表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/199

第8話偽りの家族

よろしくお願いします。



「優畄、お前をずうっと待っておったぞ。我が後継者よ」


お爺ちゃんのローボイスが大広間に響いた途端、一斉に優畄を見る黒石家の血族たち。



(はっ? えっ、えっ〜!? 待て、待て、待て! 僕がお爺ちゃんの後継者て、ええ!? どうゆう事なの?!)



突然の事態にパニックになる優畄。そして助けを求める様に母親の姿を探す、だが何故か黒石家の人々の中に優畄の母の姿が無いのだ……


いつも仕事仕事で、家で会ったことはほとんどなかった母さんだけど心配は心配なのだ。



(ど、どうゆう事だよ、僕より1日先に出たはずなのにまだこの屋敷に来ていないのか?! それともま、まさかあの駅で僕が会った怪物に……)


優畄がよからぬ方向へ考えを巡らせていると、そんな彼の状態に気付いたのかお爺ちゃんが口を開いた。



「優畄よ、お前が混乱するのも無理はない。だが今日からこの屋敷で暮らすのだ、ここに慣れでばその混乱もすぐ晴れることだろう」


お爺ちゃんがまた何かとんでもない事を言っている。



「ちょ、ちょっと待ってください! 僕がここで暮らすて、ど、どうゆう事なんですか?! それに、僕の母さんが見当たらないのですが……」


お爺ちゃんの突然の言葉に頭がパニックになる。


(僕がこの屋敷で暮らすとか、どうゆう展開なんだ? 洒落にならな過ぎる……)



「お前の母親? ああ、あの者の事か。あれはお前の本当の親ではない」


「えっ!? そ、それはどうゆう……」


またまたお爺ちゃんからとんでもない話が飛び出す。そのカオスな状況に優畄の頭の回転はまるで追いつかない。



「本人に確かめた方が早いじゃろ。おい!」


「はい。」


なんと返事が上がったのはこの屋敷の召使いたちの列からだった。


そして召使いの列から出て来たのは間違いなく、優畄が長年母親だと思っていた人物その人だったのだ。



「えっ、か、母さん!?」


美乃と呼ばれた人はスルスルと優畄の前にやってくると、真っ直ぐに彼を見つめてくる。



「か、母さん、先にここに来ていたんだね。心配しちゃったよ……」


「…… 違います優畄様、私は貴方様の御母様ではございません」


「か、母さん?……」


優畄の母親だった人物はなんともあっけらかんと彼にそう言ったのだ。


「な、なにを言っているんだよ母さん、僕だよ優畄だよ?……」


最初、母さんにそっくりな人か本人が、悪ふざけでもしているのではないかと、タチの悪いイタズラではないかと思っていた。



「優畄様、私は大旦那様から貴方様の世話を言い使り、それを行っていたただの召使いでございます。この屋敷で働き御給金をいただいているただの召使いでござます。優畄様の御母様などとは恐れ多い……」


まるで表情を動かす事なく淡々と僕に告げる母親だった人。その目からはなんの感情も伺えない。


この人は今までの優畄との生活は、お給金を貰うための仕事と割り切っていると言っているのだ。



彼女と過ごしたこれまでの日々が思い出される。


日々の生活の些細なことで苛立ち喧嘩したりもした、それでも楽しかった母さんとの生活。


あれが全て嘘だったていうのか……



「……か、母さん……」


「もうよろしいでしょうか優畄様?」


「………」


「よろしければ私は控えさせていただきます……」



きっとこの人にとって優畄との生活は、命令に従っていた仕事の一つでしかなかったんだろう。


優畄がもはや一言も言えないでいると、彼女は彼に深々と一例だけし、元の召使いたちの列に戻っていった。



これで何年間かの彼女との親子ごっこは幕を閉じたのだ。



もはや本当の親が誰かとか、この家で暮らす事にどうのとか、そんな諸々がどうでも良くなった。


もはや優畄は何も考えたく無いのだ……



「優畄も今日は疲れたじゃろう。親族の紹介は明日にし、今宵はゆっくりと休むがいい」


目の光が消え反応の無くなった優畄を気遣ってくれたのか、お爺ちゃんがこの集会を開きにしてくれた。


大広間にはボ〜ンボ〜ンという深夜の12時を告げる大時計の音だけが響いていた。


寝室へはボーゲルが案内してくれるだしい。



あの大広間からどれほど歩いてただろうか、幾重にも曲がりくねる廊下の先にその部屋はあった。


寝室として案内された部屋は1人で寝るにはいささか度が過ぎるほど広い部屋だった。



「今宵はこちらでお休みください。それでは」



部屋には僅かな明かりを灯す蝋燭が一つあるだけで、部屋の全景を伺い知ることは出来ない。


薄らと暗い部屋の壁上には、歴代の黒石家当主の肖像画なり写真入りの額縁が掛けられており、その下に等間隔で様々な種類のお面が飾られている。


一見すると不気味極まりない部屋だが、今の優畄の精神状態ではそれに気付く事はないだろう。


もしそれに気付いたとしても、今の彼では何も感じることはない。


部屋の中央の蛍光灯の下にはすでに布団が引いてあり、優畄が直ぐにでも寝れる様にとの心遣いをかんじた。


優畄は相棒のリュックを直ぐ脇に置くと、布団の中に入り込む。彼が布団に潜り込むと疲れていたのか自然と瞼が閉じた。


「………」



今日は疲れた。明日以降がどうなるかは分からないが、眠りたい。

とにかく優畄は眠りたかったのだ。



そして彼はすんなりと夢の中へ……


ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