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第4話 黒き者、ボブとの出会い

よろしくお願いします。


それは突然の出来事だった。



『強い霊気に惹かれて来てみれば、混ざり物とは…… なるほど貴様、黒石の血筋の者か』


なんの前触れもなく優畄の背後から何者かの声がした。そして一瞬で理解する。この声の主が人ではないという事に。


その存在感は圧倒的で、次の瞬間には僕の全身に鳥肌が立ち、呼吸が荒くなっていた。彼の第六感が自身の危機を伝える。


だが足に力が入らず逃げ出そうにも体が自由に動かせない……



「ハア、ハア……」 



彼のの人並外れた霊力のおかげか、なんとか金縛りから逃れ僅かだが、身体を動かす事が出来る様になった。


そしてなんとか荒くなった呼吸を整えつつ、声がした駅の方に優畄が振り返ると、ソイツそこに居た。


木造駅の出口の手前、僕まで2mと無い位置。


まるで闇を凝縮したかのような黒い人形のナニカがそこに立ち、優畄を品定めするかの様に見つめているのだ。



『ほう、我が妖気に当てられても動く事が出来るとは、やはり黒石の血族は好かぬな……』



なんとも心地良く、すんなりと優畄の耳に入ってくる黒いナニカの声。それが逆に彼の恐怖を倍増させる。



「……ハア、ハア……お、お前は、いったい………」



『貴様がただの凡夫ならば、この場で取り殺してやろうとも思ったが、クッククク、安心せよ。黒石の血族と事を構えるつもりはワシには無い。此度は挨拶程度のものとだけ伝えておこう』



そう言うや否や黒いナニカは、烏の様な黒羽根を背中から生やすと、いつの間にか闇に覆われていた闇空へと羽ばたき上がったのだ。



「グッ……」


黒いナニカが飛び立つ際に発した黒い衝撃波によって優畄の体は、ダンブルウィードがてら吹き飛ばされ転がってゆく。



『黒石の者よ、其方が黒石の者として生きていくのならば、今日この時、我に取り殺さていた方がどれほど楽で幸せであったか思い知る事になるであろう。そのことゆめゆめ忘れるぬ事だ。ワハッハハハハ!』



辺りを包み込む暗闇と笑い声と共に、黒いナニカは何処かへと飛び去っていった。


そして黒いナニカが去ると同じくして、辺りにジリジリとした暑さと共に、本来の明るさが戻ってくる。



一瞬、先程の出来事が白昼夢の夢だったのでは無いかと思いはしたが、崩れかけた木造駅の出入り口と吹き飛ばされた思い出ノートが、あの出来事が現実だったと彼に教えてくれる。


優畄はぶり返してきた恐怖に、誰も居ない駅の構内に膝を抱えて蹲り、ガタガタと震えている事しか出来なかった。



(……な、なんなんだアレは…… なんなんだよぉ……ど、どうして僕があんな目に……うう……怖い、怖いよ……誰か……誰か………)



それからどの様にして時間を過ごしていたのか覚えていない。気付けば優畄はバスに乗っていたからだ。


あの後駅に電車が来たのかすらも覚えていない。なぜ電車ではなくバスに乗ったのかすらも記憶に無いのだ。


バスは黄昏時の鬱蒼とした森の中を走っていく。



「ああ桜子…… 無性に君に会いたいよ……桜子……桜子………」



愛しの彼女の名を呟いてもバスは止まらない。そんな優畄の思いなど関係ないとばかりにバスは鬱蒼とした山道を走って行く。



ーーー



バスに揺られる事1時間、なんとか優畄も落ち着きを取り戻すことができた。地元なら暑苦しくてたまらないバスの中も、田舎特有の涼しさで気持ちがいい程だ。



それも彼が落ち着く事が出来た一因だろうか。 



バスの中には優畄と運転手の2人だけ、他には誰も乗っておらず、彼の座る座席も1番後ろのため運転手の顔を伺い見る事は出来ない。


感覚的に運転手の彼が人間である事は分かるが、先程の黒いナニカとの出来事もあり、また何かが起きはしないかとひどく心配になる。



(しかしこんな所を走るなんて、この運転手さんも大変だな……)



