立ち向かい冒険する。

 その状況に、僕らは完全に酔っていたのだろう。

 それはつまり、この夢世界に依存しつつあることを意味する。

 そして、黒幕の思う壺であることも。

 この時の僕は、そんなことに気付きもしなかったのだった――。


 ファミレスで誓いを立ててからおよそ三十日目。

 そんな時であった。


 運命の歯車が三十日越しに再び動き始めたのは……。




***





「あ、また森だ」


「でも、志熊くんとレアちゃんに会った時とはちょっと違うみたいだね」


「此度で七度目の空間転移か。未だ法則が理解できぬ」


「……同意」


 空を見上げながら、各々感想を零す。


 場面転換も七度目、僕にとっては九度目であり、もう慣れてきた。

 特に森や海といったあまり特徴のない景色であれば、むしろ、物足りなさを感じるほどに。


 ただ一つ気になっていたことは、毎度の場面転換が食事など何かしらを僕が口にした瞬間だったこと。

 たまたまなのかなんなのか。

 空腹で倒れることは無いが、そろそろ何か食べたい気持ちが強くなってきた。


「私は遊園地の時がずっと続いていればいいなって思ってた」


「確かに、遊園地は楽しかったよね」


 それは四回目の場面転換の時の話。

 転換された場所は、僕が幼い頃、両親に連れて行かれた某有名のテーマパークだった。


 当然人はおらず、乗り物は乗り放題。

 食べ物も出来立ての物が出店に並んでいて、事欠かさい状態だった。


 中でも驚いたのは、マスコットキャラクターの存在。

 このテーマパークに一匹しか存在しないというネズミをモチーフにしたキャラクターが、僕らの前に不意に現れたのだ。


 自分は当然中身が人であることを知っている。

 星矢もそのようであった。

 レアがそのマスコットに抱きかかえられ、その様子を写真で撮る夢葉を横目に、僕と星矢は顔を見合わせた。



 首を取って中身を確認すべきか。



 それは、かなりの難題であった。

 単純に頭を取ることは何の苦労もいらない。

 抵抗されたとしても、片方が背後から手を回して体を固定し、その間にもう一人が頭を外す。

 ただ、それだけのことである。


 しかし、それを行うとどうなるか。

 今目の前で純真無垢にマスコットとじゃれ合っている二人の夢を粉々に砕いてしまうことになる。

 中には人がいるのだと。


 それに加え、このテーマパークが伝統的に守ってきたしきたりを夢の中とはいえ破ってしまうことになる。

 それは果たして許されるべきことなのか。


 滴り落ちる冷や汗。

 もし中に人がいるのであれば、その人が自分達の探しているあと一人の仲間ということになる。

 しかしそれは、中身を確認しない限り分からないこと。




 夢を守るのか、それとも、使命感に従うのか。




 その時、彼の視線が僕らに向けられた。

 無機質であるが生気の籠ったその瞳に、目を逸らせなくなる。


 そしてゆっくりと、右手の親指を上に立てたのだった。


 彼はしゃべらないので、真に何を伝えたいのか分からない。

 しかし、その瞳と立てられた親指が、「問題ない」と言っているように感じられた。


 自然と彼に合わせて親指を立てる。

 彼は頷いた。


 そして、今度は人差し指が立てられ、僕達の後ろへと向けられた。

 夢葉とレアもその様子に気付き、四人の視線は一斉にその指先へと向けられた。

 しかしそこには、何一つ変わらないテーマパークの姿があるだけだった。


 首を傾げながら視線を戻す。

 だが、そこにはもう、誰もいなかった。


「夢の国……」


「え?」


 僕は言わずにはいられなかった。


「そうだ、まさにここは夢の国なんだ。そして彼は、正真正銘、デ〇ズニーランドで生まれたまごうことのない、本物のミッ〇ーマウスなのだ!」


「光くん……あなたは一体、何を言っているの?」


 僕の言動に、夢葉は戸惑いを見せる。

 が、そんなことはさて知らず、少し前まで彼のいた場所に、敬礼をして敬意を示したのだった。


 心の中で思う気持ちはみんな一緒。

 もう一度、あのミ〇キーがいるテーマパークを堪能したい。

 そんな風に思っていた。


「〇ッキーにまた会いたいな」


「あのネズミのキャラクターのこと? 光くんもそう思う? 私も!」


「心は同じさ、同志たちよ」


「……同意」


 あの一件以来、完全に彼の虜となった四人。

 同じような場所が場面転換されることが分かった今、その期待は更に高まりつつあった。


「ああ、こんな時間がもっと続けばいいなぁ」


 僕にとってこの三十日間はまさに夢のような時間だった。


 仲間とターゲット探しという名目の冒険。

 黒幕という強敵に立ち向かうアニメやゲームのような展開。

 そして、仲間との絆を育む時間。


 それは今まで経験したことのない、夢の中でしか味わえないようなかけがえのない時間だった。


 今隣で笑っている彼女の笑顔を見るのも。

 高笑いと共に訳の分からないことを公言する彼の姿を見るのも。

 少ししか発せられない小さな彼女の言葉に耳を傾けるのも。


 どれも幸せなひと時であった。


 そこまで考えたところで、僕は突然、背中に恐ろしい寒気を感じた。

 それはまさに、電撃が流れるように。




 自分がたった今考えていたこと。

