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第89話 対鬼



今から2日前、牧場を出て町に続く道を歩きながら夜鶴姥童子は怒っていた。


「なぜ我らが脆弱な人間なぞに合わせねば成らぬのだ!」


「誠! 誠! 誠!に不愉快千万!」


彼等鬼達なら走るか飛び跳ねて行ったほうが遥かに早い。


だがそれが出来ない理由が腐獅子が連れて来ている人間達の存在だ。


鬼の跳躍力は桁違いで、一っ飛びで50〜100mの距離を飛ぶ事が出来る。だが人を抱えた状態では距離は稼げず、しまいには人の身を気遣い歩いて行くと腐獅子が言い出す始末。


「人間達は怖がっているんだ。オラは歩いて行く、おめぇ達は先に行ってくんろ」


そう言う腐獅子をほっておいて先に進めば良いのだが、鬼1倍寂しがりやな夜鶴姥童子は1人になるのがイヤなのだ。


すでに3体の鬼が抜けている現状に、内心軽くパニックを起こしている夜鶴姥童子。


(いかん! いかん! これ以上減ったら我が1人になってしまうではないか、それだけは、それだけは避けねば……)


幼い頃に修行のためと両親に森の奥深くへと捨てられた経験のある彼は、それがトラウマとなり、以来1人になるとその時の事を思い出してしまうのだ。


それに600年振りに甦えったのだ、彼の仲間を思う気持ちは強い。まあ他の鬼達はそんなでもなく、彼の一方通行の思いなのだが……。


ちなみにその勘定の中に椿崩は入って居ない。彼は鬼達からも避けられるそうゆう存在なのだ。


「解せぬ! 解せぬ! 解せぬ! 我は1人でも先に行くぞ」


そう言うと付き合いきれんとばかりに影の中に消えて行何処かへ行ってしまう椿崩。


(ウヌヌヌ仕方がないのだ、これは仕方のない事なのだ……)


怒りを噛み殺して腐獅子達とトボトボ歩く夜鶴姥童子であった……。



そんな彼等の前に自転車を押す学校帰りと思われる学生がやってくる。


少年達は目を合わさない様に自転車を押して歩いて来ると、夜鶴姥童子に「こんにちは」と挨拶し通り過ぎようとする。だがその彼の頭をすれ違い様に掴むと、そのまま上に釣り上げたのだ。


「えっ?! うわぁあ!!」


少年も突然の出来事にパニックを起こす。


「おい小僧、我と勝負をしようではないか」


鬱憤ばらしに小僧と勝負をして遊ぼうと言うのだ。もちろんただの中学生の彼に夜鶴姥童子と戦って勝てるわけがないのは重々承知だがそんな事は関係ない。


人間なぞただの餌か遊び道具ぐらいにしか思っていない鬼に道理なぞ関係ないのだ。


「さあどうする? 我と戦いわずかな可能性に賭けてみるか。それとも今ここで頭を握り潰されて惨めに死ぬか、2つに1つぞ。さあ決めるのだ!」


「やめろ! オラの前でそんな事は許さねえだ!」


だがそんな夜鶴姥童子の腕を腐獅子が掴み止めようとしてきたのだ。



「貴様、何のつもりだ獅子ノ? 貴様まさか、この我の楽しみを邪魔しようと言うのではなかろうな?」


夜鶴姥童子はこの楽しみを邪魔されるのが何より嫌いで、そしてそれは鬼達の間でもタブーとして承知の事実なのだ。


早く言えば駄々をこねる子供みたいなものだ。精神的に大人になりきれていない夜鶴姥童子は何をするにも極端なのだ。


「今なら許してやる獅子ノ、その手を離すのだ」


「い、いや離さねえぇ! オラは人を守るんだ!」


鬼族最強の夜鶴姥童子を相手に怯えながらも、人を守れという白陵様の教えを頑なに守ろうとする腐獅子。


「そうか…… よく分かった獅子ノォ、貴様は一度締める必要がある様だ」


夜鶴姥童子は小僧をそこらにポイっと投げ捨てると、腐獅子に向き直る。そして間髪入れずに彼を殴り飛ばしたのだ。


「クガァ!」


そして2人の鬼は戦い始めたのだ。



ーーー



時は戻ってあの牧場、両面白夜の殺気に当てられ優畄が臨戦体制に入る中、刹那の方は完全に戦意を喪失していた。


(…… な、なんだこの化け物は…… 何なんだこの殺気は……)


そう、かつて感じた事の無い両面白夜の圧倒的な殺気に当てられ萎縮してしまったのだ。デブ兄弟達も小便を漏らしながら逃げて行く始末。


「ヒナ! 俺が先に仕掛けるから援護してくれ」


「了解!」


だがそんな中でも当たり前の様に戦おうとしている優畄とヒナ。


(……な、なんで、何でコイツらは平然としているんだ? …… どうしてあんな化け物に立ち向かおうとしているんだ?)


優畄もかつて黒雨島での幽鬼との死闘のおりに恐れ慄き、一時的に戦いを放棄した事がある。だがそれを乗り越えて生き延びて来たのだ。


一度経験しているからこそ立ち向かえる。あの経験は無駄では無いのだ。


それにこの両面白夜はあの時戦った海斗アレハンドロよりも少しばかり弱い。


「刹那!」


優畄は刹那に向き直ると、かつてそれを克服した者としてアドバイスをする。


「大丈夫だ、お前なら立ち向かえる。待っているぞ」


そう言い残すと同時に狼男に変化して走り出す優畄。


「兄者、獣変化の使い手じゃぞ「おおまことに、ならばこれは狩りと同じじゃな「ならば狩には鷹じゃ「おお、ならば「「鷹滑斬じゃ!」」


ぶつぶつと顔同士で呟き合っていた鬼が斬撃を飛ばしてくる。その名の通り、まるで高所から滑空してきて獲物に襲いかかる鷹様な斬撃。


「早い!」


「優畄!」


接近しようとしていたタイミングで高速の斬撃が迫ってくる。優畄はその斬撃を交わせないと判断すると、自身の手に魔闘気を纏わせ防御力を上げて、その斬撃を弾いたのだ。


(グッ…… あんな鉄パイプでなんでこんな威力の斬撃を飛ばせるんだ!? 出鱈目にも程があるだろ……)


彼が今変化出来る魔獣や妖獣に両面白夜の斬撃に対応出来る獣は居ない。


何とか弾き弾き飛ばす事は出来たが、受けた拳の小指と薬指が斬り飛ばされ無くなっている。


「グッ…… 痛いけど、だが腕ならもう一本ある!」


ヒナが火炎を放って牽制するが、そちらは弟の方が斬撃を放って相殺させてくる。


優畄は止まる事なく両面白夜に迫って行く。超再生が徐々にではあるが傷口を治してくれるから3分もすれば元通りだろう。


「ほう、我等の斬撃を弾き返すとは「弟よ此奴なかなかの強者ぞ「ああ兄者、我等も少し本気を出さねばならぬぞ。女の方は我が受け持とう「頼んだぞ弟よ「今度は連続でゆくぞ「「鷹滑斬4連!」」


「くそったれ!」


1発でも弾くのがやっとだった斬撃が4発、だが4発に分けた事で1発分の威力は劣る。


優畄は咄嗟に背中にマンティコアの蝙蝠羽根を生やすと、スキルの''真空波''を放つ。だが斬撃の方の威力が勝り、''真空波’が弾かれてしまう。


それでも当初の目的の空に逃れる事は出来たので、一先ず体制を整える事が出来た。


両面白夜が放った斬撃は後方の牧場の建物には届かず分散する。その射程は10m程か。


「ほほう空も飛べるかよ「弟よならば撃ち落とせば良いだけの事「そうじゃな兄者「「ならば''飛燕斬''じゃ!」」


書いて字のごとく空をまう燕の様な斬撃が空に逃げた優畄に迫る。


「チッ、次から次へと……」


空に逃げたのが裏目に出た優畄。マンティコアの羽根では小回りは利かず、直撃を避けるために体を捻った事で背中の羽根が切り裂かれてしまう。


「グハッ!」


「優畄! こいつ!」


両面白夜が追撃の体制に入っていたが、ヒナが両面白夜の見様見真似で放った斬撃が、彼等が持つ鉄パイプを弾いて窮地を脱する事が出来た優畄。


背中の羽根が人間の状態時のどこの部分に当たるのかはわからないが、どうやら変身時の模擬肉体にダメージを受けると、肉体全体に均等にダメージが入る様だ。


地面に落ちると転がる様にして両面白夜から距離を取る優畄。



「優畄、ダメージの方はどう?」


「…… 少しキツイがまだ何とか動けそうだ」


優畄達が仕切り直しに距離を取るが、両面白夜に追撃してくる様子はない。


「兄者、あの女の持つ刀はなかなかの業物じゃぞ「おおう弟よ、奴等を片付けたら我等の物としようぞ「今から楽しみじゃ「おお弟よ、ワシとお前で一本ずつじゃ「主らはついておる、もしワシらが刀を持っていたならば「主らは今頃バラバラの輪切りぞ」













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