こんな田舎ではそうそう乗り降りする人も居ないのだろう。なんにしろバスに乗ってから1時間、一度たりともバスが止まった事がないのだから驚きだ。


時計を見れば今は午後の6時半、夏場は日が長くて助かる。とはいえ辺りはほんのりと夕闇に包まれ始めている。



「せめて携帯か通じればな…… 」



そんな事を考えていると、突然バスがハザードランプを灯しながら山の中の寂れた停留所に停止したのだ。


降りる者はいない。となればこんな山奥の停留所から乗車する者がいると言う事。


あの駅での出来事が優畄の脳裏にフラッシュバックで蘇る。もしこのバスに乗り込んでくる者が人外だっとしたら……


優畄は固唾を飲んでバスの乗車口を見守る。そして違う意味で僕は驚愕した。



なんとバスに乗り込んできたのは、ドレッドヘアーをした黒人の外国人だったからだ。



(が、外国人!……なぜ外国人がこの様な辺鄙な場所に?!)



背丈は180cm程と外国人では普通のサイズだ。ドレッドヘアーに赤青黄色の原色で統一されたファッションが強烈だ。


いかにもレゲエを歌ってますと言いたげな見た目だ。


(いや、まさかコイツ、本当にレゲエを歌っているんじゃないか?)


レゲエ特有のリズムに体を揺らしブツブツ言いながらバスに乗車してくる外国人。彼は優畄の姿をその目に捉えると喜び駆け寄ってきた。



「オゥ! 久々の人間で〜ス!!」



久しぶりに会う目の前の人間を確かめる様に、馴れ馴れしく優畄の体にタッチしてくる外国人。


(な、馴れ馴れしい奴だな……)



「一人でここまできましたがァ寂しさの限界でしたァ…… 貴方にあえて私、嬉しいで〜ス!」


「あ、ああ…… それは大変でしたね……」


「それにぃ凄〜ク、凄〜クお腹が空きましタ〜……とてもォ、とてもォオ腹ペコで〜ス!」


そう言うと、物欲しげにチラチラと僕のリュックサックを見てくる不良外国人。優畄はリュックを反対側の座席に移動させた。



(う、ウザいな…… 運転手の方に行ってくれでばよかったのに……)



それでも不良外国人がしつこく食べ物を催促してくる。


「私ィこの一週間どくな物しか食べていまセン!

セミやァ、カエルやァ、ドクダミ草やァ、どんぐりなどで〜ス…… 日本の方は皆優しいで〜す!困っている人見かけたら皆手助けしてくれま〜ス!」


力強く力説する不良外国人、血走った目がとても怖い。


「お腹空きましたァ……ペコペコで〜ス……もうカエルやドクダミ草は嫌で〜ス」


あまりにしつこいので根負けした僕は、買い置きしておいたおにぎりをリュックから取り出す。


「2つしか無いけど、よかったら食べます?」


「オウ! やはりあなたいい人で〜〜ス!!」


不良外国人は奪い取る様に優畄からおにぎりを受け取ると、ものすごい勢いで食べ出した。


(よほど飢えていたんだな……いい事をしたと思っておこう)



おにぎりをあげた事で打ち解けた2人。ボブの話を聞くとなんでも彼は、武者修行の旅をしている交換留学生だしく、名前をボブ.マーカスというだしい。


出身は予想通りジャマイカのキングストン。実家のブゥドゥー呪術を広げるためここまで来たとの事だが……



「モグモグ、私ィ、幽霊が見えま〜ス! クチャモグ、今までに祓ってきた数はァ300体を越えェ、クチャクチャ、マーカス流呪術の新記録なので〜ス! これ凄いことで〜ス!!モグモグ、クチャクチャ、ごっくん」


「……へ、へえ〜、凄いですね……」



話が嘘くさい、とにかく嘘くさい。それに咀嚼音がうるさい、汚い……


優畄は邪険にも出来ないので適当に相槌を合わせておくことにする。


ドヤ顔で自画自賛の自慢話を続けるボブ。彼の話が嘘か誠かは分からないが、それでも暇つぶしにはなるかもしれない。


寂しい一人旅に仲間が出来たと思えばこんなヤツでもなんとか耐えられるだろうか……。









ありがとうございました。

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