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第36話黒石の力




「嘘みたいな話でしょ?でもこの話は全て本当の話しなのよ」


「……そ、そんな話が現実にあっただなんて……」


「ひどい……」



なんとおぞましい所業か、とても人のなした事とは思えない。


でも僕はこの話が事実だと素直に思えた。


何故なら、今まで僕が体験してきた黒石家での出来事を思えば、全て納得できるからだ。



「あの島の連中の怨みは凄まじいものでね、死してなおさら黒石への怨念が強まるほどだ……」


「島の連中?」


「貴方は本当に何も聞いていないのね。行ってみれば分かるわ、弓夜がそう言った意味が」


「……」


なんとも含みのある早苗の言葉に、僕の胸中は不安で苛まれる。


船の支度も終わり後は出発を待つだけとなった。



「片道3時間かかるからね。船酔いが気になるなら、酔い止めを飲んでおいた方がいい」


(片道3時間もかかるのか……)


僕は昔から乗り物には強かったから、酔い止めは飲まなくとも大丈夫だろう。


「ヒナはどうする? 飲んでおくか?」


「うん。一応飲んでおこうかな。優畄も飲んでおいた方がいいよ」


「俺は大丈夫。船酔い如きどうとでもなるよ」


「後で後悔しても知らないよ」


美優子が僕とヒナの事を、ニヤけながらジロジロと観察する様に見てくる。女の子は色恋沙汰に敏感だからな致し方ない。


なんだかんだで出港した船は黒雨島へ向けて進み出した。




ーーー




一方その頃、黒石の屋敷では優畄を港に送り届けたマリアが、その光景を鏡から覗き見ていた。



「……先の磯外村でのお兄様は楽しめましたわ。この黒雨島ではどんなお兄様を見せてくれるのでしょう? 楽しみですわねドゥドゥーマヌニカちゃん」


『……ギ……ギ……』


「そうね、あの島の幽鬼は一筋縄ではいきませんもの」


『ギ…….ギギ……ギ……』


「まあ大変! その事をウッカリお兄様に伝え忘れましたわ。 まあそれで、分家の者が何名か死ぬかもしれないけれど、お兄様くらいならなんとかなるでしょう」


『……ギ……』


「そお。お兄様にはガッツがありますから。きっと上手く乗り越えて来てくれますわ」


『ギギ………ギギ……』


「そうですわドゥドゥーマニヌカちゃん。お兄様が苦しめば苦しむほど良き贄となるのよ」


『ギ……ギギ……ギ……』


「私が酷い? そおいう事を言うならオヤツは抜きですよドゥドゥーマニヌカちゃん」


『ギ………』


「分かればいいのよ。さあ続きを見ましょう」


『ギギギ……ギギ……』



少女の姿をした何かと、人形の姿をした何かが楽しそうに話しをする。


何百年、何千年と生き続ける化け物達は、新しいオモチャで遊ぶこの時間が堪らなく好きなのだ。


そして彼女達はまるでドラマや映画を観るかの様に、食い入って鏡を覗き続けるのだ。



ーーー



いま僕は酷い船酔いに襲われていた。



「ゲロ、ゲロ、ゲロ…… (能力が上がって船酔いぐらいなんとかなると思ってたけど、とんでもない……)


「だからあれ程飲んだ方がいいって言ったのに……」


僕の背中を摩りながら、呆れた様子でヒナがそお言う。


(はい、その通りです。すみません……)



「コレじゃあ向こうに着いても動けそうにないわね」


早苗もこんな僕に呆れ気味だ。ていうかこの人弓夜さん以外に心なしか辛辣に思える……



「す、すみません……」


「チッ、使えね野郎だな……」


優作が舌打ちをし僕を睨みつける。



「優ちゃん、態度が悪いよ!」


「フン……」


美優子に指摘され不貞腐れて船内に行く優作。幼馴染だしいが仲は良さそうだ。


(ゆうちゃんか…… 桜子と喧嘩していたのがえらく昔の様に感じるな……)



