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epilogue6 抑えきれない想いがあった件

【前回のあらすじ】

光の黒歴史が柴崎と桜庭にも知れ渡った件

 ガラガラと近くで扉が開く音が鳴り、中から出てきた人物と目が合う。

 その人物は自分の存在に気付くと、心なしか少しだけ目を大きく開いた。

 そしてそのまま、昇降口にいる自分の所まで歩いてきた。


「姫君も呼び出しか?」


 彼、志熊星矢はあたしの顔を見ながら、不思議そうにそう尋ねてきた。


「あたしは違うわよ。感想文を書かされただけ」


「感想文? 朝旦の教えに道徳はなかったはずだが?」


「今日の集会でのことについて書かされたのよ」


「そうか、よく分からぬことをするものだな。なら、なにゆえここに?」


 何でここにいるのかと言われたら、答えは一つしかない。

 一つの想いを口にするため。

 長い時間この場所で待っていたのも、たった一言、告げるためだった。


 それを言葉にしようと口を開こうとする。

 けれどどうしてか、上手く持ち上がらない。

 口の中でもごもごと言葉が隠れる。

 今までは、誰に対して何を言ってもそういう抵抗はなかったのに。




 いつものようにはっきりと言いたいのに、言葉が喉をつっかえて出てこない。


 いつものように真っ直ぐ目を見て訴えたいのに、なぜか左右をちらちらと見てしまう。


 いつものように冷静に言葉を伝えたいのに、心臓の音が頭にまで響いてくる。




 御影には言うことができた、たった五文字の言葉が、この男の前ではすんなりと出てこない。

 自分で自分のことを疑ってしまう。

 何で出てこないのよ、意味が分かんない。


 感謝の気持ちを伝えたいのに、なぜか代わりに怒りの気持ちが湧いてくる。


「どうした? 少々顔が赤いが、気分でも優れぬか?」


 というか、何で口調を元に戻したのよ。

 戻したってことは、普通に喋ることができるんでしょ。

 やっぱりキャラ作りなのよね。

 カッコイイとでも思ってるの。

 もう高校三年生なのよ。


「ぬ、我らの傍に何かいるのか? まさか、未だ懲りずにストーカーを働く輩が覗きをしてるのか!?」


 世間的に常識外れ。

 誰しもが変わっていると叩く言動。

 中二病という異質な言葉。

 一緒にいれば、同じムジナの人間だと思われてしまい、忌避するような存在。


 話しているだけで意味の分かんない言葉が飛んでくるし、喋り方が鬱陶しいし、無駄に耳に響くし。

 普通に喋っている方がよっぽどすんなりと入ってくる。


 でも、でも何で…………。




 こんなにも今は、その方が心地よく感じられてしまうのよ! 




「姫君よ、さすがに何か話してほしいのだが。な、何故そこで蛇にらみをするのだ?」




 あれだけ嫌っていた話し方なのに、

 あれだけ遠ざけようとしてきたのに、

 あれだけ酷いこともしてきたのに、

 あれだけ酷いことも言ってきたのに。




 何で何で何で、

 ずっとずっとずっと。

 あたしに話しかけてきてくれるのよ。

 どうして、一人にさせてくれないのよ。




 あんたが勇気を振り絞って言った告白も、恋愛シミュレーションゲームのせいとか言って、バッサリ斬り捨てたのよ、あたしが。


 それなのになんで、また急にあたしの前に現われて、それどころか色んな問題を解決させちゃって。

 頼んでもいないのに、ヒーローのように現れて。


 昔からこの性格だから一人だったあたし。

 そんなあたしのことを嫌いにならずに、毎日めげずに話しかけてくれて。


 時にはおちゃらけたことを言って笑わせようとしてくれて。


 勉強もできて運動もできて、それを鼻にかけることなくあたしのことをすごいと言ってくれて。


 夢でも現実でも、ピンチの時には身を削ってまで救ってくれて。





 その口調を嫌いになれなかったら、あたしはあんたのどこを嫌いになればいいのよ!!





