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198話 太陽


もはや殴り合いや技の出し合いの様な小細工を用いたレベルの戦いではない。それぞれが光と闇とに分かれて争う神話レベルの戦い。


この戦いは至極シンプル、鬩ぎ合いに勝った方が勝者でありこの世界のその後を左右するのだ。


ぶつかり合った光と闇は互いに天を2分して、まるで綱引きの様に光と闇がその領域を鬩ぎ合う。



「夢畄、ヒナさ〜ン、負けてはなりませ〜ン。生きとし生けるもの全ての為に頑張ってくださ〜イ……」


10体居た【アラガン.ハー】を全て討ち倒し、上空の光と闇の戦いを見守るボブ。もはや彼に出来る事は、2人の勝利を祈る事だけ。


光と闇の鬩ぎ合いは千姫達が避難している次元でも見る事が出来た。それは千姫の使い魔【次元梟】の、【現視】という空間を越えてビジョンを映し出す事が出来る能力によってだ。


この【次元梟】は次元の狭間に住むといわれ、彼女達仙狐の使い魔として古くから飼い慣らされていたものだ。


サポートなら随一の能力を持つ千姫。今この時だけは自身が戦闘職でない事を悔しく思う彼女。


千姫達もそのビジョンに映し出された映像を、皆一様に祈る様に見入っている。


皆一瞬たりともビジョンから目を離さない様食い入って見ている。世界の命運が彼等にかかっているのだ、それも無理からぬ事。


「…… (妾達には祈る事しか出来ぬ…… 優畄、ヒナ、ボブ、どうか皆無事に帰って来ておくれ)