 つまり、この夢世界を満喫していることに、気付かされたのだった。




「……そうだ、何を浮かれていたんだ、僕は」


 歩みが止まる。

 自分の様子に気付いていない残りの三人は、どんどん前に進んでいく。


「夢に依存すればするほど、目が覚めなくなる……」


 それは、最初に会った時に夢葉が言っていたこと。

 今までの時間を振り返り、自分がどれだけ夢の中にいたのかを考え始める。

 しかし、夢の中には昼夜が存在せず、いつの間にか時間の概念は失われていた。

 眠っている時間もないので、その分途方もない時間活動を続けていた。


 考えていくうちにどこまでが夢の中で過ごしてきた時間なのか区別がつかなくなる。

 気付けばありもしないこともあったような感じがして、考えることが恐ろしくなってきた。


「どうしたの、光くん?」


 隣に自分がいないことに気付いて夢葉が振り返る。

 それにつられてレアも振り返る。


 恐怖心を無理矢理飲み込む。

 このことを伝えれば、今後今のように楽しい気分でいられる保証はなくなる。

 保証どころか、常に警戒心を解くことはできないだろう。


 けれど、これは伝えなければいけないこと。

 自分たちが今やろうとしていることは世界を救うことなんだ。

 世の中には世界を救うために自分の大切な人は犠牲にした人もいれば、大切な人のために世界を犠牲にした人もいる。

 それくらいの覚悟を持ってやるべきこと。


 もしかしたらこの楽しいという感覚すら偽りなのかもしれない。

 それに気付けるのは、今この瞬間だけなのかもしれない。


 拳を握り締め、強張る口を無理矢理押し上げる。


 楽しい時間は終わり。

 ここからは本気で事に当たると覚悟を決めた。


「みんな、聞いてほしいことが……」


「ぬ、あれは何だ?」


 話し始めようとしたのと同時に、星矢が空を見上げながら声を上げた。


 話を途切られたことに一抹の不満を感じたが、星矢の表情を見て只事ではなさそうだと思い、僕も見上げる。

 しかし、その先にはただ青空が広がっているだけである。


「星矢、何も見えないんだけど?」


「皆には見えぬか、あの流星の如く落ちてくる綺羅星が」


「星? 真昼だけど流れ星が見えるの? どこどこ!」


「僕には何も見えないけれど」


 僕の視力は決して悪くない。

 視力検査で検診を勧められたこともなく、至って正常なはず。

 その目をもってしてでも何も見えない。


 しかし星矢は、

 「否!」と力強く否定した。



「あれは、人か……?」



「人!? もしかして落ちてきてるの?」


 何度も凝らしてみるが何も見えない。

 見ている方向が違うのかと真上を見上げる。


 するとその先に、小さな黒い粒がゆっくりと大きくなってきていることに気付く。


「嘘……でしょ!」


 小さな黒い粒は徐々に形を成し、気付けば人の形へと変貌を遂げ、僕たちのいる森の中に向かい落下し続けていた。


「みんな! ここは危ないから離れよう!」


「そうだね、ちょっとヤバいかも……」


「逃げる……」


 僕と夢葉、レアは一目散にその場から離れた。

 走っている間にもどんどんその人間は近づいてくる。


「星矢!」


 僕がふと振り返った先には、その場で佇む星矢の姿。

 彼は逃げる様子もなく、ただただ落下してくる人間の姿を目で追っていた。

 星矢も逃げて、と言う前に、その人間が落下しそうな予測地点は星矢より数十メートル先であることを確認してひとまず胸を撫で下ろした。


 しかし彼は、思わぬ行動に出た。


「……美麗なる姫、オレが救わねば!」


 落下地点へと駆ける星矢を信じられないような眼で見つめる。

 上空から落ちてくる人間の姿が少女であると自分の肉眼で確認できた時には、もう落下目前であった。


 上空から落下する物体を受け止めるのが、交通事故で車に轢かれることの何倍もの衝撃であることは、中学生の自分でも分かる。

 星矢の手を伸ばす先に少女が落下する瞬間、思わず目を逸らした。


 直後、バタバタと荒々しい音が鳴り響き、ズシンという音と共にその衝撃は収まった。


「まだ黒幕と対峙もしていないのに、なんてことを……」


 目を瞑りながらも、網膜に映るのは少女が落下する姿。

 しかしその映し出される映像から、僕はある違和感に気付いた。


 人ほど重いものが遥か上空から落下すればその速度や衝撃は半端なものではない。

 けれど冷静に思い返してみれば、少女の落ちる速さは普通よりも遅かったような気がしたのだ。

 いや、確かに遅かったと思う。

 五感だけでなく、夢世界のあらゆる物理法則が鈍くなっているのでは。

 そんな考えに思い至る。

 それならば、もしかして星矢は……。


 恐る恐る目を開けると、薄目の先に見えたものは、木に寄りかかって少女を抱えたまま気絶している星矢の姿であった。


「志熊くん、大丈夫っ!」


 同じタイミングで目を開けた夢葉が星矢に駆け寄る。レアと僕もそれに続く。

 しかし心配はさることながら、星矢は血を流している様子もなく、多少の打撲と気絶している以上の被害はなさそうであった。


 星矢の無事が確認されたことで、次の関心は必然的にその腕に抱かれる少女へと目が移った。

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