「…………すき」


 顔を見た途端、滝のように感情が溢れてきて、感情が理性を大きく上回る。

 せき止めていたダムは決壊し、ありがとうという言葉よりも前に、ぽろりと一言、小さな声と共に口から転げ落ちた。


「……姫君、今なんと……」


 一度出てしまった言葉は戻すことができない。

 小さい声だったけれど、たぶん彼には聞こえてしまったに違いない。


 なら、もう開き直るしかない。


「ええ、言ったわよ。あんたのことが好きだって!」


「何でそんなに怒ってるんだ……?」


「怒ってないわよ!」


「いや、完全に怒っている気がするが……」


 あたふたする彼を見て、ツンと唇を尖らせる。




 ああ、言っちゃった。

 プライドも冷静さもかなぐり捨てて、ほんと、あたしらしくない。


 でも、もう自分でも止めることはできない。

 必死に抑え込んでいた感情を止める心も、止めたいと思う心も、もうどこにもない。


 言いたいことは沢山あった。

 何で今日、急に全校集会に現われたのかとか、あれだけの写真や証拠をどこに手に入れたのとか、学校に来なかった三日間、何やってたのとか。

 あと、恋愛シミュレーションゲームのこととか。


 けれど、そんなことはもう、どうでもよくなってしまった。


 この男は、あたしを助けるために来てくれた。

 そのことは、疑いようもなく真実。


 今のあたしには、その事実以外、何一つ必要なかった。

 だって告白の答えは、志熊の顔を見るだけで火を見るより明らかだったから。


 そんな中ふと、いつか見た夢の中でのことが頭を過ぎる。この学校に転校してくる前の春休み。

 よく覚えていない誰かに向けて願ってしまったこと。

 たぶん、それは夢だったから、本心をつい言ってしまったんだと思う。


 それと共に頭に浮かぶのは恋愛シミュレーションゲームのこと。

 たぶん、このゲームをあの男が用意しなければ、こんなことにはならなかっただろう。

 御影にはまともにこのゲームについて聞いていなかったから、ゴールデンウイーク明けにでも聞いてみようか。


 たくさんの人を撒き込むあの男には怒る気持ちもあるけれど、小さじ一杯程のありがとうを、今では胸に秘めていたりもする。


 志熊星矢に、会うきっかけをくれたことを。




「ちゃんと責任、取ってよね」




 顔を真っ赤に染めた男を前に、あたしは小悪魔めいた言葉を口にしたのだった。





***





 何を言うのかと思えば、姫君からその言葉が向けられる日が来るとは思っていなかった。

 先生からの説教と大量の反省文を書いていたおかげで、準備する心も持ち合わせていない。

 まさに裸の心といったところか。


 だが、姫君のやけになっているような感じを見ると、姫君も同じ状態なのだと察する。 


 中学三年生の時、空から降ってきた少女にこうしてずっと好意を寄せるなんて、思いもしなかったな。

 夢の中だっていうのに、今でも覚えている。


 夢で別れた時は、やっぱり夢だったんじゃないかと思っていた。

 けれど四月の頭に、こうして再会することができたのは、別の意味で夢のようだった。


 怒ったような表情で、今でもこうして言葉をぶつけてくる彼女には、どうしたって好きという感情しか湧いてこない。


 頭のてっぺんから足のつま先まで、美麗な姿には勿論心が惹かれるが、中身だってそれに負けず劣らず愛しさが増してくる。


 ああ、頑張ってよかった。

 剣道で全国優勝を初めて取った時以上に、そう思ったのだった。


 これもすべて、恋愛シミュレーションゲームというきっかけがあったからなのだろうか。

 あの男には色々な思いがあるが、今回の件に関しては不問としておこう。


 そういえば、姫君と再会する数日前に夢を見たのだったな。

 誰かに何かを願わされたような気がするのをふと思い出す。


 何を願ったのかは分からない。

 けれど、今のオレにはその願いはもう必要ないということが、はっきりとしているのだけは分かる。


 それだけでもう、十分だ。


 そんな時、顔を真っ赤にする姫君のポケットから振動音が聞こえてきた。

 聞いている方が恥ずかしくなるくらい素直な気持ちをぶつけるのをやめ、姫君はそのポケットからスマホを取り出した。画面を見つめる彼女は、大きな瞳を更に大きくして、


「ねえ、これ見て!」


 オレに向けてその画面を見せてきた。

 そこには、ちさ、という者からのLI〇Eの画面だった。




『岩佐さんが、意識を取り戻したみたいです!』




 目をキラキラと輝かせながら嬉しそうな表情をする姫君。

 岩佐とは、ポスターに書かれていた姫君のライバルであったか。


 意識を取り戻した、か。

 この後は部活であるが……。


 やることは一つだな。


「会いに行くか?」


 オレの提案を聞いた姫君は、すぐさま昇降口のロッカーへと駆け寄って靴を取り出し始めた。 


 そして靴を履きながら、元気よくオレに手招きをし始めた。




「ほら、早く行くわよ!」




 明日からはしばらく学校も休みだ。

 一日部活をサボったところで、小言を言われて終わりになるだろう。

 ならば何も問題はない。


 全力で駆け出す姫君の背中を追いながら、長い電車の中で何を話そうかと思考を巡らせてみたのだった。 





***





「君が叶えたい願いとは、一体何かな?」


 男の提案に対し、暗闇の中で、


 彼女は、


 彼は、


 こう願ったのだった。




「あたしが(オレが)、叶えたいのは、

 




こんな自分を受け入れてくれる、最高のパートナーが欲しい」


 と。

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