彼等以外にも生き残った人々や、野に住む人外の魔物達も固唾を飲んで光と闇の激突に見入っている。


その光と闇の激突も優畄とヒナの2人の力によって均衡を保っていたが、時間と共にその均衡が崩れてきた。


光を追い払うかの様に闇が勢いを増し飲み込もうとしているのだ。


「い、いかん! このまま押し負けてしまっては、優畄達が消滅してしまう……」


2人とはいえ万全の状態ではない優畄とヒナ。方や権左郎はリンクしている【甚黒魔皇石】から常に力の流入があるのだ。


今の優畄達は例えるならば回転するミキサーの中に閉じ込められた様な状態。このままでは闇の勢いに飲み込まれて千切れ千切れになり、闇に吸収されて消滅してしまう。


もはや2人の光はか細い燈を残すのみとなっていた。


ビジョンに見入り優畄達の勝利を信じて祈って居た者達、空を見上げて祈っていた者達、彼等の脳裏を絶望が塗り潰していく。


そう、光は敗れたのだ。



「そ、そんな……」


「…… 終わりだ…… 」


「「「………」」」



誰しもがそれを実感し、闇に飲み込まれて行く光を呆然と眺めていた……


闇の時代の訪れを思わせる様に最後の燈が闇に飲み込まれていく。そして最後の瞬きを残して光は闇に飲み込まれてしまったのだ。



「カッカカカカ! これで邪魔者はおらぬ。まだ息がある様だが、それも闇に吸収されて終わりじゃ」


権左郎が勝利に酔いしれ甲高い笑いを上げる。


「もはやワシを止める者は居らぬ。さあ【甚黒魔皇石】よ、我と一体となりこの世を暗黒で満たそうぞ!」


権左郎が上空に有る【甚黒魔皇石】を呼び寄せる。ついに権左郎と【甚黒魔皇石】が一体となる時が来たのだ。


昇魔の時、これから闇がこの世を、全ての次元に存在する世界を覆い尽くす。


そして暗黒の時代が幕開けするのだ。



暗くジメつく暗黒の闇の中、2人は生きて居た。


意識は無く、か細い僅かな光に包まれて、ギリギリの瀬戸際で消滅せずに残っていたのだ。


彼等を助けたのはまだ意識もなく、人の形すら模っていない幼生の2人の子供。


意識は無くとも本能で両親の危機を感じとった彼が2人を守る為に力を使って守っているのだ。


吹けば消し飛びそうなほんの僅かな命の燈。だが吹けば消えそうなその燈は力強く慈愛に溢れ、2人を優しく包み込んで守っている。


このまだ幼生でしかない優畄とヒナの子供は、2人を超える光の力を有しており、その片鱗を見せてくれた。


それでも幼生でしかないその体では無理がある。もって後10分、それが限界だろう。


意志を持たぬ幼き身だが、両親を守るため小さな光の燈を燈続けるのだ。健気に、勇敢に、そして儚く。


そんな中でも権左郎と【甚黒魔皇石】の同化は進んでいた。


暗黒の太陽を思わせるその邪悪なフォルムは、闇の時代の到来に相応しくこれから幾百、幾千の悲劇を繰り返すだろう。


「あと少し、あと少しでワシは【甚黒魔皇石】と一つとなり、【暗黒経王】と成りてこの世に君臨するのだ!!」


優畄達を退けた事で実体化した権左郎。【甚黒魔皇石】との同化も最終段階に入り、勝利の雄叫びを上げる。



「そうはさせん!」




だが突如として彼の背後にある【甚黒魔皇石】が突然真っ二つに断ち割られたのだ。


それと共に突如として天空に現れた輝かしい太陽が眩い浄化の光を放ち、闇を浄化して行く。



「な、何ぃぃ!?」


突然の出来事に驚愕する権左郎の前に眩いばかりの光の鎧を纏い、天から舞い降りて来た康之助がその刀を向ける。


「久しぶりだなジイ様、あんたの暴挙を止めに来たぜ」


「ヌククク…… 康之助、貴様はあの次元の狭間で息絶えたはず…… 」


マリアからの情報で、康之助は次元の狭間に住む邪神崩れの魔物に敗れて太陽の巫女共々に消滅したと聞いていた。


「おのれマリア! ワシを謀ったな…… 」


ここでの康之助の復活は大誤差。彼を、康之助を警戒して彼がこの世界にいる間は権左郎も動く気はなかった。


それ程までに太陽神の御子を恐れていたのだ。


光の御子への対策は、かつての敗北とこれまでの経験値から、自身を闇へと変化させる事で対応した。


当主候補達を捨て駒に使って優畄達の力を削ぐ事も上手く行った。


一度は別の次元に追い出したのに、戻って来られた時は参ったが、結局は権左郎に敗れたのだから問題はない。


唯一の問題が康之助の存在だったのだが、マリアからもたらされた吉報が彼に今回の【昇魔の儀】の決行を決断させたのだ。


康之助の高温を伴った太陽の力は権左郎にとって正に天敵に等しい力。これまでは太陽の巫女を人質に彼を抑え利用して来たが、その太陽の巫女も解き放たれてしまった。


特に一万度を超える浄化能力を宿した超超高温は、優畄達光の御子対策で侵食率を高めるため、生体属性を与えている闇にとって唯一の天敵と呼べる力なのだ。



「ウヌヌヌヌ…… 」


この予想外の出来事に権左郎は唸る事しか出来ない。


イーリスは彼女自身が太陽の様なもの、彼女の放つ神気が辺りの闇を晴らしていく。


そして……


「康之助、3人は無事よ。私のテリトリーに保護したわ」


戦闘中なため絶対とはいえないが、イーリスは比較的安全な次元に優畄達を避難させたのだ。



「3人?」


「女の子が妊娠しているの」


「! そうか…… この仕事が片付いたらアイツらを祝ってやらなくちゃな」


康之助が優しい微笑みと共にそう言うとイーリスにサムズアップをする。そしてジロリとばかりに権左郎を睨み付ける。



「優畄達には悪いが、俺が代わりに決着を付けさせて貰う」


イーリスを人質に取られていたとはいえ、権左郎達の言いなりになっていた康之助。そのツケを今払おうというのだ。


康之助の両腕は刀状に変化している。この【武威変化】は本来黒石の能力で使う者の心身を侵食する。


だが康之助は、自らの意思だけで黒石の侵食を食い止めて、この【武威変化】を自らの能力に取り込んだ唯一の男。


彼の振るう刀は数万度の高温を有し、放つ斬撃は次元すらも斬り裂く無双の剣。


権左郎が長い年月の中、自らの一族の者で唯一恐れた男が敵として自身の前に立つ。


黒石権左のはその事実に戦慄を覚えながらも、最後の障害となる康之助を見るのだ。


その目には決して諦めないという強い意志と、邪悪な算段の色が伺えた。




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