第33話ボーゲルと権左郎3、出立
2人が初めての体験を済ませて疲れ果て寝静まっているその頃、黒石の屋敷でもある動きがあった。
今ボーゲルが訪れているのは権左郎の趣味の間。
権左郎は多趣味で、この屋敷内にもそれぞれ趣味の部屋が幾つか存在する。
あらゆる生物の人造結合双生児が入ったガラスのケースが並ぶこの部屋は、生体実験の間と呼ばれており、権左郎がその手の趣味に興じるための部屋である。
最近の権左郎は授皇人形の体を使ったオブジェを作ることにハマっている。
生きたまま組み合わせるのが難しいと、今日も哀れな犠牲者にメスを振り下ろすのだ。
「権左郎様、惟神共の居場所が分かりました」
「先に言うておいた通りに取り計らえ」
「了解いたしました」
「それと千姫だったか、アレだけは捕らえてこい。手足を切り落としてワシのペットにするからな」
「了解いたしました」
ボーゲルが了承の意を言うと同時に老人が組み上げた哀れな肉人形がグチャリと崩れ落ちる……
「また失敗か…… 生かしたまま維持するのが難しいんじゃよ」
「……」
心の底から悔しそうな権左郎。そんな彼を無表情な眼で一瞥した後その場を立ち去るボーゲル。
「そおじゃな、あの狐娘が手に入ったら生きたまま剥製にするのも悪くないかのぉ」
薄暗く湿った部屋で老人のしゃがれた独り言だけがいつまでも響いていた。
8月6日
初めて2人が結ばれた翌朝、僕は少し重い腰の違和感と共に目を覚ました。
昨晩はお互いに初めてにも関わらず、あまりの相性の良さからか互いに求め合い、疲れ果て寝落ちするまで致していた僕たち。
(こっちに来る前の僕じゃあ考えられないよ……)
僕が授かった能力''獣器変化''は獣に変化する能力だ、本能に生きる獣の影響がそちら方面にも出ているのかもしれない。
いま僕の隣には生まれたままの姿のヒナがいる。そしていつもの様に僕に抱き付き柔らかい胸が押し当てられている。
「……」
指で突っついてみても柔らかいだけでなく弾力もあるヒナの胸、突いていると「うううん」と可愛らしい声を出す。
このままだと下半身が元気になりそうなので辞めておく。するとヒナが目を覚ました。
「……ん、んん、優畄?」
「ヒナおはよう。もう朝だよ」
ヒナは寝ぼけ眼で僕を見るとそのままキスをしてくる。
「おはよう優畄。気持ちいい朝だね」
そして、そのまま僕の上に追い被さってくるヒナ。
先程胸を弄っていた事もあり、元気になった僕の息子に気がつくとヒナは、ゴソゴソと布団の中に潜り込んでいく、そして……
(えっ!? ひ、ひ、ヒナさん?!)
そんな事どこで覚えたの?と聞きたくなるテクニックで僕を翻弄するヒナさん。そして部屋備え付けのシャワールームでスッキリして僕たちは気持ちよく朝を迎えた。
ヒナは作られるとき房中術もインプットされていた、きっとヒナ的に僕を喜ばせようと必死なのだろう。
服を着ると、いそいそと旅館の食堂に向かう僕たち。
朝食は他のお客さんたちと一緒で、焼き魚、お味噌汁、胡麻豆腐、糠漬け、卵焼きとシンプルなものだった。
だけど素晴らしく美味しい朝ご飯だった。
「朝ごはんおいしかったね」
そのヒナの一言に、見に来ていた板場の男衆が大いに盛り上がる。
知らない内にファンを獲得しているヒナさん素敵っす。
「こおいうバランスの取れた料理を毎日食べたいな」
(なるほど、こおいう料理が好みなのか……)
僕が何気に呟いた事を聞いてヒナが、何かぶつぶつ言っているが気にしない事にしよう。
そして食事を終えた僕たちは出発の準備をしていた。
まあ、荷物は相棒だったリュックだけなのだが……
今日はボーゲルが言っていた僕らを迎えに来る日だ。
奴がどこに迎えに来るのかも分からないし、奴が本当に来るのかどうかも分からない。
だがどちらにしても、僕らはあの屋敷に帰るつもりはない。
ヒナと2人なら僕の能力を使えばなんとでも生きて行ける。そう考えていた僕だったがこの後、改めて黒石家の恐ろしさを思い知る事になる。
僕たちが玄関に行くと旅館の方々が総出(ちなみに竹下はクビ)でお見送りに出て来てくれた。
「黒石優畄様、ヒナ様、つるべ荘一同お2人のまたの起こしをお待ちしております」
若旦那の特技、90度直立からの直角お辞儀が綺麗に決まる。それを受けて他の従業員たちも直角お辞儀をする。
「み、皆さん……」
「ヒナちゃん、それと旦那、美味いもの沢山用意しておくからまた来いよ!」
「「「ヒナちゃん待ってるぜ!」」」
特にヒナへだが、板場の男衆からもまた来て欲しいとの熱い思いが伝わる。
旅館[つるべ荘]の方々の歓迎の心が伝わる……
「み、皆んな…… 絶対にくるよ。絶対にまた、この旅館に泊まりに来るからね!」
僕たちは皆さんに見送られながら旅館[つるべ荘]を後にした。
スーパーカブに乗り山道を走る僕ら。僕の後ろに座るヒナが泣いて居るのが分かる。
「ヒナ、落ち着いたらまたここに来ような」
「うん、絶対に来ようね……」
予想に反して僕らにとって思い出の地となってしまった[つるべ荘]。
2人は、また必ず泊まりに行こうと強く思うのだった。
 




