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199話 END


「あんたの頼みの綱の黒球は始末した。ここで退くならば殺すだけで許してやるぞ」


権左郎のこれまでの行いは決して許される事ではない。


康之助は最悪、彼が二度と生まれ変わらない様に魂まで滅ぼす事も視野に入れていた。だが邪悪とはいえ康之助にとっては父親でも有る彼に慈悲をかけようというのだ。


殺す事は決定事項、だが魂が残れば生まれ変わる事は出来る。


何百年、何千年後、人間に生まれ変われる事はカルマの関係上あり得ないが、ミミズやナメクジでも魂さえ残っていればやり直す事は出来るかもしれない。



「カッカカカカ! 家族の情、その様なものに囚われておるから貴様はそこ止まりなのだ」


家族や血縁者なぞ権左郎にとっては道具と変わらない。


「悪いな、俺はそんな今の自分を気に入っているんだ、案外悪いもんじゃないぜ」


世界を統べる事も出来る圧倒的な力を有しながら義理と人情に生きる康之助。そんな彼の生き様が、自身のためだけに生きて来た権左郎には理解出来ないのだ。



「フン、貴様がどの様に生きようとワシの知ったところではない。ワシはワシの望むままに全てを統べて見せようぞ!」


権左郎がそう言うや否や、康之助が真っ二つに断ち割った【甚黒魔皇石】が元の球体に復活したのだ。



「何い!?」


「カッカカカカ【甚黒魔皇石】なぞワシの意志一つで思いのままよ!」


そして元の球体に戻った【甚黒魔皇石】が再び蠢き出す。


「ワシと【甚黒魔皇石】は一心同体。もはやワシと【甚黒魔皇石】を切り離す事は不可能なのじゃ!」


そして【甚黒魔皇石】は再びその姿を変えていく。


今度は権左郎の体に吸収され易い様に霧状に変化すると、そのまま彼の体に吸収されていったのだ。


【甚黒魔皇石】の形態変化は権左郎を酷く消耗させたが、康之助との戦いに備えて素早く同化する為にはそうせざるおえなかったのだ。


彼の奥の手的な手段なのだ致し方ないだろう。



「クッ、何と邪悪な……」


「…… 康之助この感覚は」


「ああ、あの次元の狭間に居た魔物と同じだ」


康之助達が次元の狭間で戦った忘却の邪神【ン.グア.エポス】。その力をも取り込んだ【甚黒魔皇石】が権左郎と一体となる事で完全に現世へと体現する。


凄まじいまでの邪悪な暗黒の破流が、康之助達が晴らした空を再び覆っていく。



「カッカカカカ! 素晴らしい! 素晴らしいィィ! この力が有れば、ワシは全てを手中にィィ!!」 


権左郎と【甚黒魔皇石】のセットに、次元の狭間の魔物の邪気まで加わり、急激に権左郎の体が膨張変化していく。


だが権左郎の歓喜と余裕に満ちていた顔が驚愕と困惑の色に変わる。



「ち、力の流入が止まらん!? 何が起きているのだ?! こ、このままではワシの魂が…… 」


一向に止まる事の無い力の流入。そして遂には権左郎の魂の容量の限界を超えてしまう。



「ガアアアアアアアァァ〜!! お、己れマリア! な、わ、ワシに何をしたぁぁ〜?!」


そうこれはマリアの置き土産。


マリアから権左郎への【甚黒魔皇石】の授与の交換条件は、黒石との盟約の解除と決別。


【甚黒魔皇石】を権左郎に譲る事に何の躊躇も無かった。


【甚黒魔皇石】は無き家族と故郷の遺品ともいえるものだが、今のマリアにとっては黒石との繋がりを表す忌むべき楔。


そのため何のリスクも無く権左郎は【甚黒魔皇石】を受け取る事が出来たのだ。


だがマリアはこの【甚黒魔皇石】にある細工を施していた。それは黒石が光と太陽の両方の力と接触した際に黒球が暴走する様に細工を施しておいたのだ。



暴走は【甚黒魔皇石】の新たな主人の魂が崩壊するまで止まる事は無い。


白でも灰色でもダメ。黒く漆黒に染まった球である事と、優畄達の光、康之助達の太陽、この2つの浄化の力に触れる事が発動条件の呪いの様な置き土産。


その確率は極めて低いものだったが、予言にも近いマリアの未来視が可能にしたのだ。


【甚黒魔皇石】が黒ければ黒い程その勢いも強まるというオマケ付きだ。



「…… わ、ワシの魂が……崩壊していく……」


闇で出来ている筈の権左郎の体が、実体を持っている様にチリとなって崩壊していく。


いくら闇の化身とはいえ魂が崩壊を始めているのだ、それは権左郎の存在自体が消滅するという事。


止める事が出来ない自身の消滅に、権左郎はある行動にでた。



