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196話 前進



優畄達は元の世界にゲートを繋げて戻って来た。


彼等がゲートから出て見ると、そこは廃校となった何処かの小学校の、草が生い茂った夜のグラウンドだった。


優畄が万全の状態ではなく細かな座標指定が出来なかったため、日本列島の北東に大まかな座標を設定したためだ。



「カシオペア座が見える……」


だが空の星座と北東の空を覆う暗黒の渦で、ここが日本列島で間違いなさそうだ。


ここら辺は東北地方ではなく中部東海地方だろうか、月明かりに照らされ高い山岳の畝が暗闇のなかでも見えた。



「優畄……」


「ああ、ここがどこかは分からないが、俺達が飛ばされる前より暗黒の範囲が広がっている……」


優畄達が飛ばされてから9日、黒石の土地だけを覆っていた暗黒はかなりの広範囲に及んでいると思われる。


南西の星座が綺麗な夜空と北東の暗黒の渦の対比が何とも不気味だ。


こちらの世界へのゲートを開いたせいか、頭の中に靄が張った様な嫌な感じがする。ヒナの容体も気になるし、少しでも体を休められる場所を探す事にした2人。


一先ず優畄達はここが何処だか知る為に、上空高くまで舞い上がり辺りを見回す事に。


「西の方角に大きな町が見えるね、一先ずあそこに行って情報を探ろう」


優畄達が町に向かうと至たる所々で、黒いマトリョーシカの様なシルエットで、全体から触手が生えた【シーカー】という化け物が暴れ回っており、化け物から襲われ逃げようとする人々の阿鼻叫喚の叫びが響いていた。


「化け物は俺が引きつける! ヒナは後方で怪我人の治療を」


「了解!」


ヒナの体を気遣って後方支援を任せて、化け物を蹴散らして行く優畄達。


並の人には脅威だが、優畄にとっては地面を歩くアリゴの様なもの。あっという間に人々を襲っていた化け物を駆逐していく。


そんな優畄達の前に、闇の球に触手と無数の目玉が有る10m程の化け物【黒海星】(デカラビア)が姿を表した。配下の化け物が駆逐された事で、空間に姿を隠していた姿を表したのだ。