そんな事を考えていると、どうやら船は黒雨島に到着した様だ。


辺りには船が着いた時から、まるで僕らの侵入を遮るように濃いめの霧が出ており、5m先を見渡すのがやっとだ。


船が着いたのは集落があった場所の反対側で、そこには黒石の者が建てたのか木造の掘っ建小屋が濃い霧越しに伺える。


船着場もしっかりと整備されており、とても人が住んでいない様には見えない。



(フゥ〜、やっと陸に上がる事が出来たよ)


この船着場には結界が張られており、幽鬼の侵入はない。



この船着場は船上では霧で分からなかったが、高さ50m程の崖の下に作られており、幾つもの浮きを繋ぎ合わせ、その上に板を敷き固定してある浮島だ。


そのため、ここからでは島の内側を窺い知る事は無理だ。



「よし、私と優作とで崖の上に行って島内の様子を見てくる。優畄君はここで休んでいてくれ」


「す、すいません……」


船酔いの抜けない僕では足手纏いになるだけだ、仕方なく待っている事にする。


「早苗、美優子、優畄君の事を頼んだぞ」


「了解」


「うん。気を付けて行ってきてね」


2人はハーネスを付けると、慣れた手付きで崖を登り始めた。



この島は反対側の幽鬼達が住む漁村まで、切り立った崖が続いている。迂回するより直に登った方が早いのだ。


そんな中、残った美優子が船から荷物を下ろし始めた。


早苗は掘っ建小屋の内に用があるだしく、作業は僕らに任せて行ってしまった。



「僕達も何か手伝うよ」


「大丈夫? まだ酔いが覚めて居ないなら休んでいていいんだよ」


「大丈夫、ジッとしているより動いている方が楽なんだ」



「じゃあお願いするね」


銃火器と5日分の食料などが入った木箱を運ぶ。


一つ40kg程の重さだが大したことはない。なので3箱程いっぺんに運ぶと美優子が驚いた顔でこちらを見ている。


「……優畄君、お兄ちゃんや優くんでも一箱が限界なのに、凄い力持ちなんだね…… 」


「まあ、能力がつかえる様になってからだけどね」


「そうでしょ、優畄は凄いんだから」


ヒナが自慢げに腰に手を当てて胸を張る。



「2人は本当に仲が良いんだね」


美優子がジト目で僕達を見てくる。


荷運びも半ば終わり、一休みしていると美優子が僕の能力について聞いてきた。



「優畄君は何の能力を授かったの?」


「僕は変化、【獣器変化】だよ」


「じ、【獣器変化】! あの伝説の!?」


尋常じゃない驚き方をする美優子。



「伝説? そんなに凄い能力なの?」


「凄いなんてものじゃないよ! 【獣器変化】の能力は黒石でも直系。その中でも更に10%の確率でしか出ない能力ていわれているんだよ!」


「たった10%!? 確かに便利な能力だけど」


(僕ってそんなに凄かったんだ……)


「私なんか万能のそれも【水躁術】だよ、せめて攻撃に使える【火殲術】だったら良かったな…… まあ回復とか出来るからいいけど」


「美優子ちゃん達も能力を使えるんだね。じゃあ屋敷にあるあの黒い石に触ったて事?」


まさか分家の人達も能力を使えるとは驚きだ。



「違うわ、私達分家は【甚黒魔皇石】のレプリカから力を得ているの。 優畄君は本当に何も知らないんだね」


「そ、そうだったんだ……」



黒石の血族に力を与える【甚黒魔皇石】のレプリカは9つ有り、それぞれの支部で厳重に管理されているのだ。


分家の中でもたまにずば抜けた能力の持ち主がおり、黒石の当主の許しがあればレプリカではない本物の[甚黒魔皇石】から力を得るチャンスもある。


まあ、たとえ許しが降りたとしても血が薄い分家の者では、その成功率は極めて低いのだが。



「弓夜お兄ちゃんが【千里眼】の能力を使えて、優ちゃんが【受樹変化】ていう分家の者にしか使えない能力を使えるわ」


どうやら美優子は黒石本家の能力に強い憧れがあるようで、僕の能力を聞いてから僕を見る目が変わった様に思う。


美優子と黒石の能力の話で盛り上がっていると、ヒナがヤキモチを焼いたのか、ソッポを向いてしまう。


そんなヒナさんの機嫌をとっていると、崖の上に島の様子を見に行っていた2人が戻って来た。



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