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第51話 海斗アレハンドロ



『…… そうか、戻らぬか』


海斗アレハンドロが、自身の人差し指に括り付けられられた髪の毛に向けてそう呟く。


この髪の毛は雪乃と繋がっており、彼女の思いが海斗アレハンドロに伝わるのだ。


三芳リカルドと雪乃が優畄達に破れ去り、戦えなくなった三芳リカルドと2人の時間を過ごす為、もうこの場には戻らないと言う事を、髪の毛の能力によって知った海斗アレハンドロ。


『思えば、お前達2人には辛い思いをさせて来た…… よかろう、これからは2人で過ごすがよい。黒石の始末は我等に任せよ』


元島頭で、雪乃の父親でもある海斗アレハンドロ。

幽鬼になった今でも娘を思う心は失われていない。


かつて守ってやれなかった娘の幸せを願う、親として当たり前の事なのだ。


海斗アレハンドロは磔にされている弓夜と早苗を見る。2人に意識は無く、グッタリとしている。


『フフフこ奴等を囮に、島に潜んでいる黒石の者共を呼びだし、お前達2人への餞別としようぞ!』


海斗アレハンドロは優畄達がいるであろう島の北端に目を向けると、凄まじいまでの殺気を放ち優畄達を待つのだ。



ーーー



その頃、弓夜との約束通り美優子と2人で島から脱出しようとしていた優作。だが、予想通り美優子は2人きりで逃げる事をよしとはしなかった。


「ダメ! 絶対にダメよ。私はお兄ちゃんを待つわ。それに優畄君やヒナちゃんだって、まだ生きているかもしれないんだよ!」


「わ、分かってるよ! 」


「ならこの皆が戻って来るまで島に残りましょ!」


知っていた、分かっていた。彼は美優子が絶対に仲間を見捨てないという事を。


だからこそ優作は最後の切り札をここで使う。


「生きているかどうかも分からない奴等の事より俺はお前を守りたいんだ美優子、お前が好きなんだよ!」


「えっ? そ、それって…… 」


優作の突然の告白に言葉が詰まる美優子。


「…… こんな時にこんな事言うのはおかしいって分かってる。でも今だからこそ伝えておきたかったんだ。美優子、俺はお前が好きだ!」


「そ、そんな…… そんな事を言われても私…… 」


美優子は近くにあった椅子に座ると俯いて考え込んでしまった。


(…… チキショウ俺は卑怯者だ…… )



彼等が今いる基地は、あの船着場から10km離れた岸壁に空けられた横穴だ。


入り口は崖の上に建っている御堂の下、そこに横穴へと続く縦穴があり縄梯子が下まで降りている。横穴の2m下には海があり、ここは船着場に何かあった時用の脱出専用の基地なのだ。


そのため基地内にはウォーターバイクが2台置かれている。


この基地の事は優畄達は知らない。それゆえ彼等がここに居続ける限り優畄達とは合流出来ないのだ。


だがその時、俯いていた美優子が突然頭を上げて辺りを見回す。


「えっ? えっ?! この声てヒナちゃん!?」


突然のヒナからのテレパシーに驚く美優子だったが、優畄達が生きていると分かりその顔が笑顔に変わる。


「ヒナちゃん生きていたんだね! それにこんな能力があったなんて、えっ、ついさっき覚えた? それで優畄君も生きているのね?! 良かった…… 本当に……」



時は遡り5分前、優畄達が優作と美優子を探している時に何となくヒナがテレパシーが繋がらないかと試して見たところ、なんと美優子に通じてしまったのだ。


このヒナのテレパシーの範囲は、半径1km四方の円形に及ぶ。ヒナが親しいと思う者、という制約はあるがこれで優作や美優子達と合流出来るのだ。


本当にヒナさん様様である。


横穴の基地で合流した僕等。ヒナと美優子が抱き合って、互いの無事を喜び合っている。


そして僕は弓夜と早苗が幽鬼に捕まり、今日の午後6時に処刑されてしまう旨を2人に話した。


「そんな!お兄ちゃんと早苗が処刑だなんて……」


あまりのショックに膝から崩れ落ちる美優子。そんな美優子の隣の優作は大して驚いた様子はない。


それどころか少し気まずそうに頭を垂れている。


「いま幽鬼達は中核をなす三体のうちの二体がいない。弓夜さん達を助けに行くなら今しか無い」


「で、でもどうやって助けるの?」


美優子が当然の質問をする。


「今の僕とヒナの力なら正面から攻めても何とかなると思う。その間に君達には弓夜さん達の救出に動いてもらいたいんだ」


僕の作戦はこうだ。


まず僕とヒナが正面から幽鬼達に攻め込む。そしてその騒ぎに乗じて優作達が弓夜達を救出するという、シンプルだが最も確実生のある作戦だ。


今の優畄とヒナの力なら幽鬼が束になっても敵わないだろう。それに三芳リカルドも雪乃も居ないのだ。


(島頭だった男、海斗アレハンドロの事は気になるが、ヒナと2人がかりで戦えばなんとかなるだろう)


「分かったわ。その作戦でいきましょう!」


「絶対に美優子ちゃんのお兄さんを助けようね」


「ヒナちゃん…… うん、頑張ろうね」


僕達の会話を黙って聞いていた優作は、顔に影を作り佇んでいるだけで何も喋らない。


「……」


今は午後の4時、弓夜達の処刑まであと2時間だ。

そろそろ代官屋敷を目指して行動にでなければならない。


「ちょっと優ちゃん、話があるの。いい?」


「…… ああ」


基地から出発する直前、美優子が優作を呼び出した。僕達は何事かと離れた場所で見守る。


会話の内容は分からないが、何やら揉めている様子。しまいには美優子が優作の頬にビンタを喰らわせている。


そして1人抜け殻の様に立ち続ける優作を残して、離れていた僕達の元に美優子がやって来た。


「さあお兄ちゃん達を助けに行きましょう」


有無を言わせない美優子の迫力に優作の事を聞けない僕達、美優子はそのまま代官屋敷に向けて歩き出してしまう。


時間も迫っている。今は2人の事は後回しにして弓夜達の救出を最優先で考えなければならない。


そして僕達は1人佇む優作を残し、弓夜達の救出のため代官屋敷へ向かった。












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