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第85話 内輪揉め


殴って分かったが刹那は能力にかまけたただの素人だった。何故なら変化もしていない優畄のパンチを、避ける事なくまともに喰らったからだ。


それに少しでも戦闘の経験が有れば、なんらかの対応が出来たはず、だが彼はそのまま吹き飛んで壁に激突しただけだった。


きっと自分より弱い者としか戦ってこなかったのだろう。


そんな優畄に刹那の【授皇人形】と思われる金髪のショートカットの美女が、刀を抜き斬りかかって来る。それも俺の首を狙った斬撃だ、当たったならばタダでは済まないだろう。


だが俺に焦りは無かった。キーーン!という音と共にヒナが彼女の斬撃を防いでくれたからだ。



「なっ! 私の斬撃を……」


金髪美女もまさか自分の斬撃が受け止められるとは思っていなかった様で、驚愕の表情をしている。


まあ正直、俺1人でも対応出来たのだが、ヒナさんが動いているのが見えたため任せたのだ。



「…… よくもてんめぇ〜! ぶっ殺してやる!!」


俺に殴られてブチ切れ、頬をさすりながら立ち上がった刹那。そしてなんと自身の能力で魔人種の【アースラ】に変化したのだ。


【アースラ】は腕が4本ある魔人で、その手にはそれぞれ剣、槍、盾、シャムシールが握られている。


「コイツ…… (まさか他に人がいる場所で変化するなんて……)


優畄もかつて半グレ共を懲らしめるために、敢えて狼男に変化した事がある。だがそれは奴等を脅すための威嚇行為であって、相手を傷付けるためのものではなかった。


「…… 俺を殴った報いはその命で払ってもらうぞ!」


そう言うと殺気を放ち迫って来る刹那、彼は明らかに優畄を敵とみなし殺しにかかって来ているのだ。



「兵吾さん皆の避難をお願いします!」


「おう、任せい!」


ボブは何を考えるのか、静かにその場に佇みレゲエのリズムに揺れている。基本平和主義のボブは売られた喧嘩か道場破り以外で自ら争う事は無いのだ。


((なんじゃ!? なんじゃ!? 何が始まるんじゃ?!))


狸の花子もこれは大変じゃとばかりに頭を出して戦いに見いる。


あのデブ兄弟はどうしたかって? 戦いが始まると共に、逃げる様に姿を消してしまったためどこに行ったのか分からない……



こうなれば優畄も変化して刹那に対応するしかない。だがそんな俺を牽制する様に刹那の【授皇人形】が迫って来る。



「ヒナ! そいつの相手を頼む」


「うん、任せて!」


ヒナが上手いこと刹那の【授皇人形】の動きを止めてくれる。


「グッ、刹那様!」


「…… チッ! マリーダ…… だがこんな奴俺1人で充分だ」


ヒナに押さえ込まれこちらに助っ人に来れない、マリーダと言う授皇人形に舌打ちをしつつ、手にした武器で俺に向かってくる刹那。


4本の腕から繰り出される連撃は圧巻の一言だが、所詮は能力にかまけた1発狙いの大振り攻撃。それでは今の優畄の相手にはならない。


優畄は刹那の大振りが空振ったところに合わせて踏み込み、ボクシングで言うところのボディブローのレバーブロウをカウンターで叩き込む。


「…… グフッ!」


「刹那様!」


刹那の体がくの字に折れ曲がる。マリーダが此方を気にするが、実力で上回るヒナに抑え込まれこちらに来ることが出来ない。


奴は接近線は不利だと判断し、今度は距離をとった所から槍による突きの連打を放ってくる。


「…… クッ、この野郎!」


鋭いいい突きだが、明らかに先程のボディブローが効いている様で足がガク付き正確さに欠ける。


余程の温室暮らしだったのか酷く打たれ弱い刹那、彼は明らかに焦り出していた。


「…… クソ! クソ! クソ〜!! (…… なんなんだコイツは、俺の攻撃を簡単に交わしやがって。ちきしょおナメるな!)


攻撃が当たらない事に業を煮やした刹那が、【アースラ】の最強のスキル''パーラカラナ''を放とうとする。


この技は四つの武器でクロスの形に斬撃を放つ技で、その威力は五階建てのビルを斬り刻む程の威力。


「…… クタバレ! クソ野郎!!」


「グッ! ( ヤバイ! 俺の一点集中の防御でも防げない攻撃)



((い、いかん!!」


リュックから飛び出して戦いを見ていた狸の花子こと千姫も、優畄のピンチに思わず変身を解いて仙狐の姿に成ってしまう。


だが優畄はここで勝負に出た。技を出されたならば彼に防ぐ手段は無い。


(ならばその前に奴を叩く!)


