表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/199

第88話 鬼

今から遡る事2日前、全身真っ赤なショートパンツの女の子がキョロキョロと周りを見ながら町を歩いていた。


「ちきしょう、刻羽の奴どこに行っちまったんだよ……」


今の彼女の頭の中は刻羽童子に会いたいそれしか考えておらず、600年ぶりの世界の変わり様にまるで気づいていなかった。


「お〜い! 刻羽〜!! どこに行っちまったんだよぉ〜!!」


どこを探しても見つからない刻羽童子。町中で鳥をも落とす勢いで叫ぶも彼が現れる気配はない。


「あたいと夫婦になる約束はどうするつもりなんだよ刻羽……」


まだお互いが小さい鬼の頃に交わした約束を、今も変わらず信じている赤蛇。


まあ刻羽童子としては彼女の貞操概念の低さが嫌で嫌っているのだが、悲しいかな彼女はその事に気付いていない……。



「ねえ彼女、その格好コスプレ? 凄え可愛いんだけど、今から遊びに行かない?」


「あっ?」


彼女に声を掛けたのは、適当な女を歯引っ掛けようと仲間3人で町を彷徨っていた輩達で、なかなか女が釣れずに苛立っていたところで、彼女の叫びに気付き声をかけてきたのだ。


最初はイロモノで妥協しようと近づいたのだが、予想以上に彼女が可愛い事でテンションが上がる3人組。


「マジ可愛いくねぇ?」


「本気で楽しいし、ねっ、行こ、行こうよ!」


赤蛇が3人組の顔をマジマジと見やる。


(…… なんじゃ此奴ら、女みたいに化粧なぞしおって。まあ顔も悪くないし、ちょうど腹も空いたところだ。腹ごしらえといくか)


「いいぞ。お前たちに付き合ってやる」


「本当! じゃあいいとこ知ってるから行こ! 行こ!」


「今日は俺たちついてるぜ!」


「ああ!」


3人組もこの後に、生き地獄が待っているとも知らずに鴨が釣れたと大喜びだ。


そして下卑た笑みと共に、彼女を自分達が女を連れ込む時によく使う地下駐車場へ連れて行く。


この地下駐車場は昔のアミューズメントパークの名残りで、今は殆ど人が寄り付かないのだが、彼等にはそれが裏目に出た様だ。


それからどれくらい経っただろう、駐車場の中に響き渡る悲鳴と歓喜の声。1人の男の上に跨りまるで蟷螂の様にその男を喰らいながら交尾をする女鬼。


そしてその側には逃げれない様に膝から下を溶かされ呻き声をあげる男達の姿があった。


「アアアアァァ〜!!」


あまりの痛みと理解の範疇を超えたこの状況に、男は声を上げ続ける事しか出来ない。


「おいまだ死ぬなよ、死ぬのはアタイを満足させてからだ」


片腕と顔を半分喰われた男に笑いながらそう言うと、彼女の動きも激しくなっていく。


そしてその夜、誰にも知られる事なく3人の男達はこの世から姿を消したのだ。



ーーー



一方彼女が探している刻羽童子はその頃、女の子達と遊んでいた。


彼女達との出会いは逆ナン。彼がアイドルのオーディションの会場を聞こうとしたのが彼女達だったのだ。彼女達は地元の高校生でちょうど学校帰りの所を彼に声を掛けられたのだ。


見た目が鬼の中でも一二を争うイケメンな刻羽、そんな彼とお近づきに成りたいと思うのは至極当然な事。


彼女達は彼の青い肌色や角をコスプレと思っており、誰も気にしていない様子。


町の中では警戒して宙に浮かず歩いて移動していた彼。それも幸いした様だ。


そして今彼がいるのは町にあるゲームセンター。そこで彼女達とゲームで盛り上がっているのだ。すっかりアイドルの事は忘れてゲームや彼女達に夢中な刻羽童子。



「なにこれ! 面白れ!!」


彼が今やっているのはガンシューティングのゲームだ。女の子達のリーダー格の美鈴という子と一緒にゲームをしているのだが、彼女がチラチラと刻羽童子の顔をみてくる。


どうやら刻羽童子に一目惚れに近い感情を抱いている様子。その後も彼女達とゲームを楽しんだ刻羽童子。


(人間は餌とばかり思っていたけど、こうして遊ぶのもなかなか楽しいじゃないか)


