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第48話 2人の処刑

8月8日



弓夜が幽鬼達に捕まってから5時間、辺りは明るく成り、しとしとと雨が降る嫌な天気だ。


後方に退いていた優作達、はウォーターバイクなどの整備をした後、美優子だけを残し優作が偵察に出ていた。


辺りに幽鬼は居ない。おそらく代官屋敷の方の警備を固めているのだと優作は予想する。


(……弓夜兄い、無事に代官屋敷まで辿り着けていればいいけど……)


優作が思うのは単身代官屋敷へ向かった弓夜の事。


美優子を庇い捕まった早苗の事も気にはなるが、それでも実の兄の様に慕って来た弓夜の安否が気になってしょうがない。


「俺達はどうすればいいんだよ弓夜兄い……」


そんな優作の10m先に幽鬼達が姿を見せた。それを見て慌てて木の影に身を隠す優作。


幽鬼達はこちらには気付いていない様で、何かの立札を立てている様だ。


(……奴等何をしてやがるんだ?)


幽鬼達が居なくなるまで隠れたのち、その立札を見に行く事にした優作。


「……何で幽鬼が立札何かを…… 」


辺りの気配を探りながら立札に近づいて行く……



「なっ!! 弓夜兄いが捕まっただと!?」


大きな声を上げてしまったが、幸い近くに幽鬼は居なかった様だ。まあそれ以前に、そんな事を考える余裕もないのだが。


立札には [黒石の者2名、黒石弓夜と黒石早苗の処刑を取り行う。日時は本日酉の刻暮れ六つ、場所は代官屋敷前] と書かれていた。


そうこの立札は他の黒石の者を誘き寄せるための撒き餌のような物。


もし仲間が助けに来ればそれを捕らえ、来なかったとしても、憎き黒石の者の処刑は幽鬼にとって最高の娯楽なのだ。


彼等は生きたまま幽鬼達により八つ裂きに処され、島中にばら撒かれるのだ……。


「グッ……ゆ、弓夜兄い、俺は一体どうすれば……」


美優子に言えば、彼女は何がどうなっても弓夜達を助けに向かうと言うだろう。


だがそれは即ち自分達の死を意味する行為だ。


優畄達でもいれば話は別だが、彼等は居ない。その安否さえも分からない……。


実はウォーターバイクのあった隠れ基地には、ダイナマイトが数本保管されていた。


(あのダイナマイトを使えばひょっとしたら……)


だが頭を振ると優作はその考えを追いやる。やはり2人ではどう考えたって無理だ。そして弓夜と分かれる際に交わした約束を思い出していた。


正直、優作は美優子の事を異性として好いている。彼女を死なせたくないという強い思いが彼の中にはある。


「…… 弓夜兄い許してくれ。 お、俺は美優子と…… 」


そして優作は決断した。



ーーー



優作がある決断をしたその頃、崖の淵でヒナが1人幽鬼の猛虎を凌いでいた。


矢継ぎ早で組織的な幽鬼の攻撃、決して単体では無くグループ単位での攻撃に終始しており、ヒナを倒すのではなく、逃がさないための時間稼ぎの布陣だと分かる。



崖の下にいる優畄にもヒナを介して、その状況が伝わってくる。


(ヒナ! チキショウ、後10分程で完治するって云うのに、何でこんな時に……)


今動くわけにはいかない、今動いたら怪我が完治せずに残ってしまうと、なんとなく分かるからだ。


動けない僕ではヒナの足手纏いになってしまう、ここは何とかヒナ1人に耐えてもらうより他はない。


(ヒナすまない…… あと10分耐えてくれ。そうすれば僕の体は完治する)


届くか分からないがヒナに届く様に強く念じてみる。


(分かった。 私に任せて!)


そうヒナからメッセージが伝わる。彼女も幽鬼に囲まれて必死なんだ、僕も回復に尽力しよう。


優畄からメッセージを受け取ったヒナ、任せてとは言ったが、内心では焦っていた。



(長引けばあの幽鬼がくる……)


ヒナの脳裏に浮かぶのは、優畄と共に戦った幽鬼''三芳リカルド"の姿。新たに【火焔掌】の力に覚醒したとはいえ、今のヒナの力ではまだ敵わない相手だ。


それでも優畄のため彼女は戦うだろう。


それに崖下にいる優畄の存在を奴等に感づかれては不味い。少しずつ優畄のいる崖から距離を離していくヒナ。


(優畄待っていてね、必ず迎えに行くからね!)



それからしばらくの間一人で戦い続けるヒナ。もう何体の幽鬼を倒しただろう、彼女の前に転がる300体以上の幽鬼の亡骸、その亡骸を挟んだ対局に奴は現れた。


先の戦いで敵わないと優畄と共に逃げ出した相手、三芳リカルド……。


彼の隣には美しく妖艶な女が寄り添い立つ。


『貴様はあの本家筋と共にいた小娘、あの男はどうした?』


「優畄はここには居ないわ。私だけよ」


『そうか居らぬのか…… 』


何故か少し残念そうな顔を見せる三芳リカルド。


『ならば貴様だけでも捕らえて、今日の処刑の列に加えてやろう』


「処刑?!」(誰かが捕まったんだわ……)


『なんだ知らなかったのか? 貴様らに知らせる為に立札まで立てて回ったというのに』


そして三芳リカルドはおもむろにシックルを構えると、その刃先をヒナに向ける。


『今度は逃げらぬ様、その足を斬り落としてやろう』


三芳リカルドは雪乃をその場に残すと、疾風の如き速さでヒナとの間合いを0にする。そして狙うは宣言通りヒナの足首、前進の勢いと共にシックルが振り下ろされた。


「早い! でも」


ヒナはシックルの斬撃を飛び跳ねて交わすと同時に、【火焔掌】を目眩し代わりに三芳リカルドの目元に放つ。


『ウヌッ! ちょこざいな小娘め! 』


今のヒナの火焔の温度は500度程度、紙や木が燃える温度だ。これでは三芳リカルドの体は滅せない。


だがヒナは、火焔に髪を留めるのに使っていたゴムを紛れ込ませていたのだ。


それによって溶けたゴムが三芳リカルドの目頭を塞ぎ、一時的にその視力を奪った。


ちょうど三芳リカルドがヒナの足首を狙おうと、一瞬とはいえ下方に意識がいっていたのも幸いし、三好リカルドはガードが間に合わなかったのだ。


ヒナの役割はあくまで時間稼ぎ、それだけならばヒナ1人でも充分に対応出来る。無理をしてこの強敵と戦う必要はないのだ。


『おのれ小娘ぇ! この場で八つ裂きにしてくれる!!』


瞼を焼く溶けたゴムを取り払い、怒りの面持ちでヒナに向き直る三芳リカルドだったが、後方から迫るあるものには気付かなかった。


『ガハッ!』


そして背後から突然、ミサイルの様なドロップキックを喰らった三芳リカルドは、物凄い勢いで吹き飛ばされたのだ。








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