「お、己れぇえ…… マリアァァ! こ、こうなれば…… この世界をぉぉ……全ての世界を消し去って………」


権左郎の怨嗟の叫びがこだます。そして死なば諸共の精神から、自身の消滅を起爆剤代わりに更なる力の暴走を引き起こしたのだ。


彼の魂が消滅すると共に爆発的な力が【甚黒魔皇石】に注がれた。それと共に【甚黒魔皇石】の近くに存在する全ての次元を震わせる次元波が放たれる。


次元波は既存する近くに有った次元の世界に多大なる被害を与え、簡易の次元の世界を崩壊させた。


1500年の時を生き、己れの欲望のままに生きた黒石権左郎の最後は何とも呆気ないものだった……


それでも彼は多少なりとも置き土産を残していた。



「ダメ! も、保たない……」


次元波の影響で優畄達が避難していた次元の世界が崩壊して消滅してしまい、2人がどこか知らない次元へ飛ばされてしまったのだ。


「な、なんて事、優畄君達が次元波に巻き込まれて飛ばされてしまったわ……」


「…… 助けに行きたいところだが今は無理だ。なに、奴等なら自力で戻って来てくれるさ」


優畄達を助けに行きたいが眼前で膨らみ続ける【甚黒魔皇石】がそれを許してはくれない。


そんな中、膨らみ続けた【甚黒魔皇石】がかつて次元の狭間で戦った【ン.グア.エポス】と同じ姿に変わる。


その大きさはおよそ10km四方の球体で、あの時の比では無い。



『ギュルルルル〜〜ン!!』


不気味な咆哮を上げながら触手を伸ばして攻撃してくる権左郎の成れの果て。


この魔物に意志は無く、有るのは生きる者への怨念と破壊欲だけ。



「あの時は負けたが今回は負けん! 借りを返すぜ! (優畄、ヒナ、助けには行けないが何とか生き残っていてくれ!)


康之助とイーリスはこの戦いは自分達の戦いだとばかりに力を解き放つ。あの時の借りを返すため彼等と魔物との、負けられない第二ラウンドが始まったのだ。


ーー


次元波の衝撃に巻き込まれた次元にまで吹き飛ばされた優畄とヒナの2人。


イーリスが千姫がヒナに渡した母子健康の守りの護符に、更なる守りの効果を付与していたため彼等は死ぬ事なく、ある次元のある世界に飛ばされていた。


彼等は光で出来た球体状の防護壁に包まれながら、ある森の奥にある小屋の上空に出現した。


そして静かに降下して来ると彼等を地上に下ろすと共に、光の防護壁はその役割を終え消滅した。


何事かと小屋に住んで居た、狸の親子が顔を出して様子を伺う。


そんな中ヒナが最初に目を覚ました。



「…… こ、ここは……」


先ず最初にお腹の赤ちゃんの無事を確認した彼女は、次に相棒の優畄の無事を確かめる。


そして周りの安全を確かめてやっと安堵のため息を吐き出す。


小屋の中からこちらを伺っていた狸の親子を見つけたヒナの顔がパッと明るくなる。



「狸の皆さんこんにちは。可愛いお子さんだね、私にも新しい家族が増えるの」


小屋の中からチラチラとこちらの様子を伺う狸の親子に挨拶をするが、狸達は小屋の中に引っ込んでしまう。


今のヒナの力は全盛時の2割程、それでも自衛をするだけなら何の問題も無い。



「ここがどこだかは知らないけど、一先ずは安心ね…… 」


草原の中、自身の膝の上で眠る優畄の頭を撫でる。



「……う、ううん…… 」


そうしていると目を覚ましたのか優畄が唸り声と共に目を開いた。そして膝枕をしているヒナと目が合うと困惑の色をその目に宿す。



「おはよう優畄。体の調子はどう?」


「…… き、君は……」


しばし呆けながらヒナをマジマジと見る優畄。



「ゆ、優畄?」


そして優畄は何を思うのか、彼女の目を見つめたままにゆっくりと口を開いた。



「…… 眠いんだ…… とても、とても……」


「今はゆっくり寝ていて、これからの事は後で考えましょ」


ヒナは愛しむ様に優畄の頭を撫でるとその額におやすみのキスをした。



「……ああ…… ありがとう…… 」


優畄は気持ち良さそうに目を閉じる。



( ……この優しい人が誰かは分からないけど、今は眠いんだ…… 本当に眠い………)


ヒナが子守唄代わりに彼の頭を撫でる中、優畄は眠りに着いたのだ。



end



このお話をお読みの皆様、長々とお読みいただきありがとうございました。


このお話はこれでお終いです。


次回作はいつになるか分かりませんが、興味がおありの方は是非、是非おいでください。









このお話はこれで終わりです。

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