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第41話 早苗の痛み



船着場の襲撃からからくも離脱した僕達は、幽鬼の目を避けながら崖の上から5km程先にある、中継基地の洞窟に身を隠していた。


幽鬼共は僕達を警戒してか、5体1組で動いている様で、弓夜の【千里眼】が無ければ厳しかったかもしれない。


それに船着場での襲撃で疲れも有るためあまり距離が稼げなかったのだ。



この島には船着場から代官屋敷の間に、あと5ヶ所の中継基地がある。そして幽鬼に見つからない様に結界によって存在を隠されているのだ。


洞窟は結界で見えなくなってはいるが、念のため入り口は、僕の吐く糸に木の葉や枝などをくっ付けてカモフラージュしてある。


この洞窟は、黒石の者が代官屋敷へ行く際の中継地点で、中には寝袋や非常食などが常備されているのだ。


「……ここの食料だけじゃ足りないな」


「うむ、定期的に補充されているはずだが、これでは2日分有るかどうかだな」



洞窟内では先程まで早苗の悲鳴がこだましていた。その理由は彼女の切断された腕が、切断面から徐々に腐り始めているからだ。


普通にはあり得ない速度で腐敗していく早苗の腕。どうやら幽鬼達は銛に何らかの毒を仕込んでいた様子。


今は二の腕の半分までを失った状態で安定している早苗。



抗生物質が船ごと沈んでしまったため、刀で傷口を削り、焚き火の火で炙って消毒するという地獄の様な手段しか選べなかったのだ……


今は美優子の【水躁術】の"癒しの泉"で痛みを抑え込んでいる状態だ。


またいつ症状が悪化するとも分からない。もはや早苗を連れての長距離移動は無理だろう。


そして彼女をこの洞窟に残して先に進むメンバーを決める事になった。



「……わ、私は大丈夫よ……だ、だから……」


「いやダメだ。今の君を連れて行けば皆の足手纏いになる、君はここに残るんだ」


「……分かったわ」


リーダーゆえに厳しめに早苗を説き伏せる弓夜。

本来なら婚約者である自分もここに残りたい、だがそうは言ってられない。



「代官屋敷に向かうのは私と優作、そして優畄君とヒナさんの4人だ」


「はい!」


「了解!」


「分かったよ」


弓夜は美優子の方を見ると彼女にあるお願いをする。


「美優子はここに残って早苗の面倒を見てくれないか? なるべく直ぐ戻るから」


「うん任せて。早苗さんは私が守るよ!」


美智子は小さくガッツポーズを取る。



4人で代官屋敷まで行く事となった僕等。



「出立は明日の明け方、しっかり寝て明日に備えてくれ」

 

時計を見ると今は夜の7時過ぎ、夜は幽鬼が活発になる時間帯。奴等は夜だとおよそ2倍の強さになるのだ。


そのため、この島での活動は原則日中のみとなる。



そして僕等は明け方まで待ってそれから出立する事となった。



その晩は交代で見張りを組む事にした僕達。先ずは弓夜、その次が優作でその次が僕の見張りの順番だ。


ヒナは僕が代わりに番をするから、寝かせてやって欲しいとお願いしてある。


さいしょヒナは、僕と一緒に起きていると聞かなかったが、なんとか説得して今は寝息をたてながら寝入っている。



そして夜中の2時、僕は優作に蹴られ起こされた。


「おい起きろ。見張りの順番だ」


「……あ、ああ」


ちょっとぶっきらぼうな優作の起こし方だが、その方が目が覚めてちょうどいいと思っておこう。


僕が寝袋から出て外の様子が伺える場所に行こうとすると、優作が一言余分な口を開いた。



「おい、くれぐれも寝るなよ」


それだけ言い残すとさっさと寝袋の中に潜り込んでしまう優作。


(言われなくとも寝やしないよ……)


どうも僕に突っかかってくる優作、きっと思春期のなんかなんだろう……



焚き火に新たな薪を放り込見ながら見張りをしていると、僕の隣に早苗の看病をしていた美優子が座った。


今まで看病していたが、早苗が落ち着いた所で寝に来たのだ。そこで僕が見張りをしているのを見て話しに来ただしい。



「優畄君が見張りの番なんだね」


「うん。美優子ちゃんは寝なくていいの?」


「ううん大丈夫。 ねえ…… 私達どうなっちゃうんだろうね?」


「……きっと大丈夫だよ。 代官屋敷に辿り着けさえすれば、僕らの勝利なんだから」


美優子からの応え辛い質問に無難に言葉を選び応える。



「そうなればいいんだけどね……」


「なにか心配なのかい?」


「……早苗お姉ちゃんの事もあるし…… 昨日まで皆揃っていたのに、突然みんな居なくなる様な気がして……」


「……」


きっと美優子はこの先行き分からぬ現状が怖いのだろう。明日も分からぬ今のこの状況が……


この場合ヒナなら、頭を撫でてやるのだが流石にそれは無理だ。


少し重い空気になってしまったと、僕が他の話題を変えようと考えていると、彼女も同じだったらしく話題を変えてくる。


「ねえ優畄君とヒナちゃんて付き合ってるでしょ?」


「ま、まあね。どうして分かったの?」


「女の子は色恋沙汰には敏感なのよ」


確かに女の子は異様に感がいい時がある。


「優畄君よほどヒナちゃんを大切にしてるんだね」


「どうして?」


「だってヒナちゃん、とても幸せそうに笑ってるもの」


はい。ヒナの笑顔が僕の活力ですから。


「美優子ちゃんは彼氏とかいないの? 優作君とか」


「優ちゃん? 優ちゃんは小さい頃から一緒だったから、弟て感じかな。 そういう目では見れないかな」


哀れ優作は聞こえていたのか、「うううん……」と寝苦しそうに寝返りをうっている。


「じゃあそろそろ私は寝るね。 フワワワ……」


「うん、おやすみ」


そして美優子は、可愛いあくびと共に寝袋のもとに去っていった。


(このまま何事もなく仕事をこなせて、皆んなで帰れたらいいな…… いや、帰れるさ絶対に)


その後は大した異変も無く僕の見張りの時間は過ぎていく。


4時に見張り番を弓夜と交代した僕は、その後2時間だけだが睡眠を取ることができた。







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