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第3話 父の故郷

よろしくお願いします。


桜子と仲直りをした日から3日後、


終業式を終え、校長先生からもありがたいお言葉をいただいた(30分間も喋りやがって……)優畄は、父方の親類がいるという青森方面行きの新幹線に乗っていた。


荷物はリュック一つ分に纏められる程度しか持ってこなかった。


彼はいろいろワチャワチャするのが嫌なのだ



耳にイヤホンを付けて聴く音楽は今時流行りの量産型音楽、前に座る頭のハゲたサラリーマンが遠慮なしに座席を倒してくる。


若い学生だからとナメられているのだろう。まあだからといって優畄は何かをするつもりはない。



(人間、平和主義が1番さ)


フッと桜子との約束が思い出される。


「ああ、やっぱり帰省するの辞めておけばよかったな……」



出るのは愚痴ばかりだ。やっと桜子とも仲直りが出来て、同じ高校進学を目指して仲良く受験勉強、という展開も有ったのかもしれないのだ。


だが、優畄が父方の田舎への帰省を断ろうとした時の母の慌てようが、あまりにも鬼気迫った態度が、彼に帰省することを決断させた。



だって母ちゃん、包丁を持ち出すんだぜ……

「貴方が行かないて言うなら私はここでしんでやるぅ!」て、親の言う言葉かよ。


そのあと彼が止めなければ本当に喉に包丁を突き刺しかねない勢いだったからな。


たかだか帰省するしないであの態度はどうなんだ? 前から思ってはいたが、ウチの母ちゃんは正気じゃない……


ちなみに母ちゃんは1日早く目的地に向かったため今は一緒ではない。



(ハア、なにが悲しくてこんなハゲ親父の頭を見てなきゃならないんだ……)


ハゲ親父の頭の生え際を観察しながら、携帯のアプリで時間を潰して居ると、新幹線が青森に到着したようだ。


新幹線から乗り継いで目的地に向かう。乗り換えてしばらく、電車の窓から外を見れば辺りは田園地帯。店舗どころか民家すらほとんど無い本当の田舎だ。


「……」



お昼ご飯にとおにぎりを買ってきてあったが、食欲がないためとっておくことにする。



2時間ほど電車に揺られていると目的の駅にたどり着いた。


その駅は古い木造の掘建小屋で、人の気配は全く無い。何年くらい使われていないのか、傍にある古い自動販売機がブインブインとうるさくその存在を主張している。



何気に駅の入り口付近に置いてあった思い出ノートなる物を見てみると、なんと最後の日付が昭和58年で止まっている。


それ以来この駅を訪れこの思い出ノートに物事を書き込んだ者が居ないという事だ。


まあ皆が皆、思い出ノートに何かを書く訳ではないからな、訪れても書かない人だって居るさ。


しかしこの思い出ノート、35年の年月を感じさせない程に綺麗だ。シミの一つも無い。


こんな雨風が当たる様な場所にあって不思議な話だ。



ちなみに優畄は35年ぶりに思い出ノートに挨拶を書き込んで置いた。「黒石優畄此処にあり」誰が見るかは分からないが、気分の問題だ。



「……しかし、本当に何もないな……」



駅の前には鬱蒼とした森が広がるだけで、他には何も見当たらない……


唯一見えるのはどこに続いているのか分からないガタガタ舗装の道だけだ。その道の脇には一体のお地蔵様がポツリと立っている。


ここからはバスで移動する事になっているのだが……


バスの時刻表を見ると、1日2本しか走っていないだしく、そのバスの到着まであと1時間は待ちそうだ。



「……こんな寂しい所で1時間も待つのか……」



時刻は午後の4時過ぎ、暑い盛りは過ぎ、森から幾分か涼しい風が吹いてくるようになった。


ミンミンゼミの鳴き声がように哀愁を誘う。



悲しいかな、携帯は電波受信外でまるで用を成していない……


「なんてこった…… これじゃあ桜子とメールのやり取りも出来ないじゃないか……」



この辺りには何故か幽霊すらも居ない。地縛霊でも居れば暇つぶしの話し相手になるのだが。


優畄は気分転換にジュースでも買おうとボロ自販機の前に行く。


こうゆう寂れた場所にある自販機は、大体が売り切れか荒らされているのが常だが、この自販機は売り切れもなく荒らされる事もなく、無事に稼働しているようだ。



「うわ、ラインナップが古くさい…… ファンタの缶ジュースなんて何年前のデザインなんだ? それにこのメガネかけたおっさん誰だよ……」



自販機脇のブリキの看板に描かれたメガネのおっさんに文句を言いつつ、一先ず七三分けの渋いおっさんの顔がデカデカと載っている細長い缶コーヒーを買う事にした。


「賞味期限が過ぎている事もなくてよかったな。しかしこんな古い自販機に誰が補充しているんだ?」



こんな何もない辺鄙な駅に自分以外に降りる者が居るとは思えない。それでも木造駅は風化しておらず、古い自販機も無事に稼働している。



(きっと定期的に誰か整備する人が来るのだろう…….)



この駅に関する疑問は尽きない。


そんな疑問を傍に追いやりつつ優畄は、缶コーヒーを飲みながらベンチに腰掛けバスを待つ。



優畄がバスが来るのをボチボチと待っていると、まだ辺りが明るいにも関わらず、突如として道脇の錆付いた街灯に灯が灯ったのだ。


ジジジパッといった感じに突然灯った街灯。



その瞬間に優畄は、今までの世界とは違う別の世界にスイッチで切り替わったような不気味な錯覚を覚えた。


まだ夏の5時前だというのに、辺りの気温が急激に下がり、周りが暗くなった気さえする。



道の脇にあるお地蔵様に目を向ければ、その足元にお供えられている黒くカビたお団子が目についた。


黒くカビた団子には、何かの甲虫が吸い付いており、腹を満たしたのか何処かに飛び去っていった。


そんな些細な事まで分かるほどに辺りが静まりかえっているのだ。

それまで忙しく鳴いていた蝉の鳴き声も今はまるで聞こえない。



「…… は、早くバス来ないかな……」



気を紛らわせようと適当な事を口に出して言ってみるが、違和感は無くならない。それどころか増す一方だ……


ありがとうございました。

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