タイミング的には紙一重だが優畄は、刹那が技を出す瞬間に合わせて、ヒナ先生からスパルタで教わったヒナオリジナルのピカッと光る発勁を合わせたのだ。


ズド〜ン!ともの凄い衝撃音が辺りに鳴り響く。



「……グハッ……」


刹那が''パーラカラナ''を放つタイミングに合わせて発勁を放ったのだ。その威力は推して知るべし。


壁をブチ破り精神会館の外まで吹き飛ばされ気を失ってしまった刹那。しばらくは起きて来ることは出来ないだろう。


「せ、刹那様ぁ〜!! 嫌ぁ〜!!」


ヒナとの戦いなどそっちのけに刹那の元に駆け付けるとマリーダは、彼に抱き付き泣き崩れてしまう。


ため息と共に人の姿に戻る優畄。


「頑丈だったから死んではいないだろうが、無茶苦茶な野郎が来やがったな……」


「うん。でもなんかあの人、窮屈そうで可哀想……」


「……」


ヒナが言っているのはマリーダの事だろう。同じ授皇人形として何か思うところがある様だ。



「ケッ、いけすかねぇ野郎だったから清々するぜ」


突然隣から声がしたので見てみれば、いつの間にかデブ兄弟の兄の方が隣にいるではないか。


どこで見ていたのか、俺たちの戦いが終わったと同時に姿を見せるデブ2兄弟。


兄の方の側にはリードの付いた首輪を付けている奴の【授皇人形】と思われる女性がいる。彼女は将毅の3体目の【授皇人形】で、顔には至る所にピアスが付き、服装も露出過多の持ち主の趣味を疑うものだ。


その目は死んだ魚の様に濁っており、彼女の扱いがいかに酷いかが伺える。


そして何を思ったのか勘違い甚だしい発言を連発する。



「お前強いな、よし俺の専属のボディガードにしてやるぞ!」


「はっ?……」


父親が国会議員で黒石の直系な名門中の名門生まれなブタ兄弟。父親以外から今まで散々甘やかされて生きて来たため、全ての人間が自分に傅いて当たり前と考えているのだ。



「それと……」


デブ兄弟の兄の方の将毅がヒナをジッとりとしたイヤラシい目で見てくる。そして……


「お前の人形めちゃくちゃ可愛いな、今夜俺が使うから俺のと交換な。俺の部屋に連れてこい、俺がいろいろ仕込んで返してやるよ」


人間という生き物は突然に予想外の事を言われると思考が止まるというが、今の優畄がその状態だった。


(? この豚は今なにを言ったんだ? この豚は俺のヒナに一体なにを言ったんだ? この豚は……)


気付いた時には優畄は狼男に変化していた。そして将毅の頭を掴むとそのまま釣り上げたのだ。


「グルルル……」


「ヒッ、ヒイィ……」


優畄は喋りやすい様に口元を人の物に変えるとそのまま話し出す。


優畄の【獣器変化】は怒りに直結だ。怒りを抑える事が難しく、優畄自身もなるべく怒らない様にしているのだが……



「……グルル、貴様は言ってはならない事を言った」


「な、なにを……」


なぜ優畄が怒っているのか本気で分からない将毅は、ブヒブヒと拘束から抜け出そうともがくが、まるで抜け出せない。


「ヒナを屈辱した罪は死んで……


「優畄だめ! 我慢して!」


ヒナが俺の腕に手を添えて止める様に説得するが、一度付いた怒りの火はなかなか治らない。


それでもヒナからの思いが伝わるにつれて冷静になっていく優畄。だがバカは死んでも治らないとはよくいったものだ。



「た、たかが人形に何をそんな……」


その瞬間に優畄の目が赤く瞬いた。そして将毅の頭を握り潰そうと腕に力を込めようとしたその時、彼の背中にヒナとは違う真っ白な手が添えられたのだ。


そしてその手から、なんとも心地よく懐かしい気が伝わってくる。それと共に優畄の中の怒りの火が消えって行き、そして優畄は人間の姿に戻ったのだ。


ドサっと地面に落とさて、「ヒイィ〜」と泣きながらゴキブリの様に這い逃げていく将毅。


冷静になった優畄が振り向くと、そこには生まれたままの姿の女性が立っていたのだ。狐の耳に8本の尻尾を持つ女性。


「……き、君は……」


「よかった優畄…… よいか、決して怒りに呑まれてはならぬぞ」


彼女がそう言うや否や、ボブが手にリュックを持ったまま優畄と彼女の間に飛び入る。そして次の瞬間には彼女の姿は消えていたのだ。


「えっ! え? 消えて……」


「優畄さ〜ン、貴方はァ幻を見たので〜ス」


「ま、幻を……」


「そうで〜ス。幻で〜ス」


(あ、あれが幻?! だが現に彼女は姿を消している…… どうゆう事だ??)


何か狐に化かされている様な気もするが、現実に彼女は消えたのだ。一先ずはそう思うしかないだろう。


無理矢理自分を納得させる優畄。


だがただ1人、ヒナだけはそのイリュージョンの種をしっかりと見ていたのだ。


(……し、白いお姉さんが狸ちゃんに変わった…… た、狸ちゃんの正体は白いお姉さんだったんだ!)


そう1人結論付けて納得するヒナ。優畄もそんなヒナを訝しんで見るが、その笑顔に誤魔化されてしまう。


(ふ〜、しかし今日はなんて一日なんだ。来た助っ人もあんな奴等ばかりで、本当にこの先が思いやられるよ………)

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