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第62話 ヒナとチャラ男


ヒナは俺の襟首を掴んだチャラ男の金玉を蹴り上げると、その隣にいた男の関節を捻ってから投げる事で、叩き付けるのと同時に肩の関節を外した。


続いて、その後ろにいた190cmオーバーの大チャラ男の腹に刀の鞘を当て、悶絶して下がった顎に掌底を合わせた。脳震盪を起こし戦闘不能になる大チャラ男。


この間たったの3秒、瞬くの間にチャラ男軍団を戦闘不能にしてしまったヒナさん。


「私を口説いたり優畄に失礼な事する奴は許さないよ!」


そして見事なまでのヒナさんの啖呵が決まる。


(ヒ、ヒナさん…… ヒナさんの進化が止まらない……)


ヒナは生まれて間もなく戦いの中に投じられた影響で、自身が敵と定めた相手に容赦がないのだ。


まあ人間相手には手加減する余裕があるからいいのだが。


「こ、このアマ!」


そうなると残りのチャラ男2人も腐っても格闘技経験者だ。戦闘モードに入った1人がヒナの足にタックルを仕掛け転ばそうとする。


きっと総合格闘技を齧っているのだろう。キレが良く、膝を狙った的確なタックルだ。


(もらった!)


だがヒナはそのタックルに冷静に膝を合わせてカウンターを取る。完璧なタイミングで膝をもらったチャラ男はその場にダウンしてしまう。


それまでの流れを見ていたチャラ男のリーダーは、ヒナに近づくのは悪手と、すかさず懐から特殊警棒を取り出した。


そして先程のチャラ男をKOしたばかりで、注意がそちらに向いているヒナの首筋目掛けて、特殊警棒を躊躇なく振り下ろしたのだ。


躊躇なく暴力を振るうのに慣れたクズの所業。


だが特殊警棒がヒナに当たる事は無かった。俺が奴が警棒を出した瞬間に踏み込み殴り付けたからだ。


チャラ男は凄い勢いで吹き飛ばされて、自販機隣の缶捨てにぶち当たった。


ヒナなら俺が手助けせずとも余裕で倒せたと思うが、俺のヒナさんに万が一があったら大変だからね。


それに俺もコイツ等にムカツいていたのもある。3割ほどに手加減して殴っているから、死ぬ事は無いと思うが。



「…… て、テメェ! ぶっ殺してやる!」


それでも流石は格闘技経験者、普通の人なら気絶する様な威力のパンチも、殴られ慣れているからか立ち上がってくる。


その足はガクガクと揺れているが、戦意はまだある様だ。


チャラ男のリーダーは口の中をしこたま切ったのか、血の唾を吐き出し前傾姿勢の総合格闘技系の構えを取る。それに応じて俺も臨戦態勢にはいる。


最近どうにもバイオレンスに飢えている自分がいる。


(俺ってこんな戦闘狂だったけ? まあいいか、一先ずは目の前の相手の事だけを考えよう……)



「お前たちそこまでだ!」



その時、精神会館の玄関の方から野太い声が響く。


その声の主は、この道場の館長の黒石康之助だった。


「まったく、来てそうそう騒ぎを起こしやがって。聞いていた話の通り、かなりヤンチャな奴等の様だな。まあ流れから行って、そのバカ共の方に原因があるみたいだが」


これから大変だとばかりに康之助が頭の後ろを掻きながら言う。


「なんでアンタが出てくるんだよ、コレは俺とコイツ等の問題だ。でしゃばるんじゃねぇ!」


チャラ男のリーダーが館長相手に激昂する。この2人には何か因縁がありそうだ。


「お前、手加減された事に気付いていないのか?」


「手加減? 馬鹿言え、そいつは俺が女にかまけてるところに不意打ち喰らわせただけだ。じゃなければ俺がこんな奴のパンチを喰らうわけがねえ……」


このチャラ男も試合をすれば常勝の強者だ、不意打ちとはいえパンチを喰らったのが悔しいのだろう。


「本気を出せば勝てる? まあ辞めておけ、そいつ等は磯外村の化け物共を始末し、黒雨島の幽鬼を封印した2人だぞ」


「なっ!? コイツが帰らずの黒雨島を?! 」


(…… なに、あの島そんな風に言われてるの?!)


「あの島の100年物の化け物を相手に生き残った2人だ。早死にしたけりゃ止めはせんぞ」


「グッ…… 覚えておけよ」


よくある捨て台詞を残してチャラ男のリーダーは、口角から垂れた血を乱雑に拭くと、踵を返してどこかへ去って行った。


「お兄ちゃん……」


先程の掃除のお姉さんがポツリとこぼす、どうやら彼女とチャラ男のリーダーは兄妹の様だ。



チャラ男のリーダーこと彼の名は黒石良樹。なんとあの黒石省吾の息子である。


省吾が全盛の頃はそれを傘に好き放題していたが、康之助が館長になった事でその立場が危うくなる。


いつ破門を言い渡されてもおかしくないクズだが、康之助はあえて彼を精神会館に残しているのだ。


「まあとにかく上がれ、茶ぐらい出してやる」


そして俺達は康之助の後に着いて行き、館長室に案内された。


館長実はなんとも悪趣味な動物の剥製や、鎧、日本刀などが飾られており、恰も反社会組織の組長の事務所の様な趣味が痛々しい。


「悪いな、悪趣味だがまだ館長に代わったばかりで忙しくてな、この部屋を片付ける間がないんだ」


「だ、大丈夫ですよ」


ヒナは鎧や剥製に興味を示し、マジマジと見入っている。


俺達2人にお茶を出すと、マジマジと顔を見てくる康之助。


「まったく、信じらんな。お前本当にあの時会った坊主か?」


「は、はい。間違いないです……」


「まあ、あの地獄から生きて帰って来たんだ。人相が変わっていても不思議じゃない」


「……」


確かに、この10日程はいろいろとあり過ぎてどうにか成りそうだった……。


もし俺の側にヒナが居てくれなかったら、俺は俺で居られなかっただろう。


俺は茶菓子を美味しそうに食べるヒナを見て、改めてその存在の大きさを知った。


そんな俺達を見て何かを納得した様に康之助が口を開いた。


「…… お前の彼女、ヒナちゃんだったか。大切にしてやれよ」


そう言う康之助が、何故か悲しそうに見えたのは気のせいだろうか。


「それと、お前達にはこの精神会館に住み込んでもらう。部屋は2階にある宿泊所を使え。10日程の短い間だがよろしくな」


「は、はい。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


こうして波乱含みの精神会館での10日間がスタートした。





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