「コイツがこの化け物共の親玉か!」


「優畄!」


「大丈夫だ、コイツは俺1人で片付ける」


優畄が刹那の間にデカラビアに近づくと、闘気を込めた拳の連撃を放つ。


光の力を使うと頭に靄が掛かるため純粋な戦闘だけで仕留めようとしたのだ。


だが、デカラビアは全身に高濃度の闇のバリアの様な膜を張っており、小隕石の衝突に匹敵する優畄の攻撃を弾いたのだ。


「チッ! この闇のバリアは光の力でなければ破れないのか」


初激で闇のバリアの性質を見破った優畄は、迫り来る触手と目からのレイザーの様な攻撃を交わしながら再び接近すると、今度は光の力を宿した拳でデカラビアを殴りつける。



『ボオォォォォォォォ……』


優畄の攻撃を受けてデカラビアは、一欠片も残らず消滅した。


デカラビアを倒した事で残っていた化け物も消えてなくなり、どうやら町は救われた様だ。


「このまま北上しよう」


「ええ、行きましょう」


それからも優畄達は通り道に有る化け物に襲われている村や町を解放して北上を続けた。


今の優畄達なら音速を超えるスピードで移動しても負荷はない。そのためかなりのハイテンポで進んで来た2人は、5時間程で精神会館の有る町に到着した。


優畄達の思い出が残る町も化け物の大軍に破壊されて当時の面影はない。


アイスを買ったコンビニも、一緒に食べに行ったラーメン屋も全て破壊し尽くされているのだ。



「……そんな、皆んなの町が……」


「…… 一先ず精神会館に行ってみよう、皆んなが無事かも知れない」


希望的観測でしかないが無事であって欲しい、そんな願いと共に精神会館に向かう彼等だったが現実は無常だ。



「そ、そんな……」


「皆んな……」


精神会館が有った場所には一つ目で漆黒の巨大な化け物【キュクロプスオメガ】が何体も居り、建物は一つ残らず破壊されていた。



「ウオォォォォォォォオ〜!!」


雄叫びと共に駆け出した優畄は体長30mはある【キュクロプスオメガ】を殴り爆散させる。


優畄は僅か5分程で全ての化け物を打ち倒すと、町を覆っていた闇に光の力をぶつけて相殺し、町から闇を払ったのだ。


だがそれと共に優畄の心の中で何が割れた感覚がした。


何か大切な物が彼の中で壊れていく感覚。


優畄は小学生から中学生までの記憶を全て忘れてしまっていた。


人間だと思っていた幽霊の友達の記憶、忘れ難い桜子との淡い恋の記憶、彼が気付かぬままに大切な何がまた一つ、優畄の心の中から消えていったのだ。



「…… 」


自分の中で何が起きているのか理解出来ずに、しばし呆然と佇む優畄の元にヒナが歩み寄り、その手を強く握り締めてくれる。


彼と魂で繋がっているヒナにも彼の強い戸惑いが伝わって来たのだ。



「…… ヒナ?」


「大丈夫。優畄には私が付いているからね、絶対に離れないからね」


自分の中で何が起きているのかは分からない。それでも彼女さえ側に居てくれれば……



「ヒナ…… ありがとう。君さえ居てくれるなら、俺は何度だって立ち上がってみせる」


先程まで伝わって来ていた不安な感情は無くなった。それでも一抹の不安は消えないヒナであった。


その後生き残った者は居ないかと町中を探索する優畄達は、これまた町の生き残りを探しに来たボブと再会したのだ。



「ボブ! 無事だったんだね」


「ボブさん、良かった……」


「オ〜ウ! 優畄にヒナさ〜ン、2人ならァ無事に戻って来るとォ信じていましたァ……」


久しぶりの再会でボブから熱い抱擁を受ける2人。


「ボブさん、ほ、他の人達は無事なの?」


千姫や加奈を心配したヒナがボブに聞く。


「ハ〜イ、皆さん元気で〜ス。花子の作ったァ箱庭で生活していま〜ス」


皆の無事を聞いた優畄達に安堵の色が浮かぶ。特に身籠のヒナは不安も人一倍感じるだしく、喜びを隠せない。


「さあ皆の所へ案内しま〜ス。着いて来て下さ〜イ」


千姫達が居る世界へは焼け落ちた神社の裏庭に有る古井戸から行けた。


その世界は急拵えとはいえ、緑溢れる中に何軒かの藁葺き屋根の家が建っている。


家の周りには食べられる木の実がなる木が生っており、食べ頃なのか甘く優雅な香りを辺りに放っている。


避難して来た人々が後から来た人々に毛布や食料を配ったりしている中に加奈の姿を見つける。


「ゆ、優畄君! ヒナちゃん! 2人共無事だったのね」


優畄達の姿をみた加奈が両手に持った荷物をほっぽり出して2人の元に駆け寄る。


そして妹の様に可愛がっていたヒナを抱き締めた。


「加奈さん…… 無事で良かった……」


しばしヒナを抱きしめていた加奈が優畄の元に歩み寄る。


「元気そうね優畄君、2人が無事で本当に良かった……」


思わず優畄も抱き締めてしまう加奈。それ程までに彼等の無事が嬉しいのだ。


「お久しぶりです加奈さん、ご無事で何よりです」


優畄達が加奈と再会を分かち合う中、ボブが彼等に歩み寄る。そして


「さあ花子が待っていま〜ス、会いに行くで〜ス」


この世界の中央に建つ他より一回り大きな家に千姫は居た。そこは怪我を負った人々を癒す場所で、何人かの怪我人が横になっていた。


その中で千姫は、生き残っていた医師や看護師の人達と忙しく動き回っており、その顔にも疲労の色がうかがえる。


彼女がこちらを見る。優畄達をその視界に捉えると疲れきった目に生気が漲っていく。


「おお…… 優畄、ヒナ! よ、よくぞ戻ってきたのう……」


「千姫さん、戻ってきましたあ……」


「無事に戻って来たよ千姫さ〜ん! 私達戻って来たんだよ!」


そして3人は久しぶりの再会を喜び合ったのだ。










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