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第55話 好き



そんな彼等を地中から伺う者がいた。その者の役目は、磔にされた人間を助けにきた者を襲う。


いたく単純な任務だ。


彼の名は土竜ロドリゲス、海斗アレハンドロに憧れて共に海を渡った元兵士だ。


彼は剣士としての腕前もあり、海斗アレハンドロからの信頼も厚い。


この土竜ロドリゲスは生前から異様に耳が良かった。そして幽鬼となり蘇った彼の聴力は、10m先に落ちた針の音を聞き分けるほどだ。


彼は地中で人間が助けに来るのを、ジッと待つ様に海斗アレハンドロから言われている。


その為に磔の周りには幽鬼を配置していなかったのだから。


弓夜達が助からないという状態を優作達が知り、絶望のうちに潜ませていた幽鬼達で討つ。それが海斗アレハンドロの考えた非情な作戦だったのだ。


ただでは殺さない。徹底的にどん底の地獄を見せてから殺す。黒石の者へのあくなく怨念で動く幽鬼達にとって、当たり前に行き着く考え方なのだ。


そして、そのチャンスはあっさりと訪れた。


磔にされた人間が助からないと分かった奴等は、間違いなく代官屋敷へ向かうと海斗アレハンドロから聞いていた。


普段の優作達ならその存在に気づいたかもしれない。だが弓夜と早苗の死は彼等に予想以上の精神的ダメージを与えていたのだ。


《お頭様の言う通り、助けに来た人間は2人。やはりお頭様は頼りになるズラ。後は呪毒に浸したこの脇差でズブリ、それがオラの役目ズラ!》


男が先頭でその後に女が続いている。土竜ロドリゲスがいるのは地中1mの位置、地上の様子は手にとる様に分かる。


そして女が自分が潜んでいる場所の横を通り過ぎ、その背中を見せた時、彼は飛び出した。


《間はバッチリ、取ったズラ!》


土竜ロドリゲスの強襲に最初に気付いたのは美優子ではなく優作の方だった。偶然に美優子を気に掛けて振り向いた時にその背後の存在に気付いたのだ。



「美優子ぉ!」


背後から迫る凶刃に気付かない美優子、キョトンとした目で何事かと優作をみる。


次の瞬間、訳も分からず優作に弾き飛ばされてしまう美優子。


「い、痛〜〜い、ちょっとなんなのよ優ちゃん?!」


優作に突き飛ばされ転んだ姿勢から、頭を擡げ美優子が見たのは、腹を小太刀で貫かれた優作の姿だったのだ。


「ゆ、優ちゃん?」


一体何が起きたのか考えがまとまらない。


「グッ…… ''芽吹"!」


腹を貫かれた優作は【受樹変化】の能力"芽吹"で、土竜ロドリゲスの動きを止める。この能力は爆発的に植物の成長スピードを上げる、優作のとっておきの能力なのだ。


だがこの能力を使うと1日は他の能力が使えなくなるというデメリットもある。


太刀筋からこの土竜ロドリゲスが強者と知った優作が、リスクを犯してでも美優子を守る為にこの能力を使ったのだ。


『ヌグウッ?!』


蔓が全身に絡み付き動きを止められた土竜ロドリゲス。


「……ウオオオォ!」


なんとか土竜ロドリゲスの動きを止めるのには成功した優作は、''虎牙丸''を抜くと間髪入れずに土竜ロドリゲスの心臓を貫きトドメを刺したのだ。


『……お、お頭様…… オラ、やったズラ!……』


そうとだけ言い残し、チリと消えて行く土竜ロドリゲス。その顔はなんとも満足そうな顔だった。


「優ちゃん!」



「く、来るな!」


美優子が刺された優作に駆け寄ろうとするが、それを優作は止めた。


この場合、間違いなく他にも幽鬼が潜んでいるはずだ。


それに優作の傷は致命傷だったのだ……。


「……他の、幽鬼達がやって来る…… そ、その前に、代官屋敷へ行くんだ。あ、あそこなら…… 結界があるから、安全…… だ」


優作の言う様に、影に潜んでいた幽鬼達が大挙して押し寄せてくる。


それも代官屋敷への入り口の正門までを塞ぐ様に布陣を引いているのだ


「で、でも優ちゃん!……」


「……あの呪毒付きの刃で刺されたんだ、俺は助からない…… だけど、お前のために道ぐらいは作ってやるぜ!」


彼はいつもそうだった。小さい頃から美優子がいじめられているのを見つけると、年上だろうが構わず彼女の前に出てくれた。


優作は自身の刀''虎牙丸''を鞘ごと美優子に投げ渡す。


「優ちゃん……」


何故護身用の刀をといった視線で優作を見ると、彼は笑ってこう言った。


「言っただろ…… 俺は…… お前が好きなんだて……」


「!」


優作は持参したバックの中からある物を取り出す。


それは基地の穴を掘る際に使われたダイナマイトの束だ。代官屋敷は頑強な塀に囲まれている。それに正門は幽鬼達でぎっしりだ、ならば塀に横穴を開けるまでの事。


それに今の優作では普通に戦っても、よくて1人倒せるかどうかだろう。ならば自らの体を起爆装置にして自爆した方が数体を確実に仕留められる。


「……俺にはコイツがある。す、好きな奴の為に…… 死ぬのも…… 悪くないな…… 」



彼はいつもそうだった。


「……ゆ、優ちゃん………」


そして優作は最後に美優子に笑みを残して導火線に火を灯すと、最後の力を振り絞り、向かってくる幽鬼達の元へ走り出した。



「優作!」


最後の最後に美優子が自分の事を名前で呼んでくれた。やっと男として認められた、そんな思いが優作の心を満たしていた。


ほんの一瞬だけ走るスピードを落としてその余韻に浸る優作。


(やっと…… やっと名前で呼んでくれた……。もう思い残す事はない! )


「ウオオオオオオオオオーー!!」


ドゴーーン!!という爆発音と共に優作は迫る幽鬼達数十体を巻き込んで、代官屋敷の塀に大穴を開けたのだ。


爆発の後、美優子は走っていた。優作の意思を無駄にしない為に。背後からは幽鬼達が怒涛となって押し寄せて来る。


そしてなんとか結界の有る代官屋敷へ駆け込んだ美優子は、その場にへたり込んでしまう。


幽鬼達は結界に弾かれて中に入る事は出来ない。中には結界に刀で斬りかかる者も居たが、どうしても結界を越えられないと悟り、心底悔しそうに美優子を睨みつける。


諦めた幽鬼達が去って行くのを見続ける美優子。


そして幽鬼が一体も居なくなった安堵からか、仲間を無くした悲しさからか、ほんの2、3分塞ぎ込んでいたが、立ち上がると供養塔にむかった。


そして火を灯すと黒石の浄化の波動が島を覆ったのだ。それを確認すると彼女はその場にへたり込み、まるで子供の様に大声を出して泣き出した。

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