そうは言っても所詮は人間、彼等にとっては餌でしかない存在だ。そんな存在と色恋沙汰など考えた事もない。


彼の理想は天女だった母親の様な女性。清く美しく、そして聡明な女性が好みなのだ。


そのため気に入った男となら見境なく寝る赤蛇や他の女鬼にはまるで興味がなく、赤蛇の気持ちには気付いているが、それに応えるつもりは毛頭ない


いままで唯一、彼が母親以外で興味を持った女性は、封印される以前に一時期共同戦線を張っていた仙狐の姫ぐらいだ。


その後直ぐに攻めの鬼族と守りの仙狐との間で意見の相違があり、同盟は破棄となってしまったのだ。


その結果、鬼族が滅びる事になったのだが、自業自得以外の何物でもない。



(あの女がまだ生きていればオイラの嫁に貰ってやるんだが…… 今度、仙狐の隠れ里に行ってみるかな)


プライドが高く自信家が多い鬼族は、相手の事なぞまるで考えず猪突猛進に突き進んでいくのだ……。


そんな中、彼女達がコンビニという何でも売っている店に行くという。暇つぶしになるならと彼も彼女達に着いていくことにした。


彼女達は刻羽童子がコンビニには行った事がないと言う話を聞いて驚いていたが、そこからは色々な食べ物を買って刻羽童子に食べさせ、その反応を楽しみだした女の子達。


「お〜! この氷みたいなの美味しいな」


どうやら彼はガリガリ君が気に入った様だ。


「刻羽君、コレも食べてみて!」


「おお! コレも美味いぞ」


ワイワイキャアキャアと女の子達がじゃがりこやポッキーなど次々と与えて来るが、それらの菓子を平然と平らげていく刻羽童子。


(…… 確かに美味しいは美味しいけど、腹を満たすにはやっぱり人間だな)


今はコンビニ外のベンチに美鈴という女の子と2人で座っている。他の子達は次は何を食べさせようかとコンビニ内で物色中だ。


そして女の子達の中で1番可愛いく彼に気がありそうな美鈴を見る。そして舌舐めずりをすると彼女の耳元でそっと囁く。


「美鈴、君と2人きりに成りたいな」


「えっ?」


「オイラと2人だけで遊びに行こ」


「……う、うん」


皆に了承をとって来た美鈴が刻羽童子の元に歩み寄る。他の子達から「美鈴しっかり!」「キメテこいよ!」などの冷やかしが飛ぶ中、満面の笑顔の彼女は地獄へと誘う刻羽童子の手に引かれ去っていった。



夕焼けに染まる空に1人漂いながら、食後の膨れた腹を満足そうに摩る刻羽童子。


「ふう〜、明日はどうするかな? この世は暇潰しなら何でも有るからな」


彼はポケットから携帯を取り出すと、慣れた手つきで携帯をいじる。携帯の扱い方はあの子達から教えてもらったため扱えるのだ。


前の持ち主がズボラで携帯にロックを掛けていなかったのも功を奏した。


そして調べるのは強い者が集まる道場などの情報だ。なぜ道場の情報かというと、久しぶりに暴れ回りたくなったから。それだけの理由だ。


携帯で調べてまず初めに出て来たのが精神会館の名前。そして館長の名前を見て驚愕すると共に笑い出す刻羽童子。


「フハハハハハ! そうかこの様な所に居るのか黒石の末裔よ。これは楽しく成りそうだ!」


彼の放つ殺気で近くの木に止まっていた鳥達が我先にと逃げていく。彼等鬼にとって黒石の抹殺は、どんな事よりも優先される事なのだ。


だが興奮しすぎて携帯を握り潰してしまった事は後悔必死な刻羽